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第34話:いつか旅立つその日まで〈アリス視点〉

 火葬が終わり、村には静寂が訪れた。骨は全て村の共同墓地に葬られ、それを見届けた村人たちは焼け残って無事な家に分かれて夜を過ごす。


 私はレインとミナリー、そしてフロッグと共に、レインの家に戻った。


 壁に大きな穴が開き、リビングは荒らされてしまっているけれど、レインと私の部屋だけは無事だった。一晩だけなら十分に過ごせる。


「そんじゃ、俺はそろそろとんずらさせてもらうぜ」


 家に戻って早々、フロッグがそう言いだす。レインとミナリーを部屋で待たせて、私はフロッグを見送るために外へ出た。


「おいおい、わざわざ見送りなんてどういう風の吹き回しだ?」


「別に。ただ、レインとミナリーを送り届けてくれたことにお礼を言いたいと思っただけ。……ありがとう、フロッグ」


「調子が狂うぜ、まったく……。感謝されるいわれはねぇよ。あのガキから報酬はたんまり貰ったしな」


 そう言ってフロッグはこれ見よがしに麻袋を見せてくる。私が貰うはずだったクエスト報酬。たぶんギルドマスターが色を付けてくれたんだろうけど、結構な大金だ。


「それだけあればしばらく遊んで暮らせそうね」


「あぁ? んなことしねぇよ。それで借金こさえて盗賊の真似事なんてする羽目になっちまったんだ。これからは至極まっとうに生きるって決めたんだよ。商人になるのもいいかもしれねぇなぁ」


「へぇー」


「さてはテメェ興味ねぇな?」


 実際、フロッグがこれからどう生きるとかあんまり興味ない。レインとミナリーがお世話になったから、義理で見送っているだけだし。


「ま、そっちも色々頑張れや。ガキ二人の面倒を見るなんて、俺なら御免被るけどよ」


「…………え?」


「は? おいおい、引き取るんじゃねぇのか? テメェの弟子なんだろ、あのガキども」


「あ、えっと……。そっか、あの子たちは身寄りがないのよね……」


 私がもしこのまま旅に出てしまえば、二人はどうなってしまうだろう。


 身寄りを失った二人は、たぶんどこかの孤児院に引き取ってもらえると思う。


 二人とも魔法の才覚はずば抜けているから、もしかしたら冒険者ギルドが後見に名乗り出てくれるかもしれない。レインとミナリーなら、きっと二人で生きていける。


 だけど……。


「あいつら師匠師匠って随分と懐いてたぜ」


「…………そう、ね」


「ま、俺には関係ねぇ話だ。じゃあな」


 フロッグは踵を返して去っていく。


 その背中をしばらく見送って、私は家の中へと戻った。ボロボロになったリビングの中、いつもレティーナさんが座っていたソファに腰を下ろして考える。


 これまでのこと。これからのこと。レインとミナリーと、私のことを。


『レインを、…………おね、が…………――』


 レティーナさんの最後の言葉がずっと頭に残り続けている。


「どうしよう……?」


 私が王立学園を休学してまで旅に出たのは、魔王の復活を阻止するためだ。今はその旅の途中。ここで歩みを止めてしまったら、旅に出た意味がなくなってしまう。


 ……ただ、気になるのは今回のオークの大群の動き。あれが魔王復活の兆しではなくて、魔王の復活そのものを示すものだとしたら。


「……違う。私がそう思いたがってるだけ」


 言い訳を探しているのだと気づいて、自分の気持ちを理解する。


 魔王の復活を阻止するよりも、返したい恩義が出来た。


 見ず知らずの大勢の人たちを救うよりも、幸せにしたい弟子たちが出来た。


 ただ、それだけのことだから。


「決めた!」


 頬をパチンと叩いて、ソファから勢いよく立ち上がる。レインの部屋の扉をノックして中へ入ると、二人は手を繋いでベッドに並んで腰かけていた。


 ミナリーはすごく不安そうな顔で私を見上げて、レインはずっと目を伏せている。


「師匠、フロッグは行きましたか」


「ええ。商人になってまっとうに生きるそうよ。どこまで本気かわからないけどね」


「そうですか……」


 レインは先にフロッグと別れを済ませていた。といっても、意気消沈していたから少し言葉を交わしただけだ。


 もともと口数の多くないタイプのレインだけど、今はいつにもまして言葉少なになっていると思う。


 近くにあった椅子を二人の前まで持ってきて腰を下ろす。


「これからのことを、話しましょう」


 私がそう切り出すと、ミナリーが体を強張らせた。


 どこか身構えるように、怯えるような目を私に向けてくる。言葉にしないよう必死に我慢しているようで、目尻には涙が溜まり始めていた。


 レインはそんなミナリーの手を握って、私をまっすぐ見つめてくる。その目は不安に揺れているように見えた。


 私が旅に出るつもりだということは二人とも知っている。だからてっきり、泣いて引き留められると思っていた。


 レインなんか「俺も行きます」なんて言い出すんじゃないかって最近はひやひやもしていたけど……。


 いざとなったら、二人は泣きもせず、わがままも言わない。私が思っていたよりもずっとずっと大人な姿を見せてくれる。


 そんな二人を安心させるように微笑む。


「レイン。ミナリー。私があなたたちを引き取るわ。一緒に暮らしましょう」


「…………え」


 ミナリーが驚いたように目を見開いた。その瞳からはぶわっと涙が溢れて私の胸に飛び込んでくる。


「うわぁああああああああああんっっ!! しちょぉおおおおおおおおおおっっっ!!!」


「よしよし。不安にさせてごめんね、ミナリー」


「うっ、ぐすっ、ひぐっ」


 泣きじゃくるミナリーの背中を優しく撫でる。


 泣きたいのを我慢して、引き止めたいのを我慢して、私を見送ろうとしていたミナリーの健気さに私まで泣いてしまいそうだった。


「師匠、旅はいいんですか……?」


 レインはまだ不安なのか、おそるおそるといった様子で尋ねてくる。


「よくはない、かな。だけど私は今、レインとミナリーと一緒に居たいって思ってる。この気持ちを大事にしたいの」


 もしかしたら、いずれこの選択を後悔する時が来るかもしれない。


 でも、レインとミナリーを置いて旅に出たとしてもそれは同じ。どちらにせよ後悔するなら、手に届く範囲の幸せを優先したい。


「師匠。俺はもっと、強くなりたいです」


「うん」


「強くなって、もう二度と、大切な人を失いたくない」


「うん」


「だからこれからも、俺の師匠で居てください」


「うん。よろしくね、レイン」


 レインの背中に手を回して、優しく抱き寄せる。いつもなら恥ずかしがるレインも、今だけは抵抗せずにギュッと抱き着いてきた。


 私は二人の大切な弟子を抱きしめて、誓う。


 この子たちの成長を見届けよう。


 二人の師匠として、保護者として。


 いつか大人《14歳》になって、私の元から旅立つ――その日まで。


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