それは背中を撃つ言葉
人間関係は難しい。
血の繋がった家族でも分かり合えることが無いのなら、赤の他人なんてもっと難しいだろう。それほど、人間関係と言うのは慎重にならなければならない。
どれだけ気を付けても、甘えが出る瞬間がある。それをちゃんと謝罪出来るかどうかはその人次第だろう。
『20代女、既婚二人の子持ち。私には弟がいますが、その弟も結婚しています。弟が結婚した際、弟嫁さんと意気投合し親友と言う間柄になりました。弟嫁さんにはお姉さんがいて、かなりコミュ強な方です。弟嫁さんからしたら義実家の人間にもよくしてくれる方で、いつしか良い友人となりました。ですが、私とお姉さんが仲良くしているのを弟嫁さんは良く思ってないようです。何か姉妹の間で齟齬でも生まれたのかと話し合いをしましたが、あまり改善しませんでした。妹の義実家の人間とも仲良く出来るお姉さんと言うのは素敵だと思いますし、あんないいお姉さんはいないのに何故二人の仲は拗れてしまったのでしょうか。カケデラさん、何か分かりませんでしょうか。』
『あなたの話の内容から分かることと言えばまあ一つしかありませんよ。あなた、別に弟嫁さん…お姉さんが出てくるのでこれからは妹さんと言いますが、妹さんの親友と言うのは嘘だということです。』
その言葉に、画面の向こうにいる相談者は絶句した。親友じゃない?何故?どうして!
『毒親や毒兄弟、毒までいかなくても根本合わない家族と言うのはいます。そんな相手との関係に苦しみ、辛い、助けてくれと言う人に、外側しか見ない人は必ずこう言うんですよ。「あんないい家族なのに何が嫌なの?」と。』
その言葉は、先ほどの相談の中にもあったし、相談者自身も妹さんに言ってしまった言葉であった。どんどんと青褪める相談者。
『誰かにとって毒となる家族と言うのは、恐ろしく外面が良いんですよ。モラハラする人の外面が良いに近いですね。その辛さを知るのは、家族ゆえに中々逃げられない人だけです。あなた、妹さんの辛さを分かろうとしませんでしたよね。だってあなたは妹さんの親友と言いながら、結局お姉さんの肩を持っているのですから。』
『家族関係や人間関係に悩んでいる人がいるのなら、その悩みを決して否定してはいけない。あなたは相手ではないのですから、その辛さが真に分かるはずがない。分かりもしない辛さに対し「でもあの人良い人なのに」はただの攻撃です。その良い人の部分は、赤の他人であるあなたに見せている外側でしかない。内側を知る関係者はもがき苦しんでいるのに。』
『本当に親友なら、悩んでいる相手に寄り添い解決策を一緒に探すか、相手が間違っているなら縁を切る覚悟で忠告するかです。あなたはそのどちらもしていない。それどころか悩みの対象であるお姉さんの肩を持ち、敵になってしまった。自分から友人を奪い楽しそうにする姉。その姉の肩を持つ自称親友。そんな真綿で締められるような人間関係、誰が喜んでしますか。』
『もし、お姉さんが妹さんから「私の人間関係に入ってこないで」と言われていたとしたら、また話は変わってきますよ。あなたの言うあんなに良いお姉さんは、妹がやめてくれと言った嫌がることを平気で続ける無神経野郎ですからね。本当にお姉さんが良い人かちゃんと見もしない人に、姉妹の間を取り計らうことは出来ないでしょう。』
『家族の多くは、24時間365日同じ屋根の下で暮らしているんです。高々遊びの数時間、長くても泊りの旅行で2泊3日くらいしか一緒にいない友人と、同じ家でずっと一緒に暮らしていた家族。どちらが本性を知っているかなんて分かり切っています。』
『本当に妹さんと親友でいたいなら、彼女の苦しみをちゃんと聞き、否定せず、寄り添うこと。それが出来ないならもうあなたは親友でもなんでもない、ただ自分の背中を撃ってくる敵でしかないんですからね。』
あまりのボコボコ具合に放心状態になってしまった相談者。だがすぐに気を取り直し、姉の方の様子を窺ってみることにした。
確かに姉はコミュ強で物怖じしない人だ。しかし、たまにその距離の詰め方に眉をひそめる人もいた。
それでようやく気付いたのだ。姉の距離の詰め方を嫌だと思う人がいるということを。
相手がやんわり断っているにもかかわらず、良いから良いからと話を聞かずに進めてしまう節も見受けられた。
あぁ…これは確かにしんどい。この人はコミュ強ではなかった。相手の快不快をくみ取ることの出来ない、時に無神経をしてしまう人だと。
それに気付き、やっと妹に謝罪したが「もういいよ…」と、転職・引っ越し・住所は知らせないをされた。そう、そこまで妹は追い詰められていたのだ。相談者の弟は妻の精神の安定のために、そこまでの手段を取ったのだ。
もう繋がる方法は弟の携帯電話しかない。妻である妹の方は番号が変更されていた。
かろうじて繋がる連絡で、やっと詳しい話を聞き、冷静に物事を見れた。
また親友に戻れるかは分からないが、今はただ背中を撃ってしまったことを詫び、彼女の心が落ち着くのを待とう。
相談者
弟嫁とその姉の仲を取り持ちたかった人。
しかし実際は姉の肩を持ち、弟嫁の背中を撃ってしまった。それがどれだけ無神経だったかを今身をもって感じている。
ちなみに姉の悪い面を指摘してみたが「え?何か悪いことした?」とまったく反省していない様子に、顔が真っ青に。
今は弟夫婦とは距離を置き、弟を介したやり取りで少しずつ信頼を取り戻している。
カケデラ
人生相談系動画配信者。
人間関係のあれこれは当事者にしか分からない不快感や悩みがあると言う。
人間は外面を繕うのが得意な生き物なので、外野から見た「良い人」は基本信じていない。
本当に良い人なら、その家族がそこまで苦しんでるのはなんでや?と背中撃つ人に言いたい。