第40セット 「主役」と「脇役」
今回はファイナルセットの始まりです。
で、今回は瀬里にフォーカスを当ててみようかと思います。
熾烈なラリー戦が見れるかも??
今回のトピックスは、麗奈の母校「橋誉中」のことを話そうと思います。
橋誉中
神奈川県小田原市にある市立中学校。
全校生徒は男女含め800人と、かなり大所帯。
スポーツ強豪校として知られており、特に女子バレー部と男子バレー部は、ほぼ毎年、関東大会及び全中に勝ち進むほどの名門中学校。
そのため県内から有名な人材が多く集まり、麗奈や哀羅の代だけでも20人もの学年部員がいた。
無論校則もかなり厳しいので、軍隊のような中学校となっている。
厳しい競走と厳しい指導、また思春期特有の心の複雑さと派閥が組み合わさり、まさに世紀末のような場所。
そのことが噂となって敬遠する選手もいるほど。
また、素人には優しくしない社会形式も合わさるので、中学から競技を始めた選手は余程の才能がないとベンチにすら入れないこともザラ。(ボールにすら、まともに触れないこともある)
高校のスカウトも、優良人材を求めて県内外から来る。
麗奈はそれを全て断っているのだから、かなりのメンタル強者と言えよう。
哀羅からのサーブで第3セットのゲームが始まった。
莉子奈がカットし、麗奈にボールが渡る。
麗奈はセオリー通りクイックに挙げる………と、見せかけて、周囲が驚く一手を取った。
左手で軽く、ポン………とボールを禊応コート目掛けて触れ落としたのだ。
完全に意表を突かれた禊応は全く反応できず、ボールは禊応コートに落ちた。
麗奈がこの試合初めて「ツーアタック」を決め、会場がどよめく中、小田原南が先制した。
麗奈を称える声がギャラリーのOG会の方から聴こえてくる。
ベンチもこれに呼応し、麗奈を応援で鼓舞した。
そして、麗奈がバックライトの位置にローテーションし、サーブに下がった。
それと同時に韋蕪樹も上がってきた。
小田原南の作戦は相変わらず、“哀羅を狙う”ということに終始する。
麗奈は流麗なステップを踏み、哀羅目掛けて思い切り押し出してジャンプフローターサーブを放った。
コントロールサーブなので、スピードは若干遅いが、「揺れ」の度合いは過去一だった。
大きくブレるサーブ、しかし、哀羅もなんとか対応して朋美のところへ返した。
だが、Bパスでブレた。
小田原南が事前に建てていたプラン通りの展開になってきた。
朋美は二段トスで柔らかく、正確にトスを挙げた。
紗衣が踏み込む。
それと同時に韋蕪樹、瀬里の2枚でブロックを対応する。
紗衣は二段トスだとスパイクの威力は若干落ちるのだが、瀬里のブロックを弾き飛ばすのには十分なパワーだ。
瀬里のブロックでワンタッチボールとなった。
大きく後ろに逸れたボールは桃華のところへ来る。
相当奥まで走り込んだ桃華は、飛びついてボールを拾った。
麗奈は走り込んで、桃華が必死こいて上げたボールをアンダーハンドで挙げる。
だが、流石の麗奈でも打たせられるようなトスは難しかった。
莉子奈がソフトスパイクで返し、禊応にとってはチャンスボールとなる。
透子がアンダーハンドで処理し、朋美は椎奈にAクイックを挙げた。
春希が上手く反応し、禊応のリバウンドになる。
それを椎奈がオーバーで拾い、また朋美に繋げる。
朋美は一息吐き、レフトの紗衣へトスを挙げた。
紗衣の独特かつダイナミックな大きく反るフォームだ。
これは彼女の体幹が強くないと出来ないことで、現役の女子選手でこれをやれるのは世界を見渡してもそうはいない。
だが、瀬里は止める自信があった。
(紗衣は全体的に柔らかい……それは2月の時も、今回も、そんで……さっきベンチから見てても思ってた……それでいて強い……だったらタイミングがドンピシャじゃないとアイツは止められないけど……私がやるべきは「脱力」だ……!!)
