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第90セット 枝里の変化と地盤の成長

変化を見せる回。


 さて、小田原南は平塚大北に先制をされたわけだが、Bチームには慌てる様子は一切なかった。


それどころか余裕すら感じられる。


平塚大北からサーブが始まるわけではあるが、蓮は難なくこれを処理する。


攻撃は2枚であるのには変わりはない、だが以前と違っていたのはBチームの成長の度合いだ。


平塚大北は相変わらずコミットブロックという形を取っていたが、麗奈を中心にしたコンビバレーを信条とする小田原南だ、この程度のフォーメーションなら容易に破れる。


普通なら初手はさやかでサイドアウトを取りたいところだろうが、麗奈はさやかをBクイックに飛ばせ、ライトへの平行トスを挙げた。


(くっ………!! 前より速くなって………!!)


枝里が追いつけない程で、全てを振り切る圧倒的トスのスピード、しかも芽衣はそれを難なく打っていった。


それをベンチで見ていた夏岡と麻衣の2人は、というと。


「な? 言ったろう? これが進化した小田原南さ。麗奈はトスを磨いて………みんなは基礎的なものを上げた。私はなにも、特別な練習は一切してない、そこに麻衣の微調整的な教え方、不測の事態にも対応できるようにチーム全体が強くなろうという心_____コンビバレーの精度じゃあ、付け焼き刃の大北には負けはしないさ。」


「なるほど………ただ……止められますか? 鮫島さんを………」


「どうだろうね………さやかくらいしかいないと思うよ? 正直。だけど、Bは守備は悪くない、ノーガードの打ち合いになるのは確実さ。だからこそ、粘り合いの勝負になる。ま、心配はしてないよ、Aチームの()()()だからね。粘り勝ちしてもらわないと寧ろ困るくらいさ。計算を重ねていないと………こういうことはしていないよ。」


「………それじゃ、そのように見ておきます。」


夏岡の作戦にはあまり賛同しきれない部分はあった麻衣だったが、勝てばいいか、というくらいの楽観的な感覚で試合を見ていくのであった。





 試合は案の定、夏岡の予想通りに進んで行った。


平塚大北は、コンビネーションを多用していくものの、それを悉く決めさせない小田原南、対して大事なところで枝里に決めさせようと、さやかの強烈なクイックや真理子の高い打点からのスパイク、芽衣のキレのある攻撃も拾って行き、粘りのバレーを見せて、押されながらも簡単には決めさせない展開が続いていった。


しかも変わっていた点が枝里にもあった。


これまでは決めやすいところに打ちに行くスタイルだった枝里ではあるが、躊躇うことなくクロスを打ちに行ったり、長いスパイクで針の穴を通すようなスパイクも放つようになっていたことだった。


奪われた得点はほぼ全て枝里が奪った得点によるもので、小田原南が優勢であるのには変わりないものの、それでも攻撃力が高くない恵那と彩花のローテーションの時に取られているケースが多く、攻め手に少し欠ける場面が目立っていた。


現在15-13。


得点以上に試合時間が長くなるような、ラリー合戦となっている。


ただ僥倖だったのが麗奈のサーブのターンであることだ。


(………まあ、こうなるのは予想はしてたけど………ここまで行くか。まあそれはいいや、私は私のやることをやるだけだから………)


麗奈がジャンプフローターサーブを放ち、相も変わらずユラユラと不規則にサーブが揺れた。


枝里は何とか処理したものの、短くなった。


枝里は自分に挙げるよう要求した。


さやか、芽衣、真理子の3人で3枚ブロックに飛ぶ。


麗奈はロングスパイクを警戒したのか、蓮と彩花に後ろに位置取るように陣形を指示する。


しかし、枝里は中央にフェイントを選択した。


完全に意表を突かれた格好になったが、Bには()()()()()()()()()()蓮がいる。


持ち前のダッシュ力と好反応で難なくボールの下に入った蓮は、麗奈が入りやすい位置にアンダーを挙げた。


(クッ………アレを取るか、ワラナンは………!! 絶対に取れると思ったのに、あんな隠し兵器がいるなんて………!!)


してやられた、という表情をする枝里、だがその動揺を麗奈が見逃すわけがなく。


超高速の平行トスをBクイックという形で挙げ、さやかは豪快にコートに叩きつけた。


インコートになり、さやかはガッツポーズを取った。


元モデルのさやかの、渾身のガッツポーズはとても絵になるものである。


そして中央に集まった時に、弾ける笑顔もまた、いいものであった。


「さやか、いいよそういう感じで。」


「えへへ………ありがと! 練習した甲斐があったよ!!」


(やっぱ成長力が凄いな………普通ならこの段階で選手としての底が見えるもんなんだけど………さやかには()()()()()()()()()()………まだまだ粗削りだけど………これが数年経ったら………本当に、日本だけじゃない、世界をも制するセンターになるね………)


麗奈は相変わらず感情を表には出さなかったが、リラックスして試合に臨めていて、しかもいとも簡単に決めてしまうのだから、末恐ろしさを内心で感じていた。


その後、平塚大北は驚異的な粘りを見せるものの地力では小田原南の方が何枚も上手だった。


第1セットは25-19で終えたのであった。




 さて、コートチェンジとなり、Aチームに警戒するべきところを麗奈は伝えた。


「やっぱりディフェンスがいいチームなのは変わりがないですね。それに、枝里さんのスパイクの威力が上がっているのは事実です、ですが………枝里さんが突出しているだけで精度はまだそこまででもないです。ということでこのセットは………春希さんを主体に攻めます。ああいうディフェンシブなチームには、力でゴリ押しした方が有効だと思いますんで。」


「りょーかい! 任せといて、麗奈!」


と、莉子奈は守備面についても麗奈に質問をする。


「それはいいとしてさ、麗奈。陣形とかはどうする? 次さ、碧南だよ? それに向けたら下手なことは出来ないし………」


「大丈夫です、触ってくれれば何処へだって挙げますんで。いつも通り、やってくれれば大丈夫ですよ?」


「………まあ、それならいいか。やってみよう、それで。」


莉子奈も渋々了承したところで、第2セットが開始されたのであった。

次回は決着と同時に、前半戦最大の見せ場の試合・『禊応義塾大附属VS横浜親愛女学院』の試合をお送りします。

お楽しみくださいませ。

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