第44セット 「劣等」(コンプレックス)と「尊敬」(リスペクト)
六月初投稿。
今回からインハイ予選編後半戦です。
今回は麗奈と哀羅のトークです。
今回のトピックスは、小田原南高校女子バレー部の中学最終学年の実績です。
麗奈→全中優勝、全日本ユース代表、JOC神奈川県代表で優勝
さやか→なし(ティーン誌の表紙回数16回)
莉子奈→県大会二回戦敗退
瀬里→綾瀬市内大会敗退
瑠李、春希→県大会決勝敗退(春希は最終選考で落ちた)
藍→県大会準々決勝敗退
韋蕪樹→県大会準決勝敗退、JOC神奈川県代表3回戦敗退
恵那→平塚市内大会敗退
桃華→県大会準決勝敗退
彩花→県大会一回戦敗退
蓮→県大会二回戦敗退
真理子→小田原市内大会敗退
芽衣→県大会決勝敗退(最終選考落ち)
飲み物を2本購入して、自動販売機近くのベンチに座った哀羅と麗奈。
と、ここで麗奈が哀羅に先程買ったコーラを手渡した。
「……アンタ好きでしょ? コーラ。」
「ああ……うん、ありがと、麗奈。」
麗奈はスポーツドリンクのペットボトルのキャップを左手で開けた。
哀羅も右手でコーラのペットボトルのキャップを開ける。
プシュッ、という音が鳴り、哀羅はゴクゴクとコーラを飲んだ。
麗奈も少しずつながらスポーツドリンクを飲んで行く。
と、ここで一息吐く哀羅。
「は〜〜〜あ。コーラは美味しいんだけど、どうせなら勝ってから飲みたかったな〜〜〜。」
まあ、「勝利の美酒に酔いしれる」という言葉もあるくらいだから、哀羅にとってコーラはそういう感覚なんだろうな、と麗奈は思った。
実を言ってしまうと、麗奈は炭酸飲料が大の苦手である。
幼少期に父にイタズラで飲まされてマーライオンの如く戻してしまったので、それ以来一滴も飲んでいない。
太我の方は麗奈とは逆に、無類の炭酸好きなので、何故あんなものが飲めるのか、といつも思っている。
「……私はコーラ嫌いだからそういう感覚はわかんないけど。」
「麗奈ってホント変わってないよね、昔っからさ。」
……まあ、バレーの時以外はお互いあまりリスペクトし合わない2人なのだが、他愛もない話をする程度には話せる。
「……そういやあ、もう引きずってなさそうな顔してるけど、哀羅。」
目が大きく腫れたような感じになっている哀羅。
泣き腫らした跡だろうか。
「うーん……まあ、なんて言うか……アンタが何で小田原南に行ったのか、分かった気がする。そう考えたらスッキリしちゃってさ、私の中で。」
とはいえ、哀羅は苦笑いを浮かべている。
負けたことは悔しいだろうなとは麗奈は思っていたのだが、麗奈も意に介したりはしない。
「……正直禊応には私1人のワンマンチームだったら絶対負けてた。それは言える。先輩たちから何が何でも禊応に勝ちたい、って想いがひしひしと伝わってきたから私はそれに応えただけだよ。……まあでも……」
といい、スポーツドリンクを口の中に挟む。
「それ以上にさやかの成長ぶりが凄かった。……あの移動攻撃も、ぶっつけ本番だったしね。全く練習してなかったし、アレだけは。」
「え、アレ、ほぼ全部練習してたの!? 2ヶ月で!?」
「……まあ、合宿と、休みの日には猛練習、っていうのが大きかったとは思う。そのパターンの中に……不確定要素のさやかっていう、『大きな原石』が入ったことでより強くなったんだとは思ってるよ。でも……それだけじゃなかったよ、勝った理由は。」
「……アレだけでも十分さ、私たちは負けてたとは思うけど……何? 麗奈……」
「……試合中の成長かな。それと……勝因は上げたらキリはないとは思うし、反省点もいっぱい出た。だけど、やっぱりさやかが試合中に成長してくれたのが……私としても、チームとしても大きかったなとは思うよ。」
哀羅は腑に落ちた感覚だった。
今まで通りを重きに置いている指導スタイルの禊応にそういう感覚は乏しかったが、そういうことか、という意味で。