力を抜いて跳ぶことを意識しながら瀬里はブロックに跳び上がった。
紗衣は躊躇いなく瀬里の方に思い切り打ち込んだ。
スイングスピードが速い、だが、読める。
瀬里は歯を食いしばり、腹筋、手、前腕筋に渾身の力を込めた。
渾身のスパイクを渾身のブロックで止める、バレーボールで最も輝くであろうシーンが瀬里と紗衣で演出された。
瀬里のキルブロックが決まり、2-0とした。
ベンチに下がったフラストレーションが溜まっていたのか何なのか、瀬里は吠えた。
人生で、一度あるかないかの、そんな大声で。
その目には、表情には笑顔はなく、ただただ、闘志だけが巡っている。
全員が瀬里をハイタッチで迎え、ポジションへと戻っていった。
一方禊応は。
「みんな、ごめん。」
紗衣が謝る。
そして、透子も声を掛ける。
「紗衣、仕方ない。そういう時もあるよ。……ただ、瀬里の目に気迫があった……それかもね、止められるか否かは。」
花蓮も話に入る。
「………チャンスボールをものに出来なかったのは痛いな……ここ、一本で切らないと……それこそさやかが出てきた時に厄介になるだけだからね。」
禊応もこうしてポジションへ戻っていった。
麗奈のサーブはまたしても、哀羅の方向へ行く。
哀羅はカットし、朋美にAパスで返す。
朋美がジャンプトスを挙げた。
今度は紗衣のセンター時間差だ。
高い打点からのスパイクを、瀬里はワンタッチを奪う。
これを莉子奈が拾い、麗奈に繋げた。
瀬里はクイックに入りながらこう思っていた。
(正直私は……みんなに比べて地味すぎる……莉子奈みたいに彼氏もいないし、春希みたいにパワーもないし、韋蕪樹みたいな肩の柔らかさもない……藍みたいなクイック力もなければ桃華みたいなスピードもないし、瑠李みたいに熱さもない……それに……麗奈とさやかみたいな圧倒的な才能があるわけじゃない……ハッキリ言って私はこのコートじゃ脇役にしかなれない……でも負けたくないって気持ちは……チームの支えになれるのは私なんだ……! 先生が副キャプテンに指名したのもそんな気がするし……このコートでは脇役が……一瞬でも輝かないでチームを勝たせられるか!!)
瀬里はチーム内でもツッコミだったり、莉子奈のフォローをしたりと三枚目に徹することが多いが、やはり副主将としての意地とレギュラーとしてのプライドもある。
その瀬里が熱い目でトスを要求した。
瀬里はCクイックに入り、トスを待つ。
麗奈は一度レフトの春希に目をやってからノールックで瀬里にCクイックのトスを挙げた。
目から蒼い炎が出ているかのような瀬里は、絶対決めるという意思のもとで唸り声を挙げて渾身のクイックを禊応コート目掛けて打ち込んだ。
ターンに打ち込まれたボールは花蓮のところへ行く。
花蓮もフライングで触ったが、ボールがネットの下に行った。
これで小田原南の3連続得点だ。
それも、「伏兵」の瀬里が機能したことによって、だ。
エース以外の人物が中心となっての得点は会場にいるメンバーだけでなく、コート内にいる人間の闘志にも火を点けた。
夏岡もガッツポーズを取り、リザーブも大盛り上がりで、特にさやかが最も喜んでいる。
瀬里はリザーブ付近まで決めた勢いで走り出して、左拳を突き出し、無言のメッセージをさやかに送る。
(アンタは今……一番輝いているかもしれないよ……でも……私も負ける気はないよ、さやか。)
自信に満ちた笑顔を見せる瀬里は、今コートにいる誰よりも爽快で、カッコよく映っていたのだった。
普段ここまで瀬里が闘志を見せることはそんなないんですけどね、これも「さやか効果」というべきでしょうかね。
まだまだ禊応戦は続きますが、徐々にクライマックスまで近づいてますんで、最後までお付き合いください!!




