第4セット まずは「基本」から(スパイク、サーブ編)
今回は結構エフェクト入れます。
そうじゃないとスパイクとかサーブの音とか伝わりにくいかなーと思いますので。
で、最初は練習後の一幕を書いてます。
二人のバレーに対する想いが聞けますんで、是非御刮目を。
入学式初日の練習が終わり、二人はストレッチをしていた。
俗にいう、クールダウン。
できる限り、本日分の疲れを抜くもので、最も大事なことだ。
二人は開脚して前屈をする。
片方が押して片方が伸びる。
二人とも身体が柔らかく、顔が床につくくらいだ。
さやかは天性のものだが、麗奈は努力して柔軟性を上げた。
その違いがよく現れていた。
ストレッチ後、彩花と共に道具を片付ける。
ネットの外し方も彩花と麗奈に教えてもらいながら、さやかはネット、アンテナ、支柱を外していく。
小田原南の支柱はアルミ製の最新型のものだった。
軽く、女子でも持ちやすい重さだった。
彩花は片付ける最中の二人に今後のことを話した。
「二人ともさ……その…今後の新入生の入り具合次第なんだけどさ…」
「……加賀美先輩……。もしかして……紅白戦のことですか…?」
「そ……そうなんだけどさ…。えーっと……。」
気の弱い性格の彩花。
彼女はレシーブ自体はいいものを持っているのだが、メンタルが弱すぎて試合になると本来の実力を発揮できないタイプで、チーム内で空気みたいな存在だった。
さやかはそんな彩花を気にせず話し始める。
「えー、試合ですか!? 楽しみだな〜!!」
「気が早いってさやか。まず最後まで聞こう。人の話は。」
先輩、どうぞ、と麗奈に振られた彩花はテンパっていた。
まさか自分に急に振られるとは思っていなかったからだろうか。
「え……ええっと……。紅白戦の結果次第で、インターハイ予選のレギュラーを決めるってさ。先生からなんだけど……。麗奈ちゃんとさやかちゃんはBチームに入ってもらうことになってて……。」
「……リベロ含めて向こうに7人いるとして、こっちは私とさやかを含めて4人しかいませんが……?」
「最低もう3人入ったら、だってさ。……今日は自主練の時間がないからアレだけど、今後はそういう時間も取るって。」
「え……じゃあ、合わせましょうよ! その時に!」
「そ……そう…だね。うん。自主練の時間にできる限り合わせよっか……。」
「……その前にまずルール覚えなきゃダメでしょうよ。さやかに関しては。……まあいいや。そこに関しては、後でみっちり教えるから。」
「じゃあさ! 麗奈ちゃん! 片付け終わったらファミレス行こうよ!! バレー談義したいし!!」
「うーん、まあ教室でもよかったんだけど、まあいいや。ファミレスで。」
「きーまり! じゃ、一緒に行こ!」
「アハハ……もうすっかり仲良し……だね。二人とも。」
すっかり仲良くなった麗奈とさやかを見た彩花は少し困り顔で笑っていた。
そして二人はファミレスへ行った。
注文したフライドポテトを食べながら、麗奈がさやかにバレーの基本的なルールを教える。
さやかは真剣な目で聴いている。
そして、一通りルールを教えた麗奈は、さやかに自分が書いたノートを見せた。
そこにはフォーメーションや、スパイクのバリエーション、スパイクの入るタイミングなど、きめ細やかに、こと細やかに記されている。
「す……すごい……。こんな丁寧にバレーのことが書かれてて……なんていうか……意識が違いすぎる……。」
「……まあ、チームによって違ってくるからね。…人によってタイミングは変えるし、それはその都度メモは取ってる。これを取るようになってから、トスがだいぶ安定してきたから。」
「へ〜〜。すっごいなあ。私でもコレできるようになる!?」
「それは自分次第。やるかやらないか、だから。こういうのは。初めに喋った時にも言ったけど、あくまでトスを合わせるのは私だから。さやかのタイミングに合わせて挙げるだけだし。」
「ねえ……麗奈ちゃんってさ。なんでそんなに自分のこと、、抑えられるの……? 普通に気になってるんだけど。」
