第79セット 夏岡、初めてのスカウト
もう少しでこの作品が1周年を迎えることになります。
なので、投稿頻度を上げていこうと思います。
さて、この回は夏岡先生が3人をスカウトするのがメイン回となります。
あとは秋山先生とも呑んだりもするので、若干長くなりますね、これwww
さて、今回の登場人物紹介、今回はひかりです。
高橋ひかり 小田原市立橋誉中女子バレー部3年 8月11日生まれ AB型 ミドルブロッカー バレー歴は小4から 右利き 180センチ 63キロ 3サイズB86W58H83 好きな食べ物 林檎 趣味 手芸
チーム最長身の選手で、広い額が特徴的。
今年度のU15全日本代表候補。
ブロック力が高く、タイミングの取り方が上手い。
ただ、クイック力は並程度。
乃恵留や泉水と同じく、前年度は麗奈派に属していたほど、哀羅のことはあまり好いていない模様。
性格は比較的大人しめ且つ真っ直ぐな性格で、喧嘩が起こった際には仲裁に入ったりと調和的な性格。
小倉からも信頼は厚く、成績もトップクラスな優等生でもある。
麗奈達がストレッチを終え、宿に戻る準備をしていたところだった。
「れーな、せーんぱーーーーーい!!!」
と、乃恵留が叫びながら麗奈に抱きついてきた。
それも、勢いよく後ろから。
「わ、ちょっ……ノエ、急に来ないでよ……」
流石の麗奈も、これには一瞬動揺を見せたが、乃恵留は元々麗奈に対してだけはこういう性格だ。
去年までこういうやりとりはしていたので、手慣れた感じで左肩をスッと入れる。
「いーじゃないですかーーー!! 久しぶりなんですから!!」
「ホント相変わらずだなぁ、ノエは……それで? 進路決めてるの?」
「あー……一応、何個かは誘いはありますけど……でも麗奈先輩と一緒にバレー、やりたいですから!!」
「……ま、ノエだったらウチの空気は合うと思うよ。来年は右のエースが不在になるから欲しいというのはあったし……そう言ってくれると助かるよ。」
実のところ、小田原南にはエース的立ち位置は韋蕪樹で賄えるため、まだ救いはあるのだが、右の強打者が存在しないのも事実、芽衣や彩花は技巧派なのでレシーブも上手く、且つスパイクもパワフルな乃恵留は格好の穴埋め材料になる。
ただ、乃恵留には一つ、致命的な弱点があった。
それは_____
「そう、ですね……いい意味で自主性は取れてるって話は聞いてるので……肘の状態も考えたら公立の方がいいですよね……」
「……そんなにヤバいの? 今。」
「……そうですね……みんなには言ってないですけど……何処で爆弾が爆発するか分かりませんから……」
そう、2人のやり取りから分かる通り、乃恵留は肘に爆弾を抱えている。
乃恵留は小学生時代に野球肘を発症してバレーボールに転向したほどで、その痛みが今、再発しつつあった。
つまり曰く付きの肘で、エースの重圧と主将の責任感から伴う練習量の代償で肘に負担がかかり過ぎているのが今の乃恵留の右肘なのだ。
「……まあ、無理するなとは言ってもさ、アンタのことだから全力出すだろうし。やれるところまでやりなよ。去年とは違うのはさ、この一年で感じただろうから……最後は全部自分が決めるんだ、そういう意識でやるのがエースだよ? そこは忘れないで。」
「ハイ!!」
麗奈は乃恵留と別れ、宿へと向かう支度を整えた。
そしてそのあと、乃恵留にひかりが声を掛けた。
「ああ、乃恵留ーー?? ワラナンの先生がさ、私たちに話あるって!!」
「え? ああ、うん、わかった。すぐ行く!!」
乃恵留がひかりに連れられ、渡り廊下の方へと向かうと、そこには夏岡と泉水がいた。
「ああ、ごめんね、急に呼び出して。」
「いえ、お気になさらず!! 麗奈先輩がお世話になってますから!!」
「アハハ、それは何よりだ。では、あらためて。私は『夏岡宏香』、小田原南高校女子バレー部の監督だ。それで……なんだけどさ、まずはウチの現状を見て欲しいんだ。」
と、夏岡はメンバー表を広げる。
「ウチは今は14人しかいないし、そのうち三年生が5人、つまり残りが9人なんだ。今のウチで手薄なのが右利きの強打者とセンター線のさやかの対角の選手、そして……課題が露呈したのが麗奈のバックアップ要因のセッターだ。」
夏岡は新チームを見据え、是非とも入って欲しいという意味で勧誘しているのである。
この主力の3人に。
更に説明をする。
「確かにウチは普通の公立校だしさ、部活も強制で入るとかそんな学校ではない、けれどウチの練習環境は他の私立や川崎立花とも引けは決して取っているとは思わないし、むしろトレーニング室も他より完備されていたりもしているんだ。私の信条は……『選手と共に楽しむこと』、『選手の可能性を捨てないこと』、そして……『選手を信じること』、この3つを掲げてやっている。高校の部活で、こういうことを言う監督も珍しいとは思う、だけど私とて勝ちたいんだ、あの子達と……そして君たちと。」
