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第11話:経験値

「おいガキ、立ってこっちに来い。男の方だ」


 ドスを利かせながら命令する。さすが盗賊団の頭目だけあってそれなりの迫力だ。隣でミナリーが「ひっ」と喉を震わせる。


「れ、レインくん……っ」

「大丈夫だ、ミナリー」


 俺はミナリーの手を優しく振り解いて、鉄格子の傍へ近づいた。鉄格子を挟んで頭目と向かい合う。


「ガキ、名前はなんていう」

「レイン。レイン・ロードランド」

「ほおぅ、レインか。良い名前だなぁっ!」


 振り抜かれた拳が鉄格子の隙間から俺の顔にめり込む。避けようと思えば避けられたそれを食らって、俺は後方に吹っ飛んだ。


 頬のあたりに激痛が走り、視界がパチパチと点滅する。たぶん今のでHPが半分ほど減っただろう。思わず顔に触れた手のひらにはべったりと血がついていた。


「レインくんっ!」


 ミナリーが駆け寄ってくる。


「おい、フロッグ! このガキどもは魔法を使えるんだったな?」

「へ、へい! ガキなんで大した魔法は使えねぇと思いますが……」

「念のためだ。口と手足を縛って魔法が使えねぇようにしておけ」


 ……ちっ、意外と頭の回るやつだな。無抵抗の振りをしておけば欺けると思ったんだが、無駄に拳を食らってしまったか。


「レインくんっ、すぐに治してあげるからねっ!」

「ま、待て、ミナリー――」

「〈光の治癒ライト・ヒール〉!」


 ミナリーの手から淡い光が現れて俺の傷を包み込む。同時に痛みが薄れ、盗賊たちの顔色が変わっていく。


 くそ、気づかれた。さっきから裏目に出てばかりだ。


「嘘だろ、回復魔法だと……!?」

「ははっ! こりゃとんでもねぇ掘り出し物じゃねぇか! でかしたぜ、フロッグ!」

「へ、へいっ!」


 頭目はフロッグの背中を叩いて興奮した様子で叫ぶ。


 ……この世界、魔法を使えるってだけで圧倒的マイノリティだ。それが光系統の回復魔法ともなれば、希少価値はさらに跳ね上がる。


「回復魔法を使えるガキの性奴隷なんて、王都の変態貴族に売れば一生遊んで暮らせる額になる! ガハハハッ! ようやく俺にもツキが巡ってきたらしいな!」


 頭目は今にも小躍りし始めそうなほどに浮かれていた。


 だが、ふと動きを止めて視線を牢屋の外へ向ける。


「表が騒がしいな」


 言われてみれば確かに、盗賊たちが入ってきた扉の向こうから大きな物音と怒鳴り声が聞こえてきた。盗賊同士でド派手な喧嘩でも始まったのだろうか。


「チッ、様子を見てくる。お前らはガキどもを縛っとけ」


 それだけ指示して、頭目は部下3人を引き連れて扉の向こうの様子を見に行った。残ったのはフロッグと残りの部下2人。連中……特に部下2人が俺たちを卑しく笑いながら見下ろしている。


「なあ、おい。回復魔法が使えるんならバレないんじゃねぇか?」

「正気か? まだガキだぜ?」

「ガキだからこそ、今から色々仕込めるんじゃねぇか」

「そ、それもそうか……」


 ミナリーを見ながら男たちは生唾を飲み込む。俺に〈光の治癒ライト・ヒール〉をかけていたミナリーは連中からの邪な視線にまだ気づいていない。頼むから気づかないでくれ。


「あ、あの、さすがに商品に手を出すのは不味いんじゃ……?」


 フロッグはまだ良識があるらしく、やんわりと部下たちを窘める。


「うるせぇ! 新入りは黙ってやがれ!」


 だが、そう言われてしまっては口を噤むしかないだろう。


「ひっ……」


 その叫び声に、ミナリーが喉を震わせる。状況は飲み込めていないだろう。ただ、本能からか両手で自分の体を隠すように抱きしめる。その仕草もまた、男たちの劣情を駆り立ててしまう。


「へへっ、頭が戻って来ない内にやっちまおうぜ」


 部下の一人が鍵を持って、牢屋の扉を開け始めた。ガチャリと鍵の外れる音がして、二人の男たちが鉄格子の内部へと入ってくる。


 …………今しかない。


 思えば、俺は初めから理由を探していた。どうすればここから逃げ出せるのか、なんて考えるまでもなかったのだ。


 欲しかったのは、誰も殺さずに済む理由。この世界はゲームじゃない。限りなく『HES』の世界に近い現実だと思う。だから、出来ることなら人殺しはしたくなかった。


 当たり前だ。現代日本で生まれ育ったのだから、その思考は常識的な道徳として俺の意識に埋め込まれている。ゲームのキャラクターを殺すのとはわけが違う。


 だから、こう思うことにした。


 こいつらは、人じゃない。


 人の姿をした経験値モンスターだ。


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