無償であって無限ではない
『17歳学生、男。私の両親は私が小学生の時に離婚していて、最初は母親と兄と一緒に暮らしていました。ですが、自分が母親に暴言を言ってしまったことで父に引き取られることになりました。その後母親とは一度も会ってないですし、会いたいと言っても会いたくないと返されてしまいます。もう母親は私をどうでも良いと思ってるんでしょうか。』
『暴言ねぇ…。詳しく書いてないですけど、この暴言っていくつの時にどんな内容のを言ったんですか?それを追加で書いてください。』
カケデラの元に来た相談は、離婚した母親が自分と会ってくれないというもの。
原因は明白。細かい内容はまだ分からないが、暴言を言ったとあるからそれのせいだろう。細かく内容を書けとは言ったものの、多分どう動いても母親の愛は戻らないだろうなぁとカケデラは思っている。
『あ、追記来ましたね。えっと?お前となんて一緒に居たくない、嫌いだ、死ね。こんな言葉を9歳の時に言ってしまいました。………まあ分かり切ってるでしょうけど、あえて言いますね?そんなの愛されなくなるに決まってるでしょうが。』
『確かにまだ子供だと庇える年齢ではありましたけど、だからって言っていいこと悪いことくらい区別がつく年齢ですよ。家族に対して言ってるから表向き問題になってないですけど、これを他人、学校の同級生とかに言ってたら絶対に問題になってますよ。どこからどう見ても酷い暴言でしかないんですから。』
『死ねまで言われて許せる人間いるわけないでしょう。良いですか?親からの愛は無償ではあるけれど無限ではないんですよ。見返りを求めないから無償ではあるけれど、暴言吐かれても与えてくれるような無限の愛ではない。そもそも暴言吐かれてそれでも愛をくれる人などこの世にはいない。母親の愛は、あなたが吐いた暴言で全て枯れ切ってしまったんですよ。』
『ところでこれも書いてないですけど、そもそもあなた謝ったんですか?母親にあの時は申し訳ない、暴言を吐いてごめんなさいときちんと謝ったんですか?どうなんです?』
再び追記のチャットが来たが、そこには「謝ってません…」と書いてあった。これにはカケデラもブチギレ。
『謝ってないって…結局あなた、本当の意味で母親に申し訳ないって思ってないじゃないですか。暴言を吐いてしまったと認めてるなら、すぐさま謝罪する行動を取るでしょうに。それをしてないってことは、心の底では反省してないか、母親の愛は無限にあると思っているかでしょう。無いですよ、そんなもの。先ほども言いましたが、愛に無償はあれど無限はありません。あなたが枯渇させたんですよ、母親の愛情を。謝りもしない、反省もしない暴言吐く息子に会いたい母親なんぞいません。会うのは諦めなさい。』
カケデラはきっぱりと諦めろと言った。それに対して「でも子どもだし…」「母親なら!」といったチャットも出たが、カケデラはそれでも意見を曲げない。
『相談者さんもそうですが、リスナーの中にもいるみたいですね。母親の愛は無限だと思っている人。絶対にないですよ。そもそも母親だって人間なんです。人間相手に許されない行動を取ったのならこうなっても仕方ないでしょう。もう一度言います。』
『無償の愛はあれど無限の愛はないです。』
そう言い切られ、相談者はチャットする手が止まった。
分かっていた。
彼はたまに面会で会う父親が自分を甘やかしてくれるから、口うるさい母親といるより父親と一緒にいる方が好きに出来ると思っていたのだ。しかも父親は母親の悪口を言って相談者に吹き込んでいた。子どもだった彼はその悪口を真に受け、楽な方に流れた結果無償の愛を失った。それでも、誰かに「そんなことないよ、きっと愛してるよ」と言ってもらいたかったのだ。
だが、そんな都合のいい話などこの世にはない。
悪口を吹き込んだ父親が諸悪の根源だとしても、言ってはいけない、やってはいけない一線を超えたのは誰でもない自分なのだと。
カケデラは無償の愛はあれど無限の愛はないと断言した。謝罪をしてない相談者が愛を受け取れるなどないのだと。
相談者は震える手で必死にチャットを書いた。父親が甘やかし悪口を吹き込んでいたこと。歳を重ね、それがおかしいと思っていること。母親にどう謝ればいいかということ。
最初は慰めてくれるかも、と思いつつチャットをしたが、今は心底反省している。全て自分が悪い。父親は間違いなく悪いが、それ以上に暴言を吐き母親を傷付けた自分が悪いのだと。
『………家を出る準備をしたほうが良いですね。元とは言え配偶者の悪口を子どもに吹き込む父親がまともとは言えない。まずは距離を取るんです。それと謝罪方法ですが…簡単ですよ。』
『ごめんなさいと、ただそう言うんです。面と向かっているなら頭を下げて、電話やメッセージしか出来ないなら言い訳せずに謝罪だけ言うんです。そして、許されても許されなかったとしてもそれがあなたの罪です。一生それを背負い、二度と同じ過ちをしないよう生きていくんです。二度と人に暴言を吐かないと決め、生きてください。』
暴言を吐き母親を傷付けたことは一生の罪。例え許されようと一生背負って生きなさい、カケデラはそう伝えた。
相談者はパソコンの前で泣きながら後悔と反省をしていた。
自分に無償の愛をくれる母親から愛を消し去ったのは自分。ここで真に反省しなければ、また同じことをして愛する人を傷付けることになる。
相談者はスマホを取り出し、母親にメッセージを送った。「あの時暴言を吐いてごめんなさい」と。
返信が来るかどうかは分からない。けど、やっと自分の罪と向き合えるような気がした。
相談者
母親に暴言を吐いたことで愛を消し去ってしまった人。
父親が甘やかし母親の悪口を吹き込んだことで粗暴になってしまい、最終的に母親を捨て父親を取る形になってしまった。
カケデラに相談しボッコボコに厳しく説教されたことで、やっと自分の罪と向き合う覚悟が出来た。
母親に謝罪のメッセージを送ったが、許されたかどうかは彼にしか分からない。
カケデラ
人生相談系動画配信者。
愛に無償はあれど無限はないと言い切る。親の愛情に胡坐をかき、酷い態度を取ったらそら愛も枯渇するわ。
子どもであれ暴言暴力は許されるものではない。それで親をやめてしまった人もいるが、仕方がない。だって親も人間だもの。親だからってなんでもかんでも子どものしたことを許せる訳じゃないと知っている。
なので母性神話的なのは一切信じてない。母性愛はあっても枯渇するようなことしてたら見捨てられてしかるべきなので。




