解答編
「あんたは井田さんと血縁のつながりはない。姻戚関係もだ。奥さんと同郷というだけで、赤の他人だ」
吾川の指摘に青田はにやにやと笑って答えない。
「あんたは保険金目当てで彼に近づいた。井田さんに保険に入るように勧めただろう」
「確かに勧めた。嫁さんの成績があがるからな」
「だが断られた」
「完全に断られたわけじゃない。離れて暮らすお孫さんがいると言っていた。そのお孫さんを受取人にすると」
「それを口実に契約するのを伸ばしたんだ」
青田はじいさんに勧めた時の反応を思い出していた。契約書を書かせようとしたが、受取人欄を孫にしたいが、孫の名字のハンコがないと書いてくれなかった。
「あんたはそのお孫さんがどこの誰かも知らないだろう。毎日のように会っていたのに」
「何?」
「井田さんが預かっていたのは、実のお孫さんだ。あの女工さんは井田さんの亡くなった息子さんのお嫁さんだ」
青田は愕然とする。
「あの子がお孫さんだとすら聞かせてもらってないんだろう。それだけ、あんたが信用されていなかったということだ」
「離れて暮らしていると」
「彼は噓は言っていない。共に暮らさず、彼らは別居していた。それが彼の思いやりだった。未亡人になった息子のお嫁さんに新たな人生を歩んで欲しいと、別居を選択したんだ」
「あんたはなんでそれを知っている」
「直接相談されたからだ。彼は言っていた。あの男は家を乗っ取る積もりだと。いずれ、金のために殺されるようなことがあるかもしれないと」
青田はぎりぎりと吾川をにらむ。
「私があのとき井田さんの忘れ物を届けたのは、偶然ではない。理由をつけて留守の家の様子を見に行ったのだ。あんたはあのとき聞こえていたのにすぐに出てこなかった。鍵が弱いところから隣の家に侵入。そこで井田さんの筆跡と印鑑を入手。玄関に誰かが来たのを聞いて井田さんの家から脱出。知らぬ顔で隣の家から出てきて応対。その後、筆跡を似せて契約書を偽造。そして、自分が受取人の保険を作成した」
「そんな偽造の契約書で契約できるもんか」
「できる。あんたの内縁の妻が協力したのだ。あんたは夫婦だと言っていたが、実際には結婚していない。保険金詐欺をしやすいよう、保険の渉外員と手を組んだのだ。そして、内縁の妻に映画館で暗闇に紛れて井田さんを殺害させた」
「その方法は?」
「注射器で血管に空気か薬品を注入。首に跡が残っていた」
青田は答えられず歯噛みする。
「その反応。図星のようだな」
「あとは署で聞かせてもらおう」
戸を開けて、警察官が複数人入ってくる。青田は逃れることができず、がっくりと肩を落とした。
「吾川さん、ありがとうございます。これで義父の未練も晴れたと思います」
「いや、私は彼を助けられなかった」
吾川は井田の元嫁と孫と共に彼の墓に参っていた。吾川の表情は暗いままだった。
「お義父さん。安らかにお休みください」
元嫁の言葉を聞きながら、孫は手を合わせた。
井田と彼女達親子はこの織物の町で作られた家族だった。井田の息子という緯糸を無くした後も、彼ら三人の経糸は存在し続けた。




