第3セット まずは「基本」から(オーバーパス、ブロック編)
今回もほのぼのが続きます。
基本的にパートを二つに分けます。バレーをやったことがない人のために説明してますんで。
あと、余談ですが、「ワラナン」女子バレー部は全員スタイルがいい美人揃いですwwww
……麗奈以外は。
レシーブ100本が終わり、一息つくさやか。
そして教える側の麗奈は想像以上の鬼コーチだった。
ポーカーフェイスで鋭いことを指摘する麗奈。
麗奈はさやかを代表までコーチング(導く)することを今、念頭に置いている。
最初の段階ではあまり細かく言われなかったが、足は動かした方がいい、そうでないとキチンとAパスで上がらない、そう言われたのだ。
その麗奈が、さやかに一声かけた。
「バレー……楽しい……?」
ボソッと言われた無機質な声。
ただ、素直な質問だと、さやかは思った。
「レシーブだけでもさ……だんだん上手くなってくのがわかるしさ! 足パンパンだけど楽しいよ凄く!」
確かにさやかの上達ぶりは目を見張るものがある。
モデルの仕事があったとはいえ、今までスポーツをしていない、と本人が自己申告したのが不思議なくらいだった。
それくらい飲み込む速度が速く、意識も高い。
麗奈はさらに聞いた。
「……あんな目を輝かせてバレーしてる人、私の知る限りではいなかった。……さやか、聞きたいけど、なんでそんなに楽しめるの……?」
「え……麗奈ちゃんは逆に楽しくないの!? こんなすごいスポーツを今私がやってんのに!?」
「……バレーは楽しいよ……? 好きなことだから……。ただ……バレーをやってきた環境が楽しくなかった。指導者は厳しいし、バレーだけじゃないことまで求めてる。服装だったり……髪型だったり……。それに私の代の新チームになるあたりから嫌気が差してきてた。……目立ちたくないのに試合では自己主張しろ、とかさ。全中に出た時も、いろんな強豪校と練習試合してきていろんな高校からあのセッターが欲しい、欲しい、欲しい……。そりゃさ、JOCにも選ばれたし、U-15の日本代表にも選ばれたよ。でもそれはあの環境が選ばせてくれたのであって、私自身が出たいから選ばれたわけじゃない……。私のトスを引き立たせてくれたのはスパイカーのおかげだから……。私自身は何も持ってないよ。身長も、才能も…。だから誘われてないところに行こうって思って、誰よりも楽しくやって、っていう環境が欲しかった。それがピッタリハマったのがここだった、ってだけ。」
順風満帆なエリート街道を突っ走ってきた麗奈にも苦悩はあったんだな……。
そう考えるとさやかも同じクチだ。
パリコレに出れると持て囃されながら、普通の高校人生を送りたくてモデルを辞めたのも、麗奈に魅せられてバレーをやりたくなったからだ。
キッカケはあったが、正直芸能界は楽しくなかったし、環境も社長がクズだった。
15歳の少女を金蔓としてしか見ておらず、愛情もなかった。
だから距離を置いたのだった。
「さて……次はオーバーパス、やるよ。」
話を切り出した麗奈はオーバーパスを教えることにした。
「オーバーパス…? トスじゃなくて??」
「……トスとオーバーパスは全くの別物。さやかのポジション的にもこれは覚えといて損はない。でも構え方はどっちも一緒。」
「どんな感じ?」
「まず腕を顔の上に掲げる。そこから肘を曲げて落とす。で、手首を少し曲げて三角形の空間を親指と人差し指で作る。手はおでこより少し離す。」
見本を見せるため、麗奈はボールを高く挙げた。
キチンとしたフォームで落下点の真下に入る麗奈。
軽く膝を曲げて、手がボールに触れたのはほんの0コンマ何秒か。
ポゥ………ン、と無回転で挙がったボールは教壇のスタンドマイクに直撃した。
明らかに狙ったものだった。
軌道も何もかも。
その事実を目撃したさやかはただただ麗奈のオーバーパスの正確さに驚愕していた。
「んじゃ、やってみようか。さやか。」
