第4話 幼き金四郎の事情
遊び慣れた空気を醸し出している永井主計に目を瞬かせてしまう。
これまで抱いていた印象とあまりにも乖離している永井主計を前にした銕三郎が、狐狸に誑かされたかと眉に唾したのも仕方あるまい。
「銕よ、ひとつ頼みがある。」
「先に断っておきますが、こう見えて俺は人斬りはしませんよ。」
普段からの付き合いが薄い、千石取りの旗本から身分不相応に饗されているのだ。そこまでされての頼み事など荒事しか頭に浮かばない。しかし、人に動かされて剣や拳を振るうことはしないのが銕三郎の矜持である。
「そんな野暮は言わないから安心してくれ。」
「でも、永井様が俺に頼み事だなんて、荒事しか思い着きませんがね。」
「いやいや、”本所の鬼銕”を見込んで頼みたいのだ。まぁ聞け。」
聞けば、永井主計には三人の弟がおり、長弟と次弟は他家へと婿に出たのだが、主計より干支二回りも離れた末弟は三歳にして養子に出されているのだという。この末弟が金四郎だった。
「金四郎はとても聡い子でな、言葉も早く、愛嬌に溢れた可愛い子だった。それを見込まれて、子宝に恵まれずにいた遠山景好殿より熱心に請われ、遠山家に養子入りしたのだよ。」
遠山家は知行五百石の旗本であり、その跡継ぎにと見込まれての養子入りである。
「良い話じゃないですか。」
「うむ。大歓迎されての養子入りだったのだが…」
「だが?」
「養子入りから二年後であったか、遠山殿と奥方の間に諦めていた実子が生まれたのよ。」
思わず絶句してしまった。お家騒動が目に浮かぶ。
明和7年(1770年)
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