第8セット 人間不信の「独裁者」
今回は紅白戦前日を描きました。
瑠李と春希の関係を掘り下げます。瑠李の態度がなぜああなのか。分かるんじゃないでしょうか。
登場人物紹介。今回はさやかとなります。
岡倉さやか 小田原南高校1年生 享栄学園中出身 1月30日生まれ A型 ミドルブロッカー 右利き バレー初心者 189センチ71キロ 3サイズB92W59H89 好きな食べ物 アクアパッツァ 趣味 下の兄弟たちと遊ぶこと、ショッピング
ダブル主人公兼ダブルヒロインの1人。
元モデルの元芸能人で物語開始の2ヶ月前に芸能活動の休止を発表し、地元の小田原に戻っている。5人姉弟(さやか、弟、妹、弟、弟の順)の一番上で、家族を楽にするために8歳からモデルを始めたのだが、事務所との対立で退所。たまたまJOC杯の決勝を訪れ、麗奈のトスを目の当たりにしたことでバレーボールの全日本代表を目指すことを決意する。
明るい性格で純粋無垢なのだが、勘が恐ろしく鋭いので人の悪意には敏感。SNSフォロワー数は30万人程で、その中に麗奈も入っている。
スポーツ経験はないが、運動能力が高く、運動神経もかなりいい。また動作の飲み込みが早い。
手足の長さを活かしたプレーを今習得中。センスの高さにはチームメイトにも一目置かれている。
意外と純心で色事にはかなりウブ。
さやかがシューズを買った翌日の練習後。
瑠李はまた1人でトレーニング室へ足を運んでいった。
麗奈には1つ疑問があった。
瑠李は何故、1人を好むのか。
そこが一番気になっていた。
「……すみません。トレーニング室へ行ってきます。」
「? いいけど、なんで? 麗奈。」
不思議に思った莉子奈が理由を聞いた。
「……1人を好む人って、必ず理由がありますから……。それを確かめに行くためです。多分、私たちに話せない何かがあるんじゃないかと思ってます。……それでは、行ってきます。」
そういって、部室を離れた麗奈。
残された全員は呆気に取られていた。
「……そういやあ、私ら3年間一緒にやってきたけど、未だに瑠李の考えてることが分かんないんだよね……。私らと絶対つるむことなかったじゃん、今の今まで。アイツ大抵1人だったからさ。」
麗奈の行動力と引き換えに瑠李とうまく絡めなかったという三年生陣。
瑠李の信頼度や人望が低いのもそれかもしれない。
莉子奈がそういうのも納得はいく。
「いやー……でも一番遅くまで残ってるのも実際瑠李だしなぁ。トスはすごく上手い方だと思うし、私らもミスする時はあるよ、勿論。でも瑠李が明らかに悪い時に逆ギレするのだけはどうにかしてほしいってのはあるんだよね。……でもそれ以前に瑠李があんまり喋ってるのを普段見たことないしなあ……。」
瀬里もなんだかんだで認めてはいるが、チームとしてもっとしっかりしてほしいという思いはあるようだった。
「………春希……韋蕪樹……。心当たり…ある? ……中学から一緒……でしょ?」
普段無口な藍も会話に乗ってきた。
実は中学から春希は同期、韋蕪樹は直属の後輩で、おそらく瑠李を一番理解しているのはこの辺だ。
ましてや春希は中学から6年間クラスが一緒だったわけで、瑠李を最もよく知ると言っても過言ではない。
「うーん……どうなんだろ……。アイツ元々シャイな奴だしなあ……。心当たりがないって言ったら嘘になっちゃうけど……単純に人付き合いがヘタなのはあるんだろうけど、それが原因で引退してから心閉ざしちゃったりしてたしなあ……。」
春希はどうやら何か知ってはいるようだったが、明言はしていなかった。
春希でも言いづらい何かが瑠李にあるのだろうか。
「瑠李さん、中学の時はあんな人じゃなかったんですけどね……。むしろめちゃくちゃ優しい人でしたし……。でもよくよく考えたらあの人が笑っているところとか、一度も見てないですね……。」
「え……? 優しかった? 瑠李さんが??」
韋蕪樹の告白に、桃華は驚いた表情を見せた。
厳しい人柄なのは全員周知の事実として分かっていたが、優しさのかけらは見せたことがなかった。
少なくとも、この「ワラナン」では。
「うん。……だからさ、何かあったんだと思う。春希さんも言ってたけど、中学の時に引退した数ヶ月の間で。」
「……確かにさ、私ら一年生はさ……どこか話しにくいよね……。瑠李さんと。ピリピリしててなんか怖いしさ……。」
芽衣が言ったように、一年生にとって瑠李は1番の畏怖の対象になってしまっている。
そんな瑠李と近づこうと、麗奈はしているのだ。
「……私も行ってきます! トレ室に!」
