第83セット 「くたばれ、クソ親父」
今回はあれです、瑠李の親の断末魔的な展開です。
瑠李は暗くなる描写はこれまではちょっと多かったな、と思いますが(実際作ったの俺なんですけどw)俺の推しだけじゃなく、現実の全ての虐待児童が少しでも救われる方がいいと思って書いてますので、親の虐待を疑ったらすぐに皆様も警察に訴えてください(切実)
春希が韋蕪樹に、瑠李のことを話した。
どういう出会いをして、どう仲良くなっていったのかを。
「最初はさ、中学の時でね………同じクラスでさ、今もそうなんだけど、私のちょうど前の席だったんだよね、瑠李が。」
「あー……出席番号、近いですもんね。『亀』と『河』って。」
「そーそー、それでさ、瑠李さ、最初メガネ掛けててさー………そんなに印象がなかったんだけど、なんか妙に気になっちゃってね。それでバレー部に誘ったらさー……これが反応が面白くってさ!!『え? え? 私なんかでいいの………!?』みたいな感じでね!? それで好きになっちゃったね、面白すぎて!!」
「あー………なんか分かりますね、瑠李さん、今もそんなに喋る人じゃないし………大人しいっていうか………」
「で、バレーを教えることになったんだけどね、私が。ホントにスポーツやったことないの、ってくらい上手いのよ、これが! ハンドリングはその時から柔らかかったしね、ホントに吸収が早かったなー………ってことはマジで覚えてんの。」
「そうだったんですかー………でも瑠李さん、私が1年の時からレギュラーだったですよね??」
「うん、夏休みに入る段階でもう、相模原東のセッターだったからね、普通セッターってさ、恵那みたいな弱いところはともかくさ、経験者じゃないと中学のバレーってならないじゃん? ホント早かったよ、瑠李の成長度合いは。でもなんていうのかな、褒められてないのかなんなのか………さ? 戸惑ってたね、私が最初褒めたら。」
「………戸惑ってた、ってどういうことですか?」
「まー……これはさ、後で知ったんだけどね? 瑠李から話聞いて。アイツの親がヤバい人だってのはさ、韋蕪樹も知ってるじゃん?」
「それはそうですね。元さんはめっちゃ優しい人なのに………」
韋蕪樹も元のことは面識があるようで、そういう意味でも相槌を打っていた。
「でしょ? なんであんな親からいい兄妹2人が生まれるのかな、って。でねー………5月に入ったあたりかな? 練習中に腕の傷痕が気になってさ? 居ても立っても居られないから聞いたのよ。そしたら………ね、今まで見せたことない反応してね? 顔も震えてた感じだったからさ、ああこれ、絶対なんかあるよなー……って思っちゃって。でさ、ウチに誘って母さんと事情を聞いたんだよ。そしたら出てきたのは韋蕪樹の知ってる通り………。元さん、瑠李に友達が出来た、って解って凄い嬉しそうだったけど………同時に覚悟を決めた顔になってね。そっからかな、遊びに行ったりするようになったの。反応がウブだったからホント、見てて飽きなかったしね。」
「そこからかー………まーでも、一時期仲悪くなってましたよね? それは春先で知りましたけど………どう思ってたんですか? その時は。」
「んー………そうだなぁ、瑠李はこういう時、どうしたらいいか分かんなかったんだってさ。そもそも私と会うまで友達居なかったっていうしさ、瑠李。まあしょうがないよな、そこは、って感じだったよ、私は。なんだかんだでその時期も信頼は置かれてたしね、今思えば不器用な瑠李らしいなー、って。私は………うん、あの時のことを引き摺ってるんじゃないか、って思ってたから………上手く言え出せなかったな、って。今ならそう思う。でも瑠李は私の気持ちを分かってくれてるのかなー……ってその時は思ってたよ、バレーの時は。」
「阿吽の呼吸、ってヤツですか? それ。」
「そうそう。今の方がさ、そりゃ仲はいいけど………うん。正直心配だった。悪い方向に走りそうで。瑠李がワラナンに行くって知った時は………ほっとくわけにもいかない、って気持ちの方が大きくってね。それがワラナンを選んだ理由だった。あの親でさ、あんな目に学校でも遭っていたらさ………私の知ってる瑠李が居なくなっちゃう方がさ、怖かった。じゃなきゃワラナンに絶対行ってないと思う。」