「つまり……選手一人一人の考えや主張を尊重する、と?」
泉水が確認するかのように質問を切り返した。
夏岡もこれに頷いた。
「そう、ウチはそういうことを主体にして取り組んでいるんだ。それが上手く噛み合ったからベスト4まで今年のインターハイ予選は進めたんだろうなと思っている。けれど私はそれで満足はできない、何故なら選手達がもっと上を、自発的に目指しているからね。それは君たちも同じだろう?」
3人はうんうん、と頷く。
夏岡は続ける。
「だからこそ君たちに力を貸して欲しくて声を掛けた。チームというのは組織的な動きだけがチームじゃない、私は『個人の個性が上手く集まったから』こそ初めてチームと言える状態になると思っている。無論、それ相応の指導はしていくつもりだ。だから頼む、私に……全国に小田原南を連れて行けるだけの力を貸して欲しい。」
3人は、頭を下げた夏岡に対し、目を見開いて固まっていたが、ここで乃恵留が沈黙を破るように声を発した。
「私………!! 小田原南に行きます!!」
「ちょっ……!! 乃恵留!?」
これに泉水は驚きの声を発する。
乃恵留は更にこう言った。
「だって、麗奈先輩と一緒に全国に……もう一回行きたいですから!! というか、元々決めてました、そこに行くって!!」
これに夏岡は、ふふっと笑う。
「ホント……君はさやかによく似てるね、麗奈が大好きなところとかさ? ありがとう、乃恵留。来てくれることを信じてる。」
ひかりと泉水は、この2人のやり取りを聞いて顔を見合わせた。
「それで、2人は? ……まあ、時間はあるし、ゆっくり考えればいいけれども……」
「……まあ、今は全中がありますから……ゆっくり考えます。」
「わ、私も……」
「今はそれでいい。けれど私は……この熱量が君たちに伝わっていると信じているよ。今日はありがとうね、そこまで時間もないのに。それじゃあ、私はこれで失礼するよ。」
夏岡は3人と別れ、宿へと帰還していったのであった。
そしてその後、夏岡は秋山と居酒屋で飲みに行くことになった。
明日で最終日となる合宿、その労いもあるのだろう。
秋山自身は酒は驚くほど弱いのだが、こういうことには付き合いは断らないのも秋山だ。
秋山は一匹狼のように見えて、実は人情家だったりもするのである。
そして飲みながら時間は流れていった。
「……どうだった、宏香……合宿の方は。」
「そうだねぇ……収穫がなかったといえば嘘じゃない。ただ、まだまだ足りない部分が見えてきた、だから春高予選までにはできる限り埋めたいね、そこは。」
「……例えば?」
「一つはフィジカルがまだ弱いと思ったこと、もう一つは……今日の橋誉との試合で混合で組んだだろう? ああいうのでまだアドリブや普段と違うリズムに弱いというのは感じた。特に宇月だ、正直麗奈があそこの領域にまで行けるかどうかは……ただでさえアレだけ完成しているセッターなんだ、今以上の上積みが期待しにくいのがな……」
「……別に、宇月と比較する必要性なんてないんじゃないか……?」
「え??」
秋山は珍しく日本酒を一気飲みしながら夏岡にこう話す。
「宇月のあの即興的なトスは真似ができない、アレは誰がどう教えても辿り着く領域ではない。だからこそ『天才』なんだ。倉石のトスは何処からでも正確に挙げられる、だろう? 事実100%のトスが来るわけがない。確かにそれを出来るだけ、倉石は完成度はセッターとしてみたら高いさ、だが……私は伸び代がない、そう倉石に判断を下すのは早い気もするな。」
「涼子……どういうことだい?」
「琉菜との合わせで見せた、あのダブルクイックからのライト時間差……間違いなくアレは宇月に感化されてのあのトスだろう。前までは私も宏香と同じ考えだったが今はそうは思わない。アイツは大舞台になればなるほど真価を発揮し、成長するタイプなんだろうな……」
「そうか……今思えば確かにそうかもしれない、私がもっと……指導力があればな、とは思うが……」
「そんなことはないぞ? 指導力なんてこれから着いてくる。それに、倉石を成長させる機会は早いうちにくる。だからまずは春高予選でお互いに勝って……共に春高に行こう、宏香。」
「……そうだな、涼子……まずはそうだよな……」
結局夏岡は秋山から励まされる格好を受け、1日が終了したのであった。
次回は合宿編終章です。
登場人物紹介は泉水です。
完全ギャグ回ですが、お楽しみいただけると幸いです。