「いやいやいや待って待って待って。あんなのは絶対無理だから! 私には!」
「……別にそれをやれって言ったわけではないんだけど。ただの返し合いだから。誰もあのスタンドマイクに当てろとは言ってないよ。アレは私がただふざけただけ。」
「いやふざけてやってあそこ当てれるの!?」
「……皮肉なことだけど、フォームが染み付いちゃってるからね……。アレは狙おうとすれば誰でもやれる。でもその前に私とオーバーパスだけでの返し合い1往復を100本。」
「その前にできるか不安なんですけど……。」
「すぐには出来ないよ、どんなスポーツでも。意識してやることが大事。」
そういって2人はオーバーパスを100本続けてやることにした。
さやかの方はまだ素人なので、手もフォームも軌道もまだぐちゃぐちゃだった。
それに対して麗奈はどこからでも正確にさやかのいる方向へ一ミリもぶれずにパスを出す。
そして100本が終わった後、さやかに麗奈は声をかける。
「さやか、捉えるところがバラバラ。腕を合わせようとしすぎ。」
「う……。それは確かに思ってたかも……。」
「レシーブでもそうだけど、しっかり前重心で捉えれば落下地点には入れるから。入る位置がブレてるからボールを捉える腕もブレる。」
「な……なるほど……。」
「んじゃ、ちょっと休んだらブロック行くよ。今日はこれがラスト。」
「え……スパイクとかは……?」
「時間そんなないってさ。夏岡先生が。だからそれはまた明日。」
「え〜〜……。」
「……打ちたい気持ちはわかるけど、まだ焦んなくていい。アンタに無理されても教える立場が困るだけだから。」
「う〜……わかったよ〜。」
そうしてそのあと、二人はブロックに移った。
「今日のラスト、ブロック。多分さやかが一番使うだろうから、真剣に教えるよ。」
「はーい。」
「じゃあまず、構え方。膝を少し曲げて、腕も軽く上げる。で、どっちサイドに行けるような心持ちで構える。」
「ほうほう……。」
「で、トスが挙がったら挙がったところの足から1・2、3ってタイミングでステップ。例えば、だけど、相手側から見てレフトに挙がったら右足から。ライトは左足から。」
「ほえー。で、センターに来たらどうするの?」
「その場で跳ぶ。クイックがもし来たらトスが挙がった瞬間にジャンプ。」
「へー……結構あるんだね。基本のだけでも。」
「そうね…。で、腕なんだけど、バンザイをしないで少しだけ前に出して、手に力を指を広げる感じで入れる。……まあ最初は伸ばすだけでいいよ。一気にやろうとしても多分出来ないから。」
「わかった!」
「じゃ、やってみようか。」
そうして、まず麗奈が手本を見せる。
そのフォームが真っ直ぐで美しい。
これを目指すのか……さやかはそう思った。
そしてさやかもやってみる。
リズムはいい感じなのだが、背中が少し丸まっている。
もっと背筋伸ばして、と麗奈から檄が入る。
背筋を伸ばさないと高さも出ないし、スパイクも吸い込む。
デメリットしかなかった。
「結構面白いね、これ!!」
さやかは相変わらず楽しそうにバレーをやっている。
麗奈はそれを見守っている。
レフトに挙がった、とかライトに挙がった、などなど、指示を出す。
さやかの息は上がっているが疲れの色は見せない。
ただ楽しんで、バレーをやってアドレナリンが分泌されているのだろう。麗奈目線でも、さやかの楽しくて仕方ない気持ちが伝わってきた。
そしてブロックステップの50本が終わる。
それが終わる頃にはさやかはもうクタクタになっていた。
だが、完全に楽しんだ分の勲章だった。
それはステージ上に滴っていた汗が、さやかが真剣に、かつ楽しんだ証明になっていたのだった。
正直間違っているかもしれないですけど、僕のバレー理論を詰め込みました。
最初の場面はさやかの芸能界の闇や、麗奈の強豪校の闇を少し描きました。麗奈がなんでワラナンに来たのかがわかるんじゃないかと思います。
次回、まずは基本からの最終回、スパイクアンドサーブ編です。
是非お楽しみに。