「アハハ………春希さんらしいですね。世話焼きっていうか。でもそうですねー………私もなんでワラナンに行ったのかはよく分かんないですけど、春希さんと瑠李さんが居なかったら………多分選択肢の眼中にも無かったと思いますしね。」
「うん、それはそうだと思う、私も。」
韋蕪樹の返しに、春希は笑いながら答えを返した。
「やっぱきょうだいが多いとさ、自然とそうなるよ? そういう点は瑠李とは合わないけどさ、でも瑠李もいいお兄ちゃんを持ってるしさ、そこは羨ましいなー、って。私、3番目でさ、男の上の兄弟がいないからね、私のお兄ちゃんがああだったらなー……って思う時はあるね。あときょうだいが多い、っていう点はさやかと話が合う。」
「………そんな春希さんだから、瑠李さんと仲良くなれたんじゃないんですか? 分かりますもん、頼りたくなるオーラが滲み出てるから。」
「そうだねー………うん、そうだよね。私もさ、瑠李が友達で良かったと思うよ。」
その後も2人は談笑をしながらラーメンを啜っていったのであった。
翌日。
瑠李は練習に復帰し、チームからは同情の言葉が掛けられた。
春希の家に2日泊まったことでリフレッシュもできたようだった。
そしてその練習後だった。
帰る準備をしていた際、瑠李のスマホが鳴った。
着信だった。
「ん? アレ、お兄ちゃんから……? なんだろ………もしもし?」
電話の主は元だった。
『ああ、瑠李か? 練習終わった頃だろうな、って思って連絡したんだけどよ………』
「え? あー、うん。丁度終わった。で、どうしたのさ、なんかあった?」
『親父たちの逮捕状が請求されたってさ、昨日の夜中に。俺の電話に連絡が来てさ、ビックリしたよ。マジか! って。』
「………そんでさ、逮捕っていつになるの?」
『もうそろそろだと思うが………俺もこれから帰るところだからよ、なんだったら駅まで迎えに来てやろうか?』
この元の言葉に、瑠李は考えるように少し唸った。
「うーん………そうする。お兄ちゃんが居てくれた方が心強いし。」
『分かった。それじゃあそうしとくわ。』
元は電話を切ったようだった。
瑠李は颯爽と着替え、張り詰めた顔で更衣室を飛び出していった。
春希も後を追い、瑠李と共に帰ることとなるのであった。
そして数十分後。
相模原駅に到着した2人は、元の車に乗って瑠李の自宅まで送り届けられた。
すると見えたのは、パトカーが数台、そして手錠を填められて警察官に連行される姿があった。
母親はフードで顔を隠し、義父は何か暴言らしき言葉を吐きながら渋々連行をされているようだった。
「………ホントに………捕まったんですね、これ………」
春希がボソッと呟いた。
そしてふと振り向くと、怒りを滲ませる瑠李の姿があった。
「………黙って見守ろうぜ………もう会うことはねえんだからよ………」
元もバックミラー越しに眉間に皺が寄っているのが分かった。
思うところは同じなのだろうな、春希はそう思った。
一瞬沈黙が流れた後、瑠李が勢いよくシートベルトを外した。
「………ちょっと行ってくる………」
「ちょ、オイ!? 瑠李!?」
元の制止を物ともせず、瑠李は車から飛び降りた。
「オイ!! なんでなんだよ!! この俺が捕まるとかねえだろうがよ、オイ!!」
今にも暴れそうな瑠李の義父、それを必死で抑える警官、そしてパトカーの前には。
瑠李の姿が。
「娘」として言いたいことがある、ということで許可をもらって立っていた。
「オイ………!! テメエか? 俺らを売ったのはよぉ………?」
瑠李は上目遣いで睨みつけながら、義父にこう言い放った。
「そーだよ………なんか文句でもあんの………?」
「オイ、瑠李………!! 10年も『親父』として面倒を見てやったのを忘れたのか、テメエ!!」
恫喝にも近い叫びを挙げる義父、だがもう、瑠李は動じなかった。
完全に訣別をする気でいたのだから。
瑠李を苦しめ続けた「悪夢」を断ち切るために。
「どのツラ下げて『父親』なんて名乗れるんだよ………!! だからアンタに一言送っとくよ……!!」
