第41セット 負けられないわボケ
禊応も意地を見せる。
敵役にもフォーカスを当てないと話にならんので。
今回は橋誉が全中優勝したメンバーと、その進路を紹介します。
アウトサイドヒッター 蛭崎哀羅→禊応大附属高校 理由:成績が良かったのと、紗衣のプレーを見て決めた
ミドルブロッカー 高山春菜→川崎立花高校 理由:穴を埋めてほしいと監督に口説かれた
セッター 倉石麗奈→小田原南高校 理由:バレー熱が冷めていたので楽しくやりたかったから
アウトサイドヒッター 牧乃恵瑠→現橋誉中主将(優勝メンバー唯一の2年生)
ミドルブロッカー 道場安奈→川崎立花高校 理由:全国に行くのに1番近い高校だと思っていたから
オポジット 山倉理央→横浜信愛女学院高校 理由:厳しい環境に身を置きたかったから
リベロ 近元咲良→大和碧南高校 理由:そこだったらすぐレギュラーを取れると思っていたため
瀬里が渾身のクイックを決めた後のターンで、紗衣がインナーにクロスを打ち抜き、小田原南の流れを切った。
これで3-1となり、朋美がサーブに下がる。
朋美がサーブを放つ。
莉子奈がカットをAパスで繋いで麗奈に二本目を託す。
ここで小田原南が秘策を繰り出した。
瀬里、春希で編み出した「ダブルBクイック」だ。
瀬里が短めのクイック、春希がそれよりも長めの距離のBクイックだ。
これにはバンチリードブロックを敷いている禊応も困惑せざるを得ない。
花蓮と椎奈が遅れた影響で、ほぼノーブロック状態になる。
麗奈が選択したのは春希の方のBクイックだった。
春希自身は慣れていないクイック打ちではあったが、麗奈が入ったことで実現できる技なのだ。
無論、キチンと練習している。
ノーブロックのクロスへぶち込んでコートにボールが落ちた。
会場を沸かせる術で、小田原南は一気に流れを引き寄せようとした。
現状4-1。
流れを保ったままリードも保っている状況では、ほぼ負ける要素は皆無だった。
瀬里がサーブに下がり、さやかが前衛に上がってきて更に会場のボルテージも最高潮に達した。
しかし、怖いのはここからだった。
何せ向こうにはベスト4の意地がある。
瀬里のサーブは哀羅の方に行くが、瀬里のサーブ力では哀羅にいっても崩せない。
難なく正面でカットし、朋美に繋げた。
朋美はレフトへ速いトスを挙げる。
さやかは椎奈のBクイックだと思い、Bクイックの椎奈に飛びつく。
だが、そのトスは椎奈のものでは無かった。
紗衣がそこから切り込み、さやかと韋蕪樹の開いたブロックの隙間にぶち込んだ。
これを拾えるわけがなく、一本で切られて4-2。
勘のいいさやかが、まさかの翻弄される事態。
これをやられるということは、まだまだ経験値が足りないと言わざるを得ない。
さやかが天を仰ぐ。
完全にやられてしまったと思っているようだった。
麗奈が声を掛ける。
「仕方ない、今のは朋美さんが上手かったから。」
気にするな、そう言っていた。
「うん、次気をつける。」
さやかの表情はいつにも増して引き締まっている。
そうして自分のポジションへと戻っていった。
椎奈がサーブに下がり、宙が上がってきた。
サーブがネットインになり、ボールは春希の方に来た。
春希は落ち着いてオーバーハンドで処理した。
麗奈が選択したのは韋蕪樹へのトスだった。
ライトセミにフワッと挙がったトスを韋蕪樹は躊躇いもなくクロスへ打ち抜いた。
だが、サイドラインを割り、まさかのアウトとなり、禊応のブレイクポイントとなった。
これで一点差となってしまう。
「ハイ、韋蕪樹! 次行こう!」
莉子奈が声を張り上げて手を2回叩いて集中を取り戻させる。
ただ、韋蕪樹がミスをしたことで流れが芳しくなくなってしまった。
椎奈のサーブが再び春希のところに来た。
レシーブで処理し、麗奈はここでさやかのAクイックを選択した。
さやかはクロスに打ち抜こうとしたが、哀羅に拾われた。
雄叫びをあげた哀羅。
その目には闘志が宿っていた。
朋美がレフトに二段トスを挙げた。
さやかと韋蕪樹の2枚ブロックで勝負に出る小田原南。
対しては紗衣。
(私らだって……4強の意地がある……!! 禊応のエースとして……キャプテンとして……インハイに行くためにはこんなところで負けられないわボケ!!!)
