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第44話:地下水道の異変

「くちゃい……」


 地下水道の入り口前。内部から漂ってくる悪臭にミナリーが鼻を抑えて顔を顰める。子供の頃にミナリーと入った場所なのだが、当時よりも悪臭が強くなっているような気がした。


「腐敗臭かしら……?」


「……アンデッドが居るのは間違いなさそうですね」


 アンデッド……特にゾンビ系のモンスターは動く死肉だ。腐敗しているため周囲に悪臭をまき散らす。それが外まで漂ってくるということは、内部に居るアンデッドは数体程度ではないだろう。


「師匠、俺が前衛を務めます。ミナリーが中衛、師匠が後衛のいつものパターンでいいですね?」


「それは構わないけど……。レインったらまた剣を持ってきて。私の弟子なら魔法を使いなさい、魔法を」


 師匠は俺が腰に携えた剣を指さしてぷくっと頬を膨らませる。


 剣アンチ……とまでは言わないが、師匠は魔法至上主義なのだ。その思想は生家であるグリモワール家の教育方針から来るものだろう。


「こういう狭い場所じゃ魔法よりも剣の方が、取り回しが利くんです。もちろん必要に応じて魔法も使います」


 ただ、今回は魔法を使わずに戦うつもりだ。ゲームと同じなら低レベルのモンスターばかりだしな。


「行きましょう」


 俺を先頭に、ミナリーと師匠が後ろに続く。


 このクエストはゲームではチュートリアルを兼ねていた。そのため出て来るモンスターはどれもレベル一桁、最初から覚えている〈風球〉などの魔法で簡単に倒せる敵ばかり。


 それに対して、俺たち三人は過剰戦力だった。


「〈光槍(ライトランス)〉!」


 ミナリーの光系統魔法がゾンビを貫き光の粒子に変え、


「〈氷槍アイスランス〉!」


 師匠の氷系統魔法が以下同文。


 俺が剣を振る前に、目の前に現れたモンスターは二人が魔法で片っ端から消し飛ばしてく。ミナリーはともかく、師匠は俺に剣を振らせまいと躍起になっていた。


「どう、レイン? やっぱり魔法の方が凄いと思わない?」


「そうですね。確かに相手との距離がある場合には有効……ですが」


 俺は師匠の肩を掴んで抱き寄せ、


「れ、レインっ!?」

「――油断禁物ですよ、師匠」


 汚水の中から師匠めがけて飛び出して来たスライムを剣の面で打ち飛ばす。スライムは対面の壁に激突し、壁にドロッとした体液を残して消滅した。


「うわぁ……」


「危うく体液まみれになるところでしたね」


 師匠のステータスならスライム程度なんてことないが、地下水道の汚水を吸った体液まみれになるのは嫌だろう。


「むぅー」


 師匠は納得がいかなそうな表情で頬を膨らませる。


「レインなら魔法でも間に合ったでしょ」


「そんなことは…………あります」


「ほらぁ! やっぱり魔法の方が凄いんだもん!」


「もんって……」


 魔法のことになると本当に頑固だな、この人。


「…………まあでも、その、ありがと」


「どういたしまして」


 そしてちゃんと律儀な人だ。こういうところに惹かれてしまう。


「ほ、ほらレイン! 早く先に進みましょう!」


 ほんのり頬を赤くした師匠に促され、俺たちは前進を再開する。


 その後は特に何事もなく、遭遇するモンスターは全て師匠とミナリーの魔法によって光の粒子に変えられた。


 地下水道に入っておよそ5時間程度で、内部の探索はほぼ完了。結局、アンデッドが居た以外はこれといった異常は見つからなかった。


「うーん……。嫌な予感がしたんだけどなぁ」


 地下水道の出口へ向かう道すがら、師匠がそう言いながら首を傾げる。


 アンデッドの発生はそう珍しいものじゃない。死体は焼かなければアンデッド化する。それはこの世界の常識だ。


 とは言え、俺たちが地下水道で倒したアンデッドの数は28体。それはつまり、28人の遺体がこの地下水道に焼かれず放置されていたということだ。


「行方不明の人たち、ゾンビになっちゃってたね……」


「駆け出しの冒険者だって受付で聞いたわ。きっと油断してしまったのね」


 冒険者たちの遺品は回収した。これはクエストの達成報告と共に冒険者ギルドへ届けるつもりだ。アンデッドになってしまった死体は残らない。だからせめて装備だけでも持ち帰るのが、彼らへの手向けになるだろう。


 それにしても、本当に油断だったのか……?


 地下水道に生息するモンスターはスライムや大ネズミなど、低レベルのモンスターばかり。ゾンビでもレベルは一桁だ。いくら駆け出しの冒険者とは言え、パーティが全滅するほどの脅威になるとは思えない。


 死因を調べられたら良かったんだけどな……。死体が残らないから調べようがない。地下水道にもこれと言って異変はなく、何か強力なモンスターが潜んでいるということも無さそうだ。


 ……もし異変があるとしたら、外か?


 例えば何者かが地下水道に死体を運び込んでアンデッド化させていた。それを冒険者たちが発見してしまい、口封じのために殺された……とか。


 ゲームや設定資料集ではそのような言及は無かったが、シナリオの辻褄を考えれば可能性が全く無いとも言い切れないはずだ。


 後でフロッグに調べさせた方が良さそうだな。


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