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第16話:魔法の可能性

「じゃあ気を取り直してミナリーから。得意な魔法を見せてくれる?」

「はいっ!」


 ミナリーは元気に返事をして両手を前に突き出す。


「〈光の治癒(ライト・ヒール)〉!」


 溢れ出した淡い光の粒子はキラキラと輝いて空気に溶け消えていく。傷を癒す魔法だからそれ以上もそれ以下も起こらない。けれどそれを見て、アリスは目を丸くする。


「凄い、この歳で回復魔法を使えるなんて……!」


「ふっふーん! レインくんが教えてくれたんだよ!」


「レインが?」


「ぐ、偶然ですよ? ミナリーの素質があったからこそです」


「ふーん?」


 師匠がジトーっと見てくる。この人、魔法に関してはこの世界でもトップクラスのキャラクターだからな……。下手な誤魔化しは効かないかもしれない。


「ミナリー、他には何か使える魔法ある?」

「ううん! まだこれだけ!」


「そう。それじゃミナリーは、簡単な光系統魔法から憶えていきましょう」


「はいっ、しちょう!」


「市長じゃなくて師匠ね?」


「ししょう!」


「それでよろしい」


 アリスに優しく頭を撫でられてミナリーは気持ちよさそうに目を細める。本来の『HES』では出会うことがなかった二人の仲睦まじい姿に、心が温かくなる。


「次はレインね。どんな魔法を使えるの?」


「火・水・風・土の基本系統を一通り。他の系統は使えません」


「ふぅーん。なるほどね……」


 師匠は腕を組んで拳を唇に当てながら、何やら考え込むような素振りを見せる。俺にどんな魔法を教えるべきか考えているのだろう。残念ながら主人公レインは基本系統の魔法しか使えず、その才能もいずれは頭打ちになる。


 ゲーム中盤に聖剣を手に入れてからは魔法をほとんど使わずに戦うのが攻略サイトにも載っている基本の攻略法だった。なんせ基本系統の魔法がほとんど効かない敵ばっかりだからな、このゲーム。


 だから、氷系統の魔法を得意とするアリスから学ぶことはほとんどない。ただ、四か月後に迫ったオーク襲撃イベントまで彼女をこの村に引き留めるために、弟子の真似事をしていればいい。


 ――そう思っていた。


「レインには全ての系統魔法を憶えてもらうわ」

「えっ……!?」


 全ての系統魔法? 何を滅茶苦茶なことを言い出したんだ、この師匠は……!?


「レイン、今無理だって思ったでしょう?」


「……っ! は、はい。俺には基本四系統の魔法しか使えません」


「どうしてそう思うの?」


「そ、それは……」


 ゲームではそうだったから、なんて言っても信じては貰えないだろう。


「レインがどんな文献を見てそう思ったのかはわからないけど、基本四系統の魔法しか使えないと初めから諦めるべきじゃないわ。魔法の系統に得手不得手があるのは当たり前だけど、まったく使えないって事はないはずだもの」


「それってどういう……?」


「実践して見せるわね。〈火球ファイヤボール〉」


「なっ……」


 アリスが真上に右手を伸ばし、そこから火系統魔法が放たれた。


 思わず絶句する。


 アリス・グリモワールは氷系統の魔法を極めた天才魔法使い。『HES』の作中で彼女は氷系統以外の魔法を一度も使わなかったし、設定資料集にも氷系統以外の魔法が使えるとは一言も書かれていなかった。


 どうなっているんだ……?


「私は氷系統の魔法が得意だけど、他の系統の魔法が使えないわけじゃないの。まあ、苦手な火系統や光系統や闇系統は、本当の初歩的な魔法しか使えないけどね」


「ど、どうやって苦手な系統の魔法を憶えたんですか……?」


「イメージトレーニングと反復練習かしら。案外、魔法って簡単よ?」


「さ、さすが師匠」


「そう? 何だかレインにそう言われると照れちゃうなぁ」


 14歳にして作中最強の天才魔法使いなだけある。おそらくこれは設定資料集にも載っていない裏設定。ゲームの都合、シナリオの都合で実装されず資料集にも載らなかったアリス・グリモワール本来の才覚。


 だとしたら、主人公レイン()にも可能性があるのか……?


 ……試してみる価値はある。


「〈雪球スノーボール〉」


 近くの木に向かって腕を構え、氷系統魔法の最も初歩の魔法を唱える。すると、淡い青白い光が雪の球体になって放たれた。


『魔法〈雪球スノーボール〉を習得しました』


 久々の女神の声が頭に響く。


 氷系統魔法を、習得できた……?


「やりました、師匠! ありがとうございます!!」

「私まだ何も教えてないけど!?」


 師匠は驚いた表情を浮かべているが、俺も同じかそれ以上に驚いている。まさか基本四系統以外の魔法が使えるかなんて、今の今まで考えもしなかった。師匠に教えられていなかったら、試そうともしていなかっただろう。


 これで魔法の幅が大きく広がった。もしかしたら、あの系統魔法も使えるようになるかもしれない。そしたら、師匠を悲惨な運命から救える可能性がより高くなる。


「レインってやっぱり本物の天才……? 私の予感って本当に当たるのね……」


「師匠」


「は、はいっ! どうしたの、レイン?」


「俺にもっと魔法を教えてください。俺は、強くなりたいです」


「…………強くなって、どうするの?」


 師匠は膝を折って俺に視線を合わせると、いつになく真剣な目をして尋ねた。


 俺は臆せずに答える。


「大切な人を守れるようになりたい」


 ミナリーを、師匠を、他のヒロインたちを。


 『HES』の世界で悲惨な死を遂げた彼女たちを救いたい。そう思ったから、5年の歳月をかけて分析組の仲間たちとハッピーエンドに至るフローチャートを作り上げた。


 『Happy End Story』本来の主人公はいつも力が足りず、一足遅く、何一つ守れない。だから強くならなきゃいけない。圧倒的な力で、二手三手先を行き、全てを守れるように。


 この物語が、ハッピーエンドを迎えるために。


「……わかったわ。冬が明けるまでになっちゃうけど、私が知る魔法を出来る限りレインに教える。それで強くなるかどうかは、レイン次第。それでもいい?」


「構いません。宜しくお願いします……!」


 今日この瞬間、俺はアリス・グリモワールの本当の弟子になった。


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