第5セット 一芸特化の新入生たち
今回から紅白戦編に入ります。
とはいっても今回は新キャラとなる一年生とマネージャーをメインに書きます。
ちなみに彩花は紅白戦編の準主人公的な存在となりますwwww
さやかがポテンシャルを発揮した、この日の練習後、麗奈は夏岡に呼ばれた。
さやかのことについてだった。
「どうだい? さやかのことをこの2日見てみた感想は。」
「……正直にいって、初心者のポテンシャルを遥かに超えていますね…。私が始めた時よりだいぶ上手いですよ。…ただ……。」
「ただ……どうしたんだ?」
「……ポテンシャルが高すぎるあまり、体がついていかないで怪我するケースは非常に多いです。特に、さやかみたいなタイプは。それに紅白戦を今後やるにしても……私の中でまだ計算がたってないのが現状ではあります。どんなタイミングでクイックに入るのか。言われた通り動けるかどうかは今は問えませんが……。素人なので。さやかは。……とにかく今は慎重に育てるべきではないかと。」
「なるほどねえ……。確かにスポーツをろくに経験していなくてあの運動神経だ。純粋に楽しんでやっているというのも彼女の武器ではあるけれど……。これでルールを完全把握したらそれこそ手がつけられなくなりそうだね。私も麗奈と同じことを思ってるよ。怪我だけはさせたくないけど……あの子の純粋さも尊重したい。今はそんな感じだよ。」
夏岡の言葉に無言で頷く麗奈。
チームにももう溶け込んでいる様子だったさやかを潰すわけにも行かなかった。
特に「相棒」になると宣言した麗奈の胸中に関しても責任は重大だった。
そしてこんな言葉を発する。
「……幾ら日本人で規格外の身長を持つとはいえ、素人なんです。彼女はまだ。過度に期待させてしまってはそれこそさやかを潰すだけです。……さやかのモデル時代もそうだったみたいで……。期待のしすぎで潰れてしまっては元も子もないので……リラックスする時間も与えないとダメでしょうね……。」
「一理あるねえ。麗奈のいうことも。まあ上級生が既にさやかに対して今懸念していることが起きようとしてるからね……。瑠李も対抗心燃やしてるしね。君にもさやかにも。……紅白戦の結果は関係なく、麗奈はインターハイで使おうとは思っているけど……。瑠李の態度が丸くならない限り、瑠李の性格上納得しないだろうしね。性格に難があるから私も手は焼いてるんだ。瑠李に関しては。バレーに対しては誰よりも熱いのはわかってるんだけど……。とにかく麗奈、君に頼みたい。圧倒的な差を……瑠李に見せつけてやってくれないか? 悔しいが私ではアイツの考えを変えられそうにない。このままではチームは勝てない。それが今の小田原南の現状だ。……私もここのOGで、君と同じくらいの時に開催地枠だったけどインターハイに出た。だから……今度は実力で全国に行きたいし、子供たちにも行かせてやりたい。…正直ダメかもしれないって思っていた時にまさか君が来るなんて思ってなかったよ。指導者がこんなこと言うのもなんだけど、このチームの未来のために頼む。」
夏岡の切実な思いが伝わってきた。
確かに一理あった。
瑠李の凝り固まった考えを変えるチャンスにも、現状を教えてやれるチャンスにもなり得るのだ。
自分が紅白戦で活躍できずにレギュラーを取ったらそれこそ瑠李に潰されかねない。
可能性としても危惧していたが、麗奈は相変わらず平然としていた。
そしてこう返した。
「……Aチームを負けさせますよ。必ず。仮にセッターとして、私が圧倒的な差を見せつけても、私のチームが勝たなければ同じことです。亀貝先輩は激情家なところがあって、セッターに必要なクレバーさがない。誰よりも努力家だというのは、私がさやかを連れて行った時に真っ先に体育館に行っていましたから、それは理解はしています。……私が言うのも変な話ですが、亀貝先輩は人付き合いが下手な不器用なタイプだと思うんです。昨日帰る時も独りで筋トレしてましたから。だから……そんな人の心を今からぶち壊せる顔を見れるのが……。今ワクワクして仕方ないんですよ……。」
