第88セット 過去との訣別
前回登場した横跳びクイック、アレは俺が現役時代の時に使ってたスパイクです(ちなみに完全習得するのに2ヶ月半かかりました)。
さて、今回は決着まで一気に駒を進めたいと思います。
で、ベスト8までカット(諸事情というか、あまり強く無いところばっかなので)。
前半のメインが準々決勝ですからねー、春高予選編。
麗奈がピンチサーバーとして投入され、麗奈はエンドラインを跨ぎ、ボールをバウンドさせる。
現在19-1。
圧倒的な状況下だったが、ここで夏岡は一気に畳み掛けたいのだろうという意図が見えてきた。
笛が鳴り、麗奈はジャンプフローターサーブを放つ。
鋭く伸びたサーブは、空気抵抗を受けて変則的に揺れる。
一瞬、宗陽がアウトと思って避けた球が、急激にエンドラインに落下してあっという間にサービスエースを奪って20-1とした。
そこから、3連続でサービスエースを奪って23-1と一気に追い込んでいく。
史緒里が檄を飛ばすものの、他の選手の表情が絶望的な顔色に変わっていく。
だがしかし、試合は容赦なく進む。
麗奈がサーブを放ち、ボールは史緒里に飛んだ。
舐めるなと言わんばかりにAパスで処理をする史緒里。
そして自らスパイクをトスを挙げてもらって韋蕪樹の右手を狙うことを意識して放った。
そのボールは、何の因果か瑠李の方に飛んだ。
瑠李は腰を落としてアンダーハンドでボールを挙げる。
そしてそれを麗奈に託した。
だがここで麗奈は驚きの選択をした。
過去一度も試合で使ってこなかった、莉子奈のバックアタックだった。
しかしこれも、麗奈の復帰後に練習してきたことだった。
麗奈がチームに加わったことで、元々あった発想力が強化され、更に合宿で宇月の変幻自在なトスワークに刺激をもらって発想力のある攻めを先鋭化をさせた結果、チーム全員がバックアタックを放てるように進化させた。
莉子奈はブロックを物ともせず、ストレートへ長いコースの軌道を描いたスパイクを放った。
ディグを弾き、小田原南がセットポイントを奪い取る形になった。
莉子奈はガッツポーズを取り、全員で円陣を組んで讃えあった。
そして麗奈は声を瑠李にかける。
「次行きますよ、瑠李さん。」
「ん。了解。」
2人はそれだけを言葉で交わし、グータッチを交わして麗奈はサーブへと向かっていった。
麗奈はサーブをライトの前に落とし、なんとか取ったものの小田原南のコートに帰り、チャンスボールに。
春希が3歩ほど下がってオーバーパスを麗奈に出す。
藍がすかさずAクイックに入り、準備万端の体勢に。
麗奈はポン、とトスを藍の真後ろへと挙げた。
(またバックアタック………!? でも莉子奈はリバウンドの体勢、ってことはまさか………!!)
史緒里は一瞬判断が遅れたが、それが命取りになった。
そう、瑠李がバックアタックに入っていたのだから。
「小田原南の今までになかった形その2」・瑠李のバックアタックだった。
瑠李はアタックラインを踏まないように気をつけてジャンプし、鋭いスパイクをクロスに、角のコースに向かって放った。(事実、瑠李の身長とジャンプ力ならここくらいしか狙えないものである。)
史緒里のブロックをすり抜けた形になり、レシーバーも対応が遅れ、25-1となり、小田原南はアッサリとセットカウントを一つ先取したのであった。
第二セット、小田原南は藍に代えて瀬里を投入する。
こうして始まった第二セットであったが、小田原南は先程よりはポイントを許すものの、このセットは春希のスパイクが冴えに冴え渡り、瑠李も多彩にトスを散らしていくことでブロックの的を絞らせなかった。
22-6となったところで、莉子奈のサーブターンになった。
前衛には史緒里、そして小田原南には瑠李が。
莉子奈はサーブを放ち、宗陽はレシーブで取り、セッターがトスを挙げる。
そして当然のごとく、トスは史緒里に挙がる。
(瑠李………私はアンタに心底ムカついてた………どインキャのクセに………!! 監督からも可愛がられて、春希からも好かれてて………!! そんでチームにも愛されて………!! ああイライラする………なんでアンタみたいなのがチヤホヤされて、私には賞賛も何もない………瑠李の全部が気持ち悪い………!!)
今までの鬱憤が煮えたぎったような顔をする史緒里、そしてスパイクを思い切り瑠李の手に目掛けて渾身の力で放った。
だが、瑠李も意地があった。
無理を承知で夏岡に言い、スタメンに出たこと、その責任感を持っていた。
そして感じていた。
共に戦う、仲間の背を。
(史緒里が私を狙うのは分かってる………だから絶対止めてみせる!!)
弾かれぬよう、指に目一杯力を込め、ガッと拡げた。
放たれたスパイクを瑠李は右肩をグッと締め、スパイクをシャットアウトした。
ショックで呆然とする史緒里に対し、瑠李は汗を拭って、こう史緒里に言い放った。
「アンタにも色んな考えがあるかもしれないけど………私にもアンタにだけは絶対負けらんない理由があんだよ………!!」
眉間に皺を寄せ、侮蔑をするかのように嘗てのいじめっ子を睨みつけた瑠李、これでもう勝敗が決まったようなものだった。
23-6とし、最後は春希のスパイクを2連続で史緒里の上から叩き込んで、セットカウント25-6、2-0の圧倒的ストレート勝ちで勝利を納め、2回戦進出をしたのであった。
試合後、瑠李は。
疲れたような表情で、恋人と共にベンチに座り、おにぎりを頬張った。
「………瑠李さん、お疲れ様でした。」
「うん………ありがと。よかったよ勝てて。」
「………なんで浮かない顔してるんですか? 折角トスでマークさせないで勝ったのに。」
「………疲れた。色んな意味で。けれど………今日はいつもと違ってた。」
「いつもと違ってた?」
瑠李はおにぎりを飲み込み、天を見上げた。
「………なんていうのかな、スタメンで出たのは私の我儘だったけど………よくわかんないけど、みんなから背中を押されたような感じがしてさ………こりゃ負けられないな、余計に………って。でも大幾に良いところを見せようって、気負いすぎることもなかった、いつも通り、いや………それ以上に、かな。昔だったらキツく当たってたかもしれないし、強がってたかもしれなかった………でも今は違う。大幾が側に居てくれてる、っていうのもそうだけど、みんながいたからここまで来れたんだなって、立ってみて実感した。だからまあ、そうだね………昔の私はもう居ない、漸く過去と訣別できた気がする。」
瑠李は吹っ切れたかのように、大幾に柔らかい笑みを見せた。
これを聞いて、大幾は照れ臭そうな表情を浮かべた。
「アハハ………良かったですよ、瑠李さん、今朝めちゃくちゃ思い詰めてたから………僕も春希さんから事情は聞きましたし、多分それかもなー、って。でもホントにホッとしましたよ、僕も。やっぱ気楽に何かやれるのが1番いいですよね?」
「フフッ………なに、一丁前に可愛いこと言っちゃってさ〜〜??」
そう言って瑠李は人差し指で大幾の頬をツン、と押した。
仲睦まじい2人を他所に、他の高校の試合が淀みなく行われていくのであった。
そして小田原南は、難なくベスト8まで進出した。
準々決勝の対戦相手は、インターハイ予選でも戦った、「平塚大北高校」に決まったのである。
次回は平塚大北in春高予選。
この試合は変化をテーマに書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。




