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遠山金四郎外伝  作者: 喜多甚
第1章 長谷川平蔵
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第7話 永代橋

「坊、そんなところで考え事してちゃ川に落ちるぜ。」


 大川(隅田川)は永代橋の中ほど、欄干に身を預けて川面を見つめ、物思いにふける金四郎を見つけた銕三郎(てつさぶろう)は声をかけてみた。


 兄である永井主計(かずえ)より「とても聡い子」と評されていた金四郎は返事も出来ず、声掛けした銕三郎をぼうっと不思議そうに見るのみ。その眼には力が感じられず、体躯もやけに痩せているように見える。


(こりゃあ思っていたよりも状態が悪いな。さて、どうしたものか。)


 と思案する間を置いて漸く、金四郎が口を開いた。


「長谷川の…銕三郎様?」


「お前さんとは何処かで会ったかね。」


「いえ、お姿がお噂に聞いていた姿形そのものでしたので、そうではないかと。」


 既に幕臣として出仕しているためキッチリ整えられた髷を頭に載せながら、風体は遊び人風の着流し。そんな銕三郎の異装は本所一帯を中心に広く知られていた。


「失礼いたしました。私は金四郎と申します。芝露月町(ろうげつちょう)に居を構える遠山家の者です。」


 数え七歳にしては随分と大人びた挨拶に面喰いながらも、銕三郎は偶然を装うことにする。


「ほう、もしかしてお前さん、永井家から遠山家へ養子に出たという永井主計様の弟御かぇ。」


「兄をご存じで。」


「剣の師が同じでな。永井様は俺の兄弟子にあたる。よくお前さんのことを自慢なさっていたよ。」


「本当ですか。それはとても嬉しいことです。」


 表情に喜色を浮かべ赤面する金四郎の無垢さに当てられ、飲み代と遊び金に釣られた己が恥ずかしくなる。


「もっとも、幼い頃に養子に出されたお前さんのことを心配もしていたがね。」


 朱が差していた表情から見る見るうちに血の気が引いて憂いを見せる金四郎、言葉が続かない。


「家に帰りづらいって顔に書いてあるなぁ。よし、永井様の弟御なら俺の弟みたいなもんだ。俺が家出を指南してやろう。付いてきな。」


明和7年(1770年)

長谷川 平蔵 (25)

遠山 金四郎 (6)

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