感情をどうして押し殺せるのか。
我を出さない麗奈には何かあるのか。
さやかはどうしてもそこが気になっていた。
「……そうだね……。『徹底して影になる』ってさ、簡単そうで実は難しいんだよね。少しでもバレーを経験していれば、見る視点が良くも悪くも注目が集まるのはセッター。私とか亀貝先輩は、実は結構プレッシャーがかかってたりするもんなんだ。……トスをスパイカーが決められなければセッターのせいにされるし、キッチリ決めてもスパイカーのお陰になる。不遇のポジションだけど、縁の下だからこそ重要になってくる。さやかはさ、なんで感情を抑えれるか、って聞いたよね? ……セッターが感情を出したらチームの士気に影響する。だから出さないようにしてるし、、私が元々感情表現の仕方がわからない、理解できないっていうのもある。」
さやかは疑問だった。
それが感情を表情に出せない理由? でもって、表現方法がわからない? そんなことがあるの?? 芸能界のバラエティにも出たことがあり、笑いを扱う仕事もやってきたからこそ、麗奈の言ったことを理解できなかった。
セッターとしての心構えはわかったが、そこまでして抑える意味ってないんじゃないのか?? そう思ったさやかはさらに聞いてみた。
「自己主張しろって、、言われない? 麗奈ちゃんさあ。」
「よく……言われる、、ね。それは。でも意味がないからしてないってだけ。」
「い、、いや意味がないって言われてもさあ……。」
「さやかはスパイクを決めた時は喜んでいいと思うよ。……私と性格も、やるポジションも全部真逆だから、わざわざそういう人間の私にそういうのを押し付ける意味はないと思うけど?」
「う……。言われてみればそうかも……。」
「でもさ……スパイクを挙げるのって、意図がないと挙げないものなんだ。相手のリズムやテンポをよく見て変えてトスを意味のあるものとして挙げることが私の仕事。……テレビとかさ、TGCとかもさ、演者とプロデューサーがいるでしょ? 私はそのプロデューサーだから。『演者』のさやかは『プロデューサー』の私の提示したものをやればいいよ。……今は特にさ。さやかはまだ初心者だから。……今日見せたみたいに楽しんでやりなよ。最初から。」
「そ……それもそうだね〜。……ごめんね、野暮なこと聞いちゃって。」
「でもさ……私のことを理解しようって気持ちは伝わってるよ。……人の心を理解するって、難しいからね。で、聞きたいんだけどさやか。」
「うん、なんでも言って。」
「……私のJOCの試合を見てバレーやりたいと思ったんだよね…?」
「そーだね。たまたまオフだった時にマネージャーさんに息抜きで連れられて、、それを見て引き込まれちゃったね〜。」
「……それで私のトスが印象に残ったわけ? その時バレーのルールもへったくれもなかったじゃん。さやかは。」
「そうそう。私バレーのバの字も知らなかったもん。でもなんでか知らないけど、、魅了されちゃってさ。だって……麗奈ちゃんのトスをスパイカーが打ってさ、その、なんていうの、、こう、、スパーン!! って気持ちよく打ち抜く感じがさ……。」
「……で? そのスパイカーが楽しそうに見えたってわけ? 打っているときの。」
「そーそー!! それであんなトス打てたら最高だな、って思ってバレーやろうと思ったの!! ……正直、、モデルとしてもテレビでの知名度のわりに売れてないなってのは思ってたから、、モデル辞めてもこの身体を活かせる競技に行こうと思ってたけど……。麗奈ちゃんのトス見てなかったら別のやつやってたかも。」
「……まあ確かにテレビとか見てても明るい人多いもんね……アンタよりも。……でも限界を感じたなら私もあるよ。」
「え……!? 麗奈ちゃんが限界を感じたってどゆこと!?」
