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第21話:バッドエンド①〈ミナリー・ポピンズ〉

 数十万の犠牲を払い人類連合軍がヴィルヘイム王国の王都を解放して3か月。


 王都は再び陥落の危機に晒されていた。


 津波のように押し寄せるオークの軍勢。それを率いるのは統率に優れたオークロードや武勇に優れたオークジェネラル、魔法を使うオークウィザードといった高位のモンスターたち。


 奴らはかつてワーデン伯爵領があった地域から現れ、人類が取り戻した領土を、希望を、栄光を蹂躙していく。


 それはあまりにも異様な出来事だった。オークとは本来、たいした知能を持たない魔物なのだ。それが言葉を話し、道具を使い、戦術を理解する。


 そのような特異な個体が多数確認されていた。それらは何体殺しても、次から次へと現れる。復活しているのではない。生まれているのだ。


 人類がその脅威を打ち払うためには、オークの変異体を産み落とす存在を殺さなければならない。人類軍はその中核である勇者レインと仲間たちを旧ワーデン伯爵領に派遣した。


 勇者レインと仲間たちはオークの軍勢を突破し、旧ワーデン伯爵領の北に位置する山脈の中腹に洞窟を見つける。そこは魔王軍幹部の一人、オーク〈シュバイン〉の根城であり、オークの製造工場だった。


 勇者レインは激闘の末にシュバインを撃破し、傷ついた仲間たちには工場の破壊と苗床にされていた人々の救済を任せて奥へと進んだ。


 異様な空間だった。


 奥へ進むにつれ、吐き気を催すような甘い香りが充満していく。洞窟の壁にはピンク色のぶよぶよとした肉が張り付き、血管のような筋が脈打っている。時折干からびてミイラのようになったオークの死体が、一体化するかのように壁に埋まっていた。


 最奥には醜い肉の塊があった。それは何体ものオークを取り込んで精を搾り取り、幾つもある穴から絶え間なく豚面の醜悪な化け物を産んでいる。生まれたばかりのそれらはうにょうにょとうごめく触手のような器官から分泌される液体を美味しそうに飲み始める。


 この化け物こそが全ての元凶だ。勇者は剣を抜いた。光の魔力を秘めた聖剣が輝きを放ち、剣の軌道に沿って生まれた粒子が斬撃となって肉塊に迫る。


 魔物に絶対的な威力を発揮する聖剣の斬撃。だが、それは肉の表面を軽く焼いただけに終わった。勇者レインは首を傾げる。


 だが、その程度の些事で立ち止まることはない。なぜなら彼は勇者なのだから。


 肉塊はどこにあるのかもわからない口から悲鳴を上げた。取り込まれていたオークや生まれたばかりの魔物がぐしゃりと潰され肉塊に取り込まれていく。直後、数多ある触手から光系統の魔法が放たれた。


 それらは幾重ものレーザー光線になって勇者レインに殺到する。光が髪を焼き、鎧を焼き、肌を焼いた。それでも勇者は止まらない。剣を構えて肉塊に迫り、それを阻もうとする触手を切り裂いて進む。


 触手が斬られるたびに肉塊は悲鳴を上げた。人間のものとは比べるまでもない。声にも言葉にもならない悲鳴。そのはずだった。


『イ……ダ…………イッ、ダズ…………ゲッ』


 勇者レインはただ触手を斬り続ける。でなければ負ける。触手は異常な回復力によって斬った先から再生し続けていた。


『ア、アァ…………アァアアアアアアアアッ』


 肉塊の叫びが木霊する。勇者は意に返さない。ただただ、目の前の化け物を切り刻む。


 切って、斬って、伐り続ける。


 それはもはや作業だった。勇者の体力と精神力が先に尽きるか、肉塊の回復力が先に尽きるか。それだけでしかなかった。


 やがて肉塊の回復が勇者の斬撃に追い付かなくなり始める。勇者はじりじりと全身を続ける。聖剣が遂に肉塊の本体を傷つける。


『アァアアアアアアアアッ――ッ』


 肉塊が悲鳴を上げる。それはどこか子供が泣きわめくような声にも聞こえたかもしれない。


 ……だからなんだ。


 それがどうかしたのか。


 勇者はただ剣を振り続ける。


 真っ赤な鮮血を浴びながら、肉塊を細切れにしていく。もはや肉塊の回復能力は、ただ痛みに苦しむ時間だけを伸ばすものだった。触手は再生するたびに根元から切られ、肉は再生した場所から斬られて血をまき散らす。


 やがて肉塊は回復しなくなった。悲鳴も上げなくなった。ぶよぶよとしたピンク色の肉が、段々と細かな淡い光になっていく。


 肉塊は死んだのだ。


 勇者は聖剣を鞘へと戻し、踵を返して仲間たちの元へ歩き始める。


 その背後には、淡い光の粒子によって肉塊が消え、最後に肉塊の核となっていた少女の成れの果てが残っていた。


『レぃ……ン、く…………――』


 少女だったそれは、勇者に手を伸ばそうとして…………光になって、消えた。


 勇者は立ち止まることも、振り返ることもしない。


 ただまっすぐに歩み続ける。


 まるで止まることを、忘れたように。


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