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第29話:最強の証明〈アリス視点〉

「うわぁ……」


 目の前に広がる光景に、私は思わず溜息を吐いた。


 視界いっぱいを覆いつくすのは魔物の大群。オークを見るのは初めてだけど、思ったより豚面だった。それに、少し離れたここまで獣臭が漂ってくる。


「わかっておったが、これ程とはのぅ……」

「こ、こんなのどうしたって足止めなんて無理だ……」


 1000体近いオークに立ち向かうのは、領都オーツの冒険者ギルドに所属する冒険者100人程度。


 ギルドマスターの話では精鋭揃いとの事だったけど、さすがにみんな腰が引けている。ただ、誰一人として逃げ出さないのはさすがだと思う。


 ……さて、そろそろ準備に取り掛かろう。


「ギルドマスター、みんなをこれ以上前に進ませないでください」


「アリス殿、何か策があるんじゃな……?」


「策と言うか、ただ魔法を使うだけですよ」


 ローブの懐から杖を取り出し、オークの大群に向ける。


「たまには師匠として、良いところ見せないとね」


 私だってこの冬の間、ただレインとミナリーに魔法を教えているだけじゃなかった。


 自己研鑽は一日だって欠かしたことがなかったし、レインとミナリーに魔法を教える事で自分自身の魔法と向き合うことが出来たと思う。


 だから、この魔法に到達できた。


 これは私の集大成とも言うべき魔法だ。


 レインとミナリーは宿で大人しく待ってくれてるかしら。


 ……ううん、きっとレインがあれこれ言って伝言を頼んだ受付の子から色々聞き出してるに決まってる。


 それから私の報酬を使って移動手段を確保したら、そろそろこの近くに来てる頃ね。


 ……なんて、考えすぎかも。


 だけど、もし本当に来ているのだとしたら。


「見て、レイン。感じて、ミナリー。魔法の無限の可能性。あなたたちが目指す到達点の一つ。この魔法は、私の人生そのものよ」


 全身の魔力を杖に集める。両足から、左手から、頭から、体から。右手を通して、杖に集中させる。


 息を吐く。白くて、冷たい、凍った息。


 太陽の暖かさを、風の温もりを、草花の活力を、生命の熱を。


 全て奪い、凍らせる。


 氷系統魔法の到達点。


「――〈氷獄コキュートス〉」


 そして目の前の全てが氷に閉ざされる。


 草も花も木も虫もオークも、眼前に広がる景色の全てが凍り付いた。


1000を超えたオークの大群は氷の中で白い光の粒になって消えていく。だけど、全てのオークを倒せたわけじゃない。今の私の実力じゃ、せいぜい8割を削るくらい。


「な、なんて途轍もない魔法じゃ……」


「ギルドマスター、まだ生きているオークが居るはずです。後はお任せしてもいいですか?」


「う、うむ。あれほどの魔法、魔力消費も激しいじゃろう。後は儂らに任せて休んでおられよ。皆の者、この機を逃すでないぞ! 儂に続けぇーっ!」


 ギルドマスターが戦斧を担いで先頭で突撃していく。もうけっこうなお歳だと思うんだけど、元気なお爺ちゃんだなぁ……。


「……ふぅ」


 周りに人が居なくなって、私は小さく息を吐いた。


 ……よかった、ちゃんと発動してくれて。上手く発動できるのは10回に1回くらい。失敗すれば根こそぎ魔力を消費するだけで何も起こらない。そんな魔法だった。


 くらりと体がバランスを失う。そのまま仰向けに倒れ込みそうになって、駆け寄ってきた誰かが支え――切れずにそのまま倒れ込んだ。


「うぐっ」


 頭上から聞こえる小さな呻き声。かすむ目を擦ってよくよく見れば、そこには私の自慢の弟子の顔があった。


「あー、レインったらやっぱりお留守番できなかったのね。ダメでしょ、こんな所にまで来ちゃ」


「師匠、今のは……?」


 レインは目をぱちくりさせながら尋ねて来る。私が火系統の魔法を使った時もこんな反応をしていたっけ。レインのこの驚いた顔、ちょっと好きかも。


「ふふっ、凄いでしょー? 私のとっておきの最強魔法よ?」


「……はい。師匠はやっぱり凄いですね」


「ふっふーん」


 得意げになる私にレインは苦笑する。


 それから少しして、私たちの近くに馬車が止まった。荷台から飛び出して来たのはミナリーで、私たちのもとへ駆け寄って来る。


「師匠っ!? どこか痛い!? 〈光の治癒〉いる!?」


「大丈夫よ。落ち着いて、ミナリー。ちょっと魔力を使いすぎちゃっただけだから」


「ほんと……?」


「ほんとほんと。安心して?」


「うんっ……!」


 ミナリーは横たわる私にギュッと抱き着いて来る。まったくもぅ、甘えん坊な弟子たちだなぁ。


 しばらくレインに膝枕されて、ミナリーにギュッと抱き着かれながら過ごしていると、馬車の御者台に乗っていた男の人が声をかけてきた。


「おい、クソガキ。これからどうすんだ? ターガ村に向かうんだろ?」


 髭面で細身の男性。面識はないはずだけど、その声と乱暴な物言いには憶えがある。


「フロッグ……?」


「ま、待て! まずは落ち着いて杖を下ろせって! というかあれだけの大魔法ぶっ放してまだ魔法が使えるとか化け物か!?」


「こんなか弱い美少女相手に化け物なんて失礼ね」


「か弱い……?」


 レインが首を傾げたから杖で頬をつつく。失礼な弟子だ、まったくもぅ。でも美少女のところは素直に認めてくれているみたいだから許してあげる。


 それにしてもフロッグがどうしてここに?


「俺はそこのクソガキに雇われてここまで連れて来てやったんだぜ?」


「雇われて?」


「はいっ、師匠! レインくんが師匠のお金を勝手に使いました!」


「なっ、ミナリー! 告げ口なんて卑怯だぞ!」


「れーいーんー?」


「あっ、いや…………ごめんなさい」


 レインは素直に頭を下げる。まあ予想はしていたんだけど、悪い事をした弟子を叱ってあげるのも師匠の義務だ。


「人のお金を勝手に使っちゃいけません」


「はい。使ったお金は必ず返します」


「よろしい」


 ……うーん? レインの物分かりが良すぎて、これちゃんと叱れたのかしら……? レインは反省している様子だから言いすぎるのもよくないわね。


「あの、師匠。動けますか。村のみんなが、心配で……」


「ターガ村が? オークの移動ルートからは外れているはずだけど……」


 ただ、ターガ村はここオミ平原からそれほど遠くない位置にある。レインが心配になるのも当然だろう。レインに言われて、私にも少しだけ嫌な予感が芽生え始める。


「レイン、ミナリー、少し肩を貸してもらえる?」


「はい、もちろんです」


「お任せあれっ!」


 私はレインとミナリーに支えられながら馬車の荷台へ乗り込む。


 魔力の消費が激しくて、ろくに立っていられない。本当はこのまま休んでいたい所だけど、何となくすぐターガ村へ向かうべきだと思った。


 私の予感は良い方にも悪い方にも、よく当たるから。


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