第8話 本所菊川町
否も応もなく金四郎は本所菊川町の長谷川邸に連れ込まれ、それを銕三郎の義母であるリクが出迎える。
「おや、銕三郎殿が日の沈まぬうちにご帰宅とは、明日は雪が降るやもしれませんね。」
「やあ義母上様、十日ぶりのご対面にしては毒のあるお言葉。毒気が喉に詰まらないことを祈りましょう。」
他人の目にも不穏な銕三郎とリクの会話に身の置き場を無くして小さくなっている金四郎へとリクの視線が移る。
「どちらのお子様かしら。」
「芝露月町の旗本、遠山景好が子、金四郎と申します。」
七つの金四郎が健気に挨拶するのに、遠山家の家格を見下したのか、名を聞いて嫡男ではないと値踏みしたのか、リクは挨拶を返そうともせずに睥睨するばかり。
(おいおい、遠山も長谷川もほぼ同格だろうに、仕方ねえなぁこの婆ァは)
見かねた銕三郎がリクに耳打ちする。
「義母上、金四郎は遠山の養子嫡男で、実家は永井家ですよ。」
「まぁ金四郎様、よくおいでくださいました。どうぞお上がりくださいませ。」
二コリと表面だけの笑みを見せ、リクは家の奥へと踵を返す。
金四郎が旗本の嫡男で、知行千石の永井家の係累であると知った途端にこれである。
「長谷川での俺も、遠山でのお前さんと似た立場にあるってことだ。ま、上がりな。」
明和7年(1770年)
長谷川 平蔵 (25)
遠山 金四郎 (6)