顔は笑っていなかったが、無表情の中に麗奈のサディスト性が浮かび上がっていた。
そういうオーラを発している。
夏岡もそのオーラに固唾を呑んだ。
「君は……無表情の顔して怖いこと言うんだねえ……。希望も全部、ぶち壊そうって気概が伝わってくる。……とにかく、これはチームのためになるんだ。頼んだよ麗奈。」
「ええ……。分かっています。それではこれで失礼します。」
「ああ。おつかれ。」
麗奈は部室に戻り、夏岡は職員室へ戻っていった。
麗奈はトレーニング室に立ち寄った。
瑠李がいるかどうかを確認するためでもあった。
覗いてみると、瑠李はラットマシンをあげている。
かなり真剣な表情だった。
そして表情だけではなく、汗の量も過酷さを物語っている。
「あと……5セット……」
そう呟きながらラットマシンを続ける瑠李。
気が向いたのか、スクワットを開始する麗奈。
重さは50キロほど。
麗奈の体重を考えれば妥当なラインだった。
ゆっくり下げて息を吐きながらゆっくりと上げる麗奈。
瑠李も広背筋を意識しながらトレーニングをしている。
そしてお互いセットが終了した時、二人は邂逅した。
そして、空いたスペースに瑠李と麗奈は座り、瑠李は用意したプロテインを飲んだ。
「麗奈……。私は悔しいけど、セッターとして全部負けてる。トスも考え方も、信頼度も何もかも。」
「……そうですか。」
「……正直チーム内でも孤立気味だったのは認めるよ…。けどさ……。私もアンタに負けられない理由がある。」
「……なんですか? それは。」
「……麗奈が入ってきてからみんな薄々思ってるよね…。麗奈がレギュラーだって。それでも……。ワラナンを勝たせられるのは…私だ。幾らアンタがBに今回の紅白戦にいようが、最後にコートに立ってるのは私だ。全員を……見返さなきゃいけない。この気持ちは絶対譲る気はないよ。麗奈。」
「……望むところですよ。私とて、無条件でレギュラーを簡単に先輩が渡してくれるとは思ってませんから。」
二人とも語り口調は静かだったが、バチバチになっているのは明白だった。
そして翌日。
新入生歓迎期間が始まった。
本日来たのは麗奈とさやかを除く一年生は4人。
うち、マネージャー1人とのことだ。
小柄な松尾蓮、がっしりした体格の浪川真理子、細身長身の金田芽衣の3人が選手として入ってきた。
この3人を説明すると、蓮はリベロで、抜群の動体視力を持っており、フェイントも容易く読んで拾ってしまうほどの選手だ。
真理子は164センチながら、最高到達点は300センチ。ハイジャンプを活かした高いスパイクが得意だった。
だが、それ以外は並より少し低いくらいだった。
芽衣は168センチの選手で、莉子奈と同じくらいの機動力とブロックアウトを得意にしていた選手だった。
このように、バラエティ性に富んだ3人が入ってきた。
全員ポジションが運がいいことに被っていない。
紅白戦を組めるのも容易いことだった。
そして。
マネージャーの「男子」が入ってきたとのことだ。
小田原南は男子バレー部がない。
わざわざ女子バレー部にマネージャーとして入ってきたのはバレーをしたかったのだろうか。
ただ、その男子は麗奈がよく知る人物だった。
「知崎大幾」。
161センチの、童顔で小柄なその男子は、麗奈の双子の弟、太我の親友で、橋誉中の元男子バレー部だったのだった。
女子の部活に男子が入るのは異例中の異例ですが……。まあフィクションの中なので寛容な目で見てください。次回はBチームでコンビネーションを合わせる回となります。Bチームに入る上級生は恵那と彩花です。
あと、双子の弟が出てきましたが……。次回でそこは回収しますのでお楽しみに。