「アンタはあいっかわらずさ、顔には出さないし、感情にも表現として表すことがないからさ……見ただけじゃ分かんないかもしれない、でも……アンタが一番、楽しそうにしてたよ。今までで一番、って言ってもいいくらいに。」
「……そうだね。まあ、楽しかったと聞かれたら楽しかったよ、そりゃ。……少なくとも私だけじゃアレを作り出すのは無理だから。」
「……私には……麗奈みたいにトスに特化してるわけじゃないし、あの11番みたいに……体格がいいわけでもない。ただ……バランスよく成長していっただけ。何かに特化できるものがない、それが私の悩みであってコンプレックス。でもアンタの……バレーに真摯に向き合って、向上しようとする姿勢は……尊敬してるよ。一バレー人として。」
哀羅はグッと拳を握りしめた。
悔しさを、滲ませながら。
「まあ哀羅のことは人としては嫌いだよ。それは変わらない。……でも……哀羅のリーダーシップとか、熱さとかは私にはない、それを哀羅はチームの中で補ってくれていたからね。……そこは本当に感謝はしているし、リスペクトはしてる。」
対して麗奈は淡々と受け答える。
と、ここで哀羅が聞いてきた。
「……アンタにはないの? ……コンプレックスは。」
麗奈は少し考えた後、こう答えた。
「まあ……身長と……それと……」
と言いかけながら、自らの貧乳をなんとか形作ろうと寄せた。
「……この貧乳かな……強いて言うなら、だし、半ば諦めてるんだけど。」
「えっ!? そこ!?」
哀羅は驚いて大声を出してしまった。
で、一応質問する。
「えーっと……な、なんでおっぱい、大きくしようって思ってるの……?? 去年までのアンタなら『動きにくいから』って言って……そんなこと考えてなかったじゃん。」
哀羅が困惑しているのは明白だった。
真剣な悩みなのだろうなとは、哀羅は思っていたのだが。
麗奈から返ってきたのは意外なものだった。
「モテたいから。」
真顔のドヤ顔、と聞けば、聞こえはパワーワードすぎるのだが、実際麗奈が哀羅に向けた表情っていうのはそんな感じだった。
「も……モテ……え、え???」
去年までは全く見せてこなかった麗奈の女の子らしいところに戸惑いを隠せない哀羅。
哀羅は更に理由を問う。
「学校でもさ、さやかと一緒にいる時の方が多いんだけどさ……話しかけられるのさやかばっかりで……私に話しかける人がゼロだもん。……だからせめておっぱいが大きかったらモテるのかなー、って。」
……まあ、男が胸に目を引くのは分かるとして、それだけでモテる物なのだろうか……哀羅はもっと根本的なところを変えるべきではないのか……例えばこの仮面のような無表情とか……。
哀羅も頭が悪いわけではなく、寧ろめちゃくちゃ良いのだが、どこからツッコめば良いのか分からずに、頭がパンクしそうになっていた。
「あのさ、麗奈……」
「うん。」
「……おっぱいの大小でモテるわけじゃないよ………」
「……じゃあ具体的に……どうすればいいか分かる?」
「いや、その……Mな男だったら、もしかしたら寄ってくるかもしれないよ!? アンタが毒舌家なの知ってるから! 例えばさ! アンタのアイデンティティー奪うことになるかもしれないけど、表情を出すとかさ! 笑ってみるとかさ! やってみりゃいいじゃん!」
「あ、それは無理。」
「なんでだよ! 簡単でしょ、こーやってさ、口角上げたり……」
哀羅は顔を抓って口角を上げようとしたが、麗奈の表情筋は何故か動かない。
歯を食いしばっているのか……そう思ったが、それを差し引いても硬い。
人が引っ張ったりしても、全然動く気配すらないのだから。
「表情筋、硬っ!!! え、なに、なんでこんな硬いの!?」
「分かんない、こればっかりは。」
「分かんない、ってなんだよ! あーもう、めんどくさーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
哀羅のツッコミという名の咆哮が、ロビー中に響き渡ったのだった。
モテの悩みを出した麗奈に終始振り回される哀羅wwww
次回、頼朝高校との試合です。
お楽しみに。




