第57セット 遠くなる背中
大ピンチ回。
小田原南が流れを取られる=単純な経験不足です。
タイムアウトを取った夏岡は選手を集める。
流石に4連続でのサービスエースを取られるのはキツい。
そう判断してのタイムアウトだった。
「とりあえず全員……アタックラインより後ろに取ろう! どうにかして触って瑠李に繋げる! オッケー!?」
全員、肯定的な返事を出す。
夏岡は大和碧南のベンチの方に目を見やる。
(クソ……なんてことだ……授ける策が無い……私の無能さをここまで呪った事はない……!! 指導者の経験不足だ、これは……すまない、みんな……)
選手に感情を悟られてはマズイ、と表情には出さなかったが、夏岡の心情は拳をベンチに叩きつけたい気分だった。
何せ夏岡が高校一年生の時に、一度だけベスト4に行っただけの高校が小田原南だったりするのだ。
何回も全国へ行き、ベスト4を勝ち抜くことを知っている大和碧南の経験値とは雲泥の差だった。
それが詩穂が見せたような底力だったりするのだ。
希望はまだあるし、諦めるような状況ではないのは分かっている、分かっているのは夏岡自身も理解しているのだが、策を授けても相手の背中が遠くなるばかり。
指導者だけではどうしようもできない所まで追い詰められてしまっていた。
タイムアウトが明け、詩穂のサーブはアウトになって、漸く小田原南第3セットの最初の得点が入った。
が、依然として1-5。
大劣勢なのには変わりない。
しかし、小田原南は諦めない。
佳奈のスパイクを韋蕪樹がブロックし、2-5。
沙織のAクイックを藍がワンタッチを取り、瀬里がオーバーハンドで繋げ、春希へのレフト平行トスで得点を重ね、2点差まで詰め寄る。
だが、大和碧南も突き放しにかかる。
瀬里のサーブを夏帆が処理し、由希は夏帆へのバックアタックを挙げた。
夏帆はセンター線から浅めの角度のクロススパイクを放ち、得点を決めた。
その後は一進一退の打ち合いになったが、差が縮まらない。
コートチェンジになる頃には、10-13となっていた。
(思いの外詰まってないな……だったら……由希、突き放しにかかるよ!)
夏帆はコートチェンジが終わり、記録員が確認作業をしている最中に由希と目を合わせた。
由希もこれに頷く。
大和碧南は油断する事なく気を引き締めた。
一方、小田原南は。
夏岡が麗奈とさやかを呼ぶ。
ここはもう切り札を切るしかない、と判断したようだった。
とはいえ後半での勝負となる。
夏岡は一つ息を吐いた。
正念場、乗り切ってくれ、と想いながら。
だが、現実は甘くはなかった。
由希のサーブはさほどでもなかったのだが、いかんせん火力を出せる人間が少ない。
更には瑠李のトスも読まれてきつつあった。
意地で韋蕪樹に託すしかなかった瑠李だったが、その韋蕪樹が得意の超インナークロスをブロックされた事でそれが決定的となった。
しかも次に挙げた藍へのAクイックをシャットアウトされ、10-15。
いよいよ敗色濃厚となった。
ここで笛が鳴る。
麗奈が3番を、さやかが5番の番号をそれぞれ持って、コート外で待機していた。
「……麗奈、悔しいけど……あとはアンタに託す。だからお願い……勝って……!!」
瑠李は歯軋りしながら麗奈に想いを託した。
「分かってます。……あとは任せてください。」
右手のテーピングの跡が痛々しい中、麗奈はコートに入った。
満身創痍という言葉が似合うほどの出立ちではあるのだが、麗奈の目には覚悟が宿っていた。
それはさやかも同様だった。
「必ず勝つ」、そんな想いが二人から伝わってきていたのだった。
(あとは……信じるしかない! 麗奈の底力を……!!!)
夏岡は麗奈の能力に後を託さざるを得ない状況に、ただ指を咥えて見守ることしか出来なかった。
この経験を必ず糧にする、夏岡はそう誓ったのだった。
由希のサーブが来る。
春希がアンダーハンドでカットし、麗奈にAパスで繋げた。
麗奈はBクイックをさやかに挙げる。
さやかは高い打点から渾身の一撃を繰り出した。
これを決めたことで、まだ逆転への望みは繋ぐことに成功した。
限界を超えてまででも勝つ、という麗奈の意思が伝わり、チームにもそれが影響しようとしていたのだった。
ダブル主人公、ここで投入です。