こう言った瑠李は歯を食いしばり、義父の左頬に目掛けて平手打ちを思い切り放った。
バチィン!! という音が鳴り響いた。
そして瑠李は、義父に告げた。
「………くたばれ、クソ親父………!! もう二度と…………!!!!! 私らに関わんじゃねえよ!!!!!!!」
今までの恨み辛みが一気に噴き出したのか、この場で瑠李は義父に対し、“絶縁宣言”を申し上げたのであった。
尚も暴言を吐いて抵抗する義父に対し、瑠李は何も言わずに睨み続けた。
パトカーに義父と母が乗せられた後、「気は済んだかい」と担当の警官に瑠李は声を掛けられた。
「………ええ。両親を………よろしくお願いします。」
警官は瑠李に敬礼をし、サイレンを鳴らしながら瑠李の自宅を後にしていったのであった。
「………終わったな、瑠李………」
「………うん。」
元は瑠李に、ボソッと語りかけ、瑠李は頷いた。
「……お前の身辺は俺がなんとかするからよ………瑠李はもう、完全な自由だぜ?」
「………うん………今までありがと、お兄ちゃん………」
瑠李は感謝の言葉を、元に静かに告げた。
元はこれを聞き、苦笑いを浮かべる。
「………バカヤロウ、俺じゃなくて春希に言えよ、そういうのは。俺は………なんもしてねえよ、ただ瑠李が心配だっただけだ………良かったな、ああいう友達を持ててよぉ?」
「………そうだね………春希にも………みんなにも、感謝してる。」
「それじゃ、春希を送っていくからよ、瑠李は休んでろ。」
「……わかった。」
元が車に戻ったあと、瑠李は玄関の軒先で座り込んで溜息を吐いた。
(やっと………終わったなぁ………10年、か………長かったな、ホントに………でもホントに………ワラナンのみんなに会えて良かったよ………特に春希には………ハー、疲れた………今日はもう寝よ………)
長い悪夢が過ぎ去り、瑠李の心に漸くモヤが消えた。
そう思うと瑠李に一気に疲労感がどっと噴き出したのであった。
数時間後の夜のニュース中の倉石家では。
瑠李の親が逮捕された、という報道がされており、2人とも容疑を一貫して否定しているとの内容だった。
麗奈はそれを歯を磨きながら見ており、相変わらず表情は変わらなかったが曇った雰囲気を纏っていた。
「………つくづくクソ野郎だね、瑠李さんの親は………」
ボソッとそう呟きながら、シャコシャコと歯磨きをしていく麗奈。
そしてそれを聞いていたのは奏子だった。
「あー、『亀貝岳道』のこと? ………まー、碌でなしだったからね、新聞社内でも警戒されてたくらいには。」
「……叔母さん、知ってるの?」
「そー、だね………半グレのヤバいヤツでさ、反日デモを主導してたりもしてさ、社内でも手を出そうにも出せなかったヤツなんだよ。娘を虐待してる、って噂だったけど………ホントだったんだね。それでいて否認するのはよっぽどクズだよ、麗奈ちゃんの先輩が売りたくなるのは分かる………あとから余罪はボンボン出てくるだろうね、あの男に関しては………」
「………だろうね、あの様子じゃ。」
元新聞記者である奏子の解説を聞き、麗奈は納得をしたようだった。
「世の中そういう奴もいるの。いつの時代も人間が最大の凶器なのよ。それに報道も面白おかしくは絶対書けないよ、この事件は。だって被害家族を傷付けてしまうから。だからこういう凄惨になりかけるような事件はちゃんと背後関係を洗ってから報道するのが決まりよ。あることないことを書くことは勿論ある、でもそれは………報道の本質なんかじゃない。麗奈ちゃんもさ、そういう事に直面することはある、だけどちゃんと反論はしなさい? そうじゃなきゃ、未だに鵜呑みにする人もいるわけだから。」
「…………そうだね、肝に銘じておくよ、叔母さん。」
麗奈は軽く頷きながら、洗面所に向かっていき、口を濯いだのであった。
久しぶりにこんな長く書きましたね。
バレーの描写でもないのにwww
プレリュードは一年生編しか書きませんけど、瑠李は救われるべき、と思って書いてますのでご容赦いただきたい。
さて、次回から2話は、プレリュード②です。
次回もまた、瑠李が主人公になるので瑠李がどうなるのか刮目してください。




