第91セット 幻惑
この回は決着と同時に、春高編前半で一番書きたかった部分の冒頭を書こうと思います。
第2セットが始まった。
麗奈以外を変え、フルメンバーで臨む小田原南に対し、平塚大北はメンバーを変えずに勝負する、というフォーメーションになった。
だがしかし、である。
Aチームで来ている、ということは即ち、圧倒的な差があるということに等しい。
しかもリザーブで見ていて情報は得ているため、平塚大北は更に苦しくなった。
枝里が孤軍奮闘して少しでも食らいつこうとするが、枝里が決めると小田原南が倍返しで連続得点を奪っていく、という展開に案の定でなっていた。
(クソッ………!! 対応力が高い………!! さっきみたいに全然決めれないし、何よりチーム全体が底上げされてる、でも諦めるな………!! 最後まで、絶対!!)
枝里は気を振り絞るものの、それを嘲笑うかのような麗奈の変幻自在なトスワークにチーム自体が全く付いていけない、そればかりか枝里を徹底マークしているにも関わらず他のメンバーが全くと言っていいほど決められない状況下では八方塞がりもいいところだった。
気付けば15-6、ここから逆転するのは絶望的と言っても過言ではなかった。
莉子奈のサーブのターンから、枝里は処理をしてレフトへの速いトスを要求した。
小田原南は例に漏れず、春希、瀬里、麗奈の3枚ブロックで対応をする。
(チームを鼓舞するのがエースでしょ……!? だったら………!! 麗奈の上からぶっ叩く!!)
力で強引に得点を奪おうと、麗奈のブロックの上から叩きつけることを選択した枝里。
しかし韋蕪樹がこれを読み、上体を起こしながら突っ込んでこれを拾い上げた。
だが短くなったため、瀬里の開きが遅れてしまった。
通常なら攻撃の幅が狭くなるものなのだが______天才セッター・倉石麗奈に掛かれば、この程度の事態は容易に対処ができる。
麗奈は低めに上げられたボールの下に素早く入り、その体勢から春希に目掛けて長いBクイックのトスを高速で挙げた。
春希はマークしていたものの、この高速トスは大北にとっては完全に想定外、しかも完璧なトスとくれば決められない道理はなかった。
春希はそれに応えるかのように、思い切りコートにボールを叩きつけ、16点目が小田原南に入った。
(な、何よ、この理不尽は………ダメだ、何度やっても勝てる気がしない………!! 個人だったら引けは取ってないけど………チーム力があまりにも違いすぎてて追いつけない………)
枝里は圧倒的な差を見せつけられ、理不尽さを味わった上に希望をも見出せずにいた。
麗奈はブロックの的を、その後も全く絞らせないトスワークを見せつけていき、20点目を取ったタイミングで瑠李と交代をした。
「どう? トスの調子。」
ベンチに座って水を飲む麗奈に、麻衣が状態の可否を聞いた。
「いつも通り。ただ………まだ合いきっていないかな………もう少し、なんていうのか………意識と意識を繋ぎ合わせる、というか………そういうのを微調整していかないと碧南とか、カワタチには絶対勝てない。みんなの120%を引き出さないと………私1人じゃ限度がある、インハイに行った組には到底勝てる要素が見当たらない。」
「うーん………側から見たらビシバシ合ってると思うんだけど………まだ納得してない感じ? 麗奈は。ホント………天才の考えてることは分かんないわ………」
「だいぶ考えについて行けるようになってきたから、合ってるように見えるだけ。雰囲気は橋誉より全然いいよ、今のワラナンの方が。どんなトスが来てもいいように準備しているから脳内処理をしてるだけで………本来なら0.1秒、今より反応を速くなくちゃいけない。本能の部分がまだ足りていないね、改めて思ったのは。私に合わせている“だけ”の現状な以上、勝てたとしてもフルセットが関の山、私自身も納得はしてないしね、今はまだ。」
向上意識が凄まじいな、と麻衣が感心していたその時、試合が終了した。
ストレートで準々決勝を勝ち、因縁の相手・大和碧南との春高の切符を懸けた対決に駒を進めたのであった。
太我が作ったおにぎりを全員が食べ終えた後、逆山の方の試合を見てから帰ることになった。
何しろ注目のカードがあるのだから。
それは「禊応大附属」vs「横浜親愛女学院」とのベスト4を懸けた試合だった。
だがしかし、試合は大方の予想の禊応優勢かと思われていたものの、思わぬ事態が禊応を襲っていたことで、親愛の曲者ぶりが徐々に禊応を飲み込んでいき、小田原南女子バレー部の目に飛び込んで明らかになるのであった。
次回から禊応vs横浜親愛です。
最後の全中優勝メンバー・理央が出てきますので、よろしくお願いします。