さやかはそういってトレーニング室へ駆け出していった。
「ハア………しゃーないなあ。こうなったら……。ごめん、私も行ってくる。」
春希も頭を掻きながらトレーニング室へ向かっていった。
「……瑠李さんのことさ、どう思う? 彩花。」
恵那が彩花に聞いてきた。
「え……!? え、えええっと……あのー、私が言うのもなんだけど……意外とさ、その……内気な人だと思う! 私は! なんかさ、その…ええっと……。」
「……似てる、ってことですか? 彩花さん。」
テンパる彩花に蓮がフォローを入れた。
「う……うん、そんな感じ、かな?」
「急に振られて回答に困るのは分かりますけど、もうちょっと落ち着いてください。彩花さん。」
真理子がツッコミを入れた。
麗奈に抱きついた時とは真逆の冷淡な対応だった。
「で、そういう恵那はどうなのさ。まいっかいアンタ、瑠李を宥めようとしてるじゃん。そこら辺気疲れとかないの?」
莉子奈は恵那に振った。
この流れで想いを聞いていないのは恵那だけだったから来るのは当然だろう。
「うーん、悪い人じゃないのは分かりますけど……態度とかはちょっと私でも庇いきれないことありますし……。でも彩花の言ってることも分かりますね……。普段暗い顔してますもん。トイレから急に弁当箱を持った瑠李さん見た時ビックリしましたし。」
「そっかー………。やっぱ、閉ざしてる部分、あるのかな……? そう考えたら私ら瑠李のちゃんとした人柄知らないもんなあ……。」
恵那の話を聞いた莉子奈は自らのキャプテンとしての不甲斐なさに肩を落とした。
「でも……瑠李は今のままじゃダメだって、私らが教えてあげないとさ。……けどその分私らも頑張らないとダメだよ!」
瀬里は正論を言った。
確かにもう、瀬里もそうだが、3年生5人はもう最後なのだ。
必死をこかないでいないわけにはいかない。
「……だね……。……勝っても負けても、瑠李を分からせよう……。このままだったら勝てないって。」
藍も危機感を示していた。
チームが勝つカギは、瑠李の精神的な成長が必要不可欠だと言うことを理解していたのだった。
一方、トレーニング室。
「まあ……麗奈が来るのは分かるけど……なんで春希とさやかまで来てんのよ……。」
「いやー……アンタの話になっちゃってさ。部室で。……居ても立っても居られないから来ちゃったんだ。」
「……だからってわざわざ来なくてもよかったんじゃない? ……私のことなんて、いくら言われてもいいからさ……。自覚はしてるし。」
「自覚してるなら仲良くしてくださいよ! 困ってるんですよ!? 皆!! 瑠李さんの対応で!」
「……私、そういう人じゃないから……。」
さやかの言葉に背を向けて、スクワットを続けた。
一方、麗奈は黙々とエアロバイクを漕いでいる。
「はーあ、結局またあの感じかあ……。ま、いいや。さやか。ベンチプレス……やったことある?」
「……やったことないですけど……。」
「そっかー……。まあ教えとくよ。これから筋トレとかメニューで入ってくるからやっといて損はないよ。」
「ありがとうございます!」
そういって意気揚々とやってみたのはいいのだが……思ったより上がらなくて、35キロが限度だったさやかなのだった。
こうしてトレーニングを終えた4人は、2ペアに分かれていた。麗奈と春希、さやかと瑠李というペアに何故か分かれていた。
「……飲む?」
瑠李は自分で混ぜたプロテインをさやかに渡した。
「え……いいんですか……?」
「……さやか……日本代表、目指してるんでしょ? ……いずれ飲むようになるよ。嫌というほどさ。だから今のうちに慣れといた方がいい。」
「じゃあ……お言葉に甘えて。…いただきます。」
ぐいっと、飲み干したさやか。そのお味は。
「……あれ、美味しい! なんか……甘いっていうか……」
「……そう……。」
さやかの感嘆に、瑠李は照れ臭そうに顔を背けた。
「瑠李さんって……意外とこう…甘えたいんですか??」
「……別にそういうわけじゃないけど……普段の練習がああだから気まずいだけよ……。」
「またまたー。照れすぎですって。分かりますよ。嬉しいんですよね!? 褒められて!!」
「嬉しくはないわよ……。でも……ありがと…。」
仔犬のような目で瑠李に詰め寄るさやかを見て、ちょっと引いたところから瑠李は感謝を述べた。
一方、春希と麗奈は、というと。
「……麗奈には話してなかったんだけどさ……私と韋蕪樹は瑠李と同じ中学でさ…。私は6年間クラス一緒だったんだよ。」
「……じゃあ、なんであんな風になってるんですか?」