「単純に身長の問題。日本代表に選ばれて……韓国代表と交流試合した時かな。私はフルで出て、試合も10点差以上を全セットでつけて完勝したよ。……でも韓国代表はさやかよりはちょっと低いくらいだけど、それでも私の上からスパイクをポンポン打ってきてた。……周りは大きい子ばっかで身長で選ばれてる、って思ったよ。結果勝ったからいいけどあれだけ屈辱的なことはないよ。コーチにも『身長があったら即シニア日本代表なのにな』って嘆かれたしね。」
「そんなことが……」
「だからもう、日本代表になるのは諦めたよ。トス力には自信はあったよそりゃ。でも高身長でないことを嘆かれたらもうやってられないじゃん。」
「そりゃ……そう思う……よね…。でも今私とバレーをやってる、麗奈ちゃんはそれでいいと思う。私は!!」
「…………そうかもね。さやか。……ありがとね。気持ちだけ、受け取っておく。さ、帰るよ。いい時間だし。」
「ちょ、ちょっと待ってよー! 麗奈ちゃーん!」
こうして二人は会計を済ませて帰宅した。
翌日の練習。
いつも通りのアップ、そして昨日のおさらいをこなしていくさやか。
まだ体育の時に使う服装と上履きだったが、それでも昨日より上達してるのは肌で感じ取れる。
昨日より何倍もテンポ良くこなしているのが目に見えるようにわかった。
そして、スパイクの練習に入り、さやかも参加することとなった。
「さやかってどっち利き?」
夏岡に聞かれたさやかは、右利きだと答えた。
「じゃあ一歩目は左足からだね。で、そのあと右、左、の順に踏み込んで、左足で踏み切って跳ぶんだ。で、腕を振り上げて打つ。これが基本だね。」
「わかりました!!」
こうして部員全員が見守る中、スパイクを打つさやか。
夏岡に下から挙げられたボールを打ってみた。
パコン、という音が鳴り響く。
ただ、打点が高いので、それなりにいい角度で打たれている。
だが、夏岡は納得いかなかった。
「両足で踏み切らない。両足で踏み切りすぎると高さが出ない。あと、バックスイングをしっかりね。」
「はい!」
「うん、いい返事だ。それじゃ、10本いくよ!」
こうしてさやかは10本を連続で打っていく。やっていくたびに感覚を掴んでいるのを感じた。
さやかのスパイクは、パシーーーーン、という音と比例して、次第に高さと角度が出てきてている。
側から見ていた全員はこう思った。
さやかは大化けする、と。
そしてサーブに移る。
麗奈は基本的なフローターサーブを教える。
「ボールを利き手と逆の手で下から持って、左足を前に出して。まず。」
「うん。それで?」
「で、自分の当てやすいところまでリフトアップして腕を振る。この時、振りすぎないようにね。」
「わかった!やってみる!」
こうしてサーブを打ってみるさやか。
だが、真っ直ぐになかなかいかなかった。
ネットにかかっているボールもあった。
打った後にボフッ、という音がしている。
ミートポイントがずれている。
それは誰の目から見ても明白だった。
麗奈はそんなことは気にしていなかった。
「最初はこんなもんだよ。やってくうちにコートに入れる感覚がわかってくるから。」
「難しいね、これ! でも麗奈ちゃんは押し出す感じでやってるよね!?」
確かにさやかの上から振るサーブとは少し違っていた。
耳の横からボールを押すイメージ。
そんなサーブだった。
しかもジャンプフローターサーブ。
パァー………ン、という音と共にスピードが上がり、弾道もネットスレスレだった。
そしてネットを超えたサーブはユラユラと不規則に揺れている。
「上手くなってきたらゆくゆくはこんな風になるよ。まだ焦んなくていいよ。さやかは揺らすことより、まず入れることを意識して。」
「そうだね! 焦っても仕方ないし!!」
こうしてサーブを打つ時間が終わった。
徐々に上達していくさやかに全員が目を見張っていた。
そして誰もが思ったのだろう。
さやかと麗奈が、この『ワラナン』の希望となることを、この場にいる誰もが予感していた。
今までの連載作品の中で一番長く書いちゃいましたねww
書きたいもの書きたかっただけなのでご容赦くださいwww
さて、次回から一年生も増えていき、「紅白戦編」に突入します。
どんな一年生が入るのか、是非楽しみにしていてください!!