第51話:建前
「レインくん早くー! 口開けたまんまだと顎が疲れちゃうよぅ」
「はいはい。ほら、あーん」
「あーんっ!」
ミナリーは俺の差し出したフォークをパクッと咥えて、もっきゅもっきゅ咀嚼する。
「美味いか?」
「うんっ! 次来た時はこれ頼む!」
「そうか」
幸せそうに食事を楽しむミナリーを見ていると、胸のあたりが暖かくなった。
4年前のあの日、俺は大切な人と故郷を失ったけれど、守れたものも確かにあったのだと実感する。
だからこそ、もう二度と失わない。
失いたくない。
そのために必要ならば、俺は何だってして見せる。
それが例え、ミナリーや師匠に嘘をつく事であったとしてもだ。
「ミナリー、孤児院の様子はどうだった?」
「いつも通り子供たちみんな元気だったよ。それと、何人か里親になってくれる人が見つかったんだって! シフアさんと神父様が色々と掛け合ってくれたみたい」
「そうか。良かったな、ミナリー」
「うんっ!」
ミナリーは自分の事のように嬉しそうに子供たちの話を語る。境遇が似ている彼らと自分を重ねているのもあるんだろうな。
そんなミナリーには少し言い出しづらいのだが、そろそろ本題に入るとしよう。
「ミナリー。実は、冬が来る前に王都へ行きたいと思っているんだ」
「王都に? どうして?」
「理由は三つある。一つはケロッグ商会を移転させるにあたっての下見だな。フロッグの部下たちに任せてあるんだが、俺も一応確認しておきたい。春先には移転させたいから、そう考えるとタイミングが秋の間しかないんだ」
「へぇー。移転って色々大変なんだねぇ」
「まあな。それから、二つ目の理由は俺たちに関係ある話だ」
「もしかして、王立学園のこと?」
「ああ。師匠はたぶん俺の誕生日あたりに俺たちを送り出すつもりをしていると思うんだが、そのタイミングで王都に向かったら到着が入学試験のギリギリになるんだ。万全を期すなら早めに王都に着いて試験に備えたいだろ?」
「確かにそうかも……。師匠も一緒に王立学園に通うってなっても、わたしたちが入学試験に落ちちゃったら意味ないもんね」
「そういう事だ。やっぱり冬が来る前にはこっちを出る必要があるだろうな」
まあ、俺とミナリーが入学試験に落ちる事は万に一つもないと思うが。筆記試験がどれだけ悪くても、実技で一発合格できるくらいの実力はあるはずだ。
「なるほどなるほど」
ふんふんと腕を組みながら頷くミナリー。
「最後の三つめは、師匠を説得するためだ。師匠が予定していたよりもずっと早くに俺たちが王都へ向かうとなったら、師匠だって寂しがるはずだろ?」
「なるほ……ど?」
ミナリーは頷きかけて、納得しきれなかったのか首を傾げた。
「うーん。上手く行くかなぁ……?」
「……いや、まあ。正直俺も微妙だと思ってる。だから、こういうのはどうだ? 一度王都に向かった振りをして引き返すんだ。忘れ物をしたとか、理由は何でもいい。戻って師匠を説得する。俺たちとの別れを済ませて油断した師匠に気持ちをぶつければ、師匠の気持ちだって変えられるかもしれない」
「……それでも師匠の気持ちが変わらなかったら?」
「その時は師匠が折れるまで泣き叫んでやろう」
「ぷふっ。レインくんが泣き叫んでる姿は想像できないけどなぁ」
「あくまでそれくらいの意気込みで説得するって話だよ」
実際に泣き叫ぶかどうかは別の話だ。
……まあ、それで師匠の死亡イベントを回避できるならいくらでも泣き叫んでやるけどな。
「……わかった。レインくんが王都に行くなら、わたしも行く。えっと、昨日教えてくれた魔法も必要なんだよね?」
「ああ。すまないが、王都へ行く日までに……遅くても二か月後までには急いで習得して欲しい。やれそうか……?」
「うん、毎日練習すれば出来ると思う、けど……」
「孤児院が気になるか?」
ミナリーは控えめに頷く。魔法の習得に時間を割けば割くほど、孤児院に顔を出せる時間は減ることになる。ミナリーはそれが気がかりなんだろう。
「わかった。孤児院には俺が行く」
「えっ、レインくんが?」
「ミナリーほど元気に走り回れる自信はないけどな」
俺が肩をすくめると、ミナリーはくすりと笑って頷く。
「それじゃあ、孤児院の方はレインくんにお願いするね」
「おう、任せてくれ」
ランチを食べながらとりとめのない話をして、孤児院に寄ってしばらくミナリーの代わりに俺が顔を出すことを告げてから家路につく。
師匠が二日酔いから復活してくれているといいのだが。