紗衣が渾身の力を込めてスパイクを放った。
さやかもブロックに力を入れていたのだが、紗衣のスパイクが重すぎて右腕を弾き飛ばされてしまった。
吸い込みの形となって、まさかの3連続失点。
追いつかれてしまった。
「絶対勝つ……!! こっから……私の全てを賭けて……!!」
恐ろしいまでの気迫、滾る闘志が紗衣を、いや、紗衣だけでなく、禊応全体をそれに包んでいた。
小田原南も固唾を飲む。
気圧されないためにはこれ以上の気迫を出す必要がある。
それにはここを切れるかどうかだった。
だが、麗奈一人は相変わらず淡々としていた。
椎奈のサーブからの莉子奈のカット、そして春希へのマイナステンポの平行トスで、禊応に傾きかけた流れをもう一度引き戻す。
春希もクロスに打ち抜いてきっちり決めた。
小田原南も冷静さをもう一度取り戻し、春希がサーブ、莉子奈が前衛に上がってきた。
春希がジャンプサーブを透子と哀羅の間目掛けて放つ。
これを透子が処理し、Aパスで朋美に繋げた。
宙にAクイックを挙げたが、さやかが持ち前の高さでこれを触った。
禊応にボールが返る。
紗衣がリバウンドを処理してまた朋美に繋げた。
朋美が選択したのは紗衣ではなく、かといって花蓮でもなく、哀羅へのバックアタックだった。
さやかにブロックを任せ、韋蕪樹がフェイントの準備をし、麗奈、桃華、春希が奥目に下がる。
哀羅は麗奈に向かって渾身のバックアタックを放った。
麗奈はなんとかオーバーカットをして処理したのだが、ネット上に上がりすぎた。
さやかがなんとかダイレクトで押し込もうとしたが、禊応はそんなに甘くはない。
紗衣がダイレクトスパイクを打ち込み、麗奈のレシーブを弾き飛ばした。
また同点だ。
もどかしい展開が続く。
ここで哀羅が前衛へと上がってきた。
紗衣のサーブが春希に襲いかかる。
春希は落ち着いてサーブカットを挙げた。
さやかがAクイックに入り、麗奈もそこに挙げた。
ストレートのコースを宙がワンタッチを奪い、それを透子が拾った。
宙がすぐさまAクイックに入る。
朋美はレフトの哀羅へと挙げた。
だが、テンポはサードテンポと遅めだ。
哀羅はさやかと韋蕪樹がブロックに来てようがお構いなしだった。
さやかよりもクロス側にスパイクを放った。
莉子奈も拾いきれないスパイクがコートに突き刺さって禊応が逆転した。
「アンタのことは認めるよ……岡倉さやか……!! だけど……! いくらアンタが麗奈に認められようが……私の方が麗奈と過ごしてきた時間が長いんだよ!」
闘将のオーラを全面に纏ってさやかにそう、哀羅は言い放った。
夏岡は一度、タイムアウトを取った。
流れが悪いと感じたようだった。
会場が熱気に包まれた。
応援という熱気に。
夏岡はさやかと麗奈に話しかけた。
「……ちょっとアレ、行ってみるかい?」
麗奈とさやかの二人は顔を見合わせた。
そして、同時にこう言った。
「「行けます。」」
「アレ」とは一体なんなのか、禊応にバレないよう、夏岡は全員にそのことを共有した。
タイムアウト終了の笛が鳴り、コートに戻ってきた。
紗衣のサーブは桃華のところに行き、これもAパスだった。
ここでまた、小田原南が「アレ」を仕掛けた。
なんと莉子奈と韋蕪樹のダブルクイックだった。
莉子奈がAクイック、韋蕪樹がCクイックといった具合に。
では、さやかはどこにいるのか、というと。
なんと、レフトだった。
完全に予想外だった禊応。
宙はレフトという具合に即座に判断したのだが、博打もいいところだと思っていた。
麗奈は躊躇いもなく、レフトへのオープントスを挙げた。
さやかのクイックが対応されている、と夏岡は判断したのか、敢えてレフトでのトスでリズムを取り戻させようとしたのだった。
花蓮と宙の2枚ブロックが来る。
さやかは身体能力を最大限活かす。
長い手足、長い滞空時間、高い跳躍力、そしてそこに麗奈の完璧なトスという、決められるメカニズムの成立。
上体を反ってさやかは公式戦で初めて見せるオープンスパイクを、なんと花蓮の上からねじ込んで行ったのだった。
えげつない角度で決まり、これで小田原南が同点に追いついた。
さやかは喜んではいるものの、目は真剣そのものだった。
さやかも気合が入っていた。
その証左がこのガッツポーズだった。
この後の韋蕪樹のサーブのターン、哀羅もさやかに負けずに得点を決め、6-7とした。
お互いのスーパールーキーの意地と意地のぶつかり合いの様相を呈していた。
次の花蓮のサーブ。
桃華がオーバーでカットし、麗奈はまた、さやかにサイドで打たせることを選択した。
莉子奈にBクイックを跳ばせ、さやかにはライトへのオープントスだ。
正直に言えば、高校レベルであれば、さやかの高さには対応ができない選手は多い。
なので小細工はほぼ不要だ。
さやかはライトへ跳び上がる。
ブロックは哀羅、宙が付いている。
哀羅は「来い!」という風にブロックを待ち構えている。
さやかは、お構いなしにストレートへ打ち抜いた。
技術はまだ、さやかには無いにしろ、高さが最早凶器だった。
哀羅の上を打ち抜いて7-7とした。
さやかは雄叫びをあげる。
そしてサーブに下がった。
さやかのサーブはフワッとしたものだった。
哀羅が処理する。
朋美が選択したのは宙へのBクイックだった。
韋蕪樹が触り、麗奈に繋げる。
しかし、若干低い。
麗奈は膝を曲げて潜り込んで、さやかへのバックアタックのトスを挙げた。
これもまた、合宿後に練習したパターンだった。
動画でバレーの映像を何回も何回も繰り返し見てきて、それを練習で繋げる能力が高いさやかは、たった1ヶ月でそれを習得していたのだった。
真っ直ぐで美しいフォームから、腕を目一杯伸ばしてバックアタックを放った。
3枚ブロックが来ていようがお構いなしだった。
鋭い回転が、透子のレシーブを弾いてラインを割った。
ここぞの場面での小田原南の切り札が決まり、小田原南は再度リードを奪った。
さやかが完全に、このコートを支配していたのだった。
ここでたまらず、禊応監督の三島がタイムアウトを取った。
元々、さやかと哀羅をバチバチにぶつける予定でしたけど、想像以上に長くなりましたねwww
次回、コートチェンジからの激闘が展開されます。
お楽しみに。




