可能性を潰してやれ
「俺50kgある女無理www」
「それなwww妊婦とかただのデブだしwww」
随分と不快な言葉が聞こえてきた。カケデラは息抜きにコーヒーを買いにコーヒーショップへ立ち寄っていた。そこへ来て、この不快な会話。
たまたま居合わせたカケデラのマネージャー・井上も、その聞こえてきた会話に青筋を立てて怒りをあらわにしている。マネージャーは既婚者で、子どももいる人。そりゃあブチギレものだろう。
「何考えてるんでしょうね、あの手の人って。」
『女性の体重は40kg台が一番とか考えている無知で可哀そうな人なんです。おつむが弱いんでしょう。』
テイクアウトしたコーヒーとお菓子を会社で食べながら、先ほど聞いた不快な会話に対して愚痴る二人。ちなみに会社はカケデラが所属する配信者事務所のことです。
『昨日もありましたね。妊婦さんに向かって太ってるだのデブだの言う人の話。』
「耳を疑いましたよ。そんなこと言う人がいるのかと。」
『いるから相談が来るんでしょうねぇ。』
はぁ胸糞悪いと、二人はお菓子を口にする。
『30代女、既婚。私には既婚の弟がいます。弟の奥さんが妊娠しているんですが、その奥さんに対し弟の暴言が酷くて悩んでいます。弟は細身の女性が好みで、確かに奥さんも細めの人です。ですが、まさかの妊娠して臨月でお腹が出ている妊婦の奥さんに「痩せろ」「太った」「デブ」など暴言を吐くのです。そもそも妊娠は体重も体形も変わるものですし、それは太ったということでもありません。何度も注意しましたが「デブにデブと言って何が悪い」と聞こうとしません。カケデラさん、どうすれば奥さんを守れるでしょうか。姉の私が出来ることは何かありますでしょうか。』
『そうですね。残念ながらあなたの弟さんはもう修復は不可能です。妊婦さんに向かってデブ、痩せろと言えるような人に人の心は無いでしょう。でしたら、奥さんを守るために証拠を集めてあげるのはどうでしょう。』
『意識改革が不可能なら待っているのは離婚。奥さんに暴言を吐き、妊婦に痩せろなど命に関わるようなことを言った証拠を取るんです。動画・音声、あと日記もいいでしょう。必ず証拠を取ってください。奥さんが臨月なら、今離婚の準備をするのは危険です。無事に出産し、体調が戻ってから動くのが良いですね。』
『そして何より、今のうちに奥さんに離婚を勧めるのが良いかと。子どもが生まれれば変わってくれるかもと思っていたら、それを否定してください。こんなことを平気で言える人間が、たかが子どもが生まれたぐらいで変わるわけがない。それこそもし子どもが女の子でしたら、その子にも平気で言うようになるでしょう。ふくふくしている姿が可愛い乳児の頃ですらデブと言いそうな人ですからね。思春期の体形が変わる時期なんて格好の餌食でしょう。子どもを暴言のサンドバッグにしかねない。』
『そしてもし、離婚が上手くいきましたら、その証拠は捨てずに取っておくのが良いでしょう。弟さんが離婚後再婚でもするのでしたら、その相手に動画や録音を聞かせるんです。妊婦に暴言を吐くような人に、配偶者も子どもも必要ない。被害者を出さないためにも、それくらいのことはしていいです。』
『人間は、骨や内臓だけで平気で30kgを超えます。身長が高かったり骨太ならその分重さは増えます。そこへ筋肉や脂肪を付けて40kg?そんなこと出来るわけがない。人間と言う生き物自体を理解出来てないから平気でデブなど言えるんです。その間違った価値観、子どもならまだしもいい大人が今さら直せるわけがない。相談者さん。』
『弟さんを切り捨てる覚悟を持ってください。家族の情はあるでしょうが、もう弟さんは救える時期を過ぎています。妊婦とお腹の子どもの命を軽く見るような人に、可能性は残っていません。』
『彼らはあの相談者さんの弟さんと同じです。あれだけ成長してなおあんなことが言えるなら、誰も彼らに手を差し伸べてくれない。人の命を平気で危険にさらす人に、未来はない。』
「それで良いんですよ。俺は奥さんが妊娠出産したとき、めちゃくちゃすごいと思った。つわりを始めとしたさまざまな体調不良。命がけの出産。それだけのことをした人にデブなんて馬鹿げたこと言えやしませんね。」
『それが普通なんですけどね。まったく…どこで間違ってしまうのやら…』
「誇大広告なんかも原因の一つかなと思いますね。何が「目指せ40kg台」だ。体重書けばいいとでも思ってんのかこの野郎。」
『ルッキズム問題が叫ばれていますし、そういうのはどんどん無くして欲しいですね。大事なのは健康ですから。』
ちなみに相談者のお姉さんは、無事に弟夫婦を離婚に導いた。暴言の記録が役に立ったそうだ。
もちろん弟にその後良縁など来ず。来そうになれば証拠を見せて徹底的に潰していく。妊婦に暴言を吐くような人間と結婚したいという人はいやしない。
そこまで来てようやく事態の重さを理解してきた弟のようだったが、もう手の施しようはない。
だって誰も、彼を助けようとは思わないのだから。
相談者
妊婦の奥さんに暴言を吐く弟持ち。家族の情があったため、弟をまだどうにか出来ないかと思っていたがカケデラの言葉で目が覚めた。
怒り心頭だった両親と一緒になって証拠を取り、奥さんの出産後に離婚の手伝いをした。
養育費・慰謝料は一括で払わせ、弟に来そうな縁談は全て潰している。
そこまで来てようやく弟は過ちに気付き始めたが、もう戻れない。情が憎しみに変わってしまったので、家族との和解も無理だろう。
カケデラ
人生相談系動画配信者。
過度なルッキズムに辟易している。その手の相談はかなりあるため、そんなこと言う人とはお別れしなさいと答えている。今すぐ物理的に距離が取りにくい場合は、必ず離れる準備をしなさいとも言っている。
ちなみにコーヒーショップで見かけたアホたちは、その後ことごとく女性にフラれているらしい。いい気味である。
井上
人生相談系動画配信者のマネージャー。
既婚で子どもが二人いる。子煩悩で家族大好きな人ゆえ、あの手の発言は大っ嫌い。
体形や体重をあれこれ言うような媒体はさっさとなくなればいいと思っている。