「……麗奈には隠し事はできないか……。……瑠李をバレーに誘ったのは私なんだ。ずっと1人で本読んでるから気になっちゃって声掛けたらさ、ホントに喋んないわけよ。頷いたけどね……。」
「……それで、亀貝先輩はどうだったんですか?」
「まあ、なんて言うのかな。バレーを楽しんでたのはあったね……。飲み込みも良かったしね。正直さ、段々と話すようになってったアイツを見てると私も楽しくなってったもんだよ。……今までさ、色んな人と付き合ってきたけどさ、一番楽しく話せたのは瑠李だったんだよ。……私の中ではさ。」
中学の時はなんだかんだ楽しんでやっていたようだったそうだ。
ではなぜ、あんなにバレーが好きな瑠李が人間的に豹変したのだろうか。
「……引退してから……ですか? ああなったのって。」
麗奈が先読みしたかのように聞いてきた。
春希は驚いた表情をした。
「……やっぱ鋭いね。麗奈は。そうだね……。引退してから……アイツの取り巻く環境が変わっちゃってさ。……要するにイジメだよ。……急にハブられ始めちゃってさ……。瑠李が。私も標的になりかけたしね。瑠李と一番仲良くしてたのは私だし。だからさ……イジメをしてる奴らと瑠李の間を取り持ってたんだけど……それ以上にアイツの不信感が勝っちゃってさ……。それ以来、ああなってんだよ。……元々家庭環境に問題があったヤツだからさ。……それで余計そうなったんだと思う。」
「……でも一緒にいようとしてるのはなんでなんですか? ……河田先輩が何故、亀貝先輩を見捨てようとしていないのか、そこが知りたいんです。」
麗奈はそこが気になっていた。
瑠李の性格なら、春希を突き放してもいいはずだろうに。
「……ネグレクトだよ。要するに。アイツの場合ね。
……それがイジメの原因かもしれないけどさ、一回気にすんなとは言ったんだけどさ……中学の時。そしてら瑠李に思いっきり廊下で突き飛ばされちゃってさ……無言で。あの時の目は……本当に怖かった……。
それ以来、瑠李と遊ぶことはなかったんだけどさ、……やっぱ、私がバレーの道に誘ったし、何より親からも肯定感を受けてこなかったヤツだもん。……あのままなら絶対悪い方向に行っちゃいそうで怖くってさ……。そっちの方が。
見捨てられないよ。だって……友達だもん。今でもさ、ヨリは戻しきれてないよ。ずっと声掛けてるんだけど……。高校に入っても。私からも、バレー部の皆とも、去年とかは先輩との対立も絶えなかったからそれもあるんだけど、事実上いい印象を持たれていないのはあるよ。距離置かれすぎてるくらい置かれてるから……」
「……だったら、私がキッカケ作るんで、河田先輩だけでも距離縮めてみたらどうですか?」
「え??」
麗奈の提案に、春希はキョトンとした顔をした。
「……ああいう人って、理解者が欲しいんですよ。……私の見立てでしかないですけど、本当は優しい人だと思います。でも……優しくされることを知らない……。
……いっそぶつかり合ったら、折れますよ。理解者になりきれてないところから脱皮する方がいいんじゃないでしょうか。河田先輩が。
……亀貝先輩は、自分を大きく見せてるってだけで、実はわかって欲しいってタチだと思いますよ? ……私も嫉妬の念をぶつけられる事、良くありますから。……お互いが気持ちを吐き出せればいいんじゃないですか?」
「……まあ、シャイなヤツだからなあ……どうなるかは分からないけど……それでアイツの人間不信を解消できるんならさ、やってみるよ。……ありがとうね。麗奈。」
「……どうってこと、ないですよ。人の過去を知っていると知らないのとでは、対応の仕方が大きく変わりますから。……瑠李さんはまだ、強くなりますよ。このチームも。……私が保証します。」
レギュラー争いのライバルとして、同じセッターとして、瑠李の成長がやりがいがあると思っているような顔を麗奈はしていた。
表情は相変わらず無表情ではあったが、心の中では、楽しそうな表情をしていたのだった。
瑠李みたいな人って、本当に理解されにくいんですよね……。俺も結構人と距離を取りがちなので、自分と重ねながら書きました。
過去が今の人格を作っているというだけで、本来はさやかとのやり取りで見せたような、シャイでめちゃくちゃいい奴です。麗奈はわりかしそこを見抜いてます。まあ、詳しいことは今後の紹介コーナーで話しますが。
次回は莉子奈の紹介です。また、次回から紅白戦の開幕です。この回までの話は前日譚です。こっから試合もガンガンしていくので、これからもよろしくお願いします。人間的なことも掘り下げることもジャンジャンしますので。




