第29セット 日本代表としての誇示
この回は麗奈が珍しいシーンを見せます。
ヒントは目が据わる。
登場人物紹介は禊応のブロックの要の椎奈です。
鏑木椎奈 禊応義塾高校女子バレー部3年 川崎南中出身 9月3日生まれ A型 バレー歴は小5から 右利き ミドルブロッカー 181センチ59キロ 3サイズB85W54H84 好きな食べ物 八宝菜 趣味 漫画を読むこと
茶髪ショートが特徴的な華奢な女子。
クイック力自体は瀬里並みだが、ブロック力が非常に高く神奈川でも1、2を争う。
読みが鋭い「ゲス・ブロッカー」。
禊応がバンチリードブロックを採用しているので、椎奈のスタイルと相性がいい。
性格は、普段は猫かぶっているが、バレーの試合になると平気で人を煽ったり、スパイクを止めた時に舌を出したりと、超ゲスい性格になる。
要領がいいので手を抜く時も多く、紗衣とは普段の相性が悪い。
枝里が戻ってきた時に、平塚大北のリズムが良くなっていく。
テンポを早めてスパイクの助走に入る枝里。
渾身の力を込めてスパイクを放った。
逆に言ってしまえば、小田原南にそういった立場の選手は少ない。
何せコンビバレーで、背負うものが分割されている。
チームの命運を全て集約したスパイクを放たれたとき、小田原南は拾いきれない。
桃華で拾いきれない強烈なバックアタックだ、威力が弱いわけがない。
18-8。
流れを完全に引き戻そうかという、平塚大北のエース・枝里の気迫。
もう、意地と意地だろう。
平塚大北からのサーブで麗奈も負けじと春希に挙げる。
春希も強烈なバックアタックを打ち込むが、レシーバーも必死な目をしている。
もう、不退転なのだろうか、技術はともかく、必死さは伝わってくる。
森北がなんとか繋ぐ。
そして、チャンスボールになろうかというタイミングで枝里が気迫だけでソフトスパイクでも強力なスパイクに見せる雰囲気を伝わらせる。
絶妙なコース、ど真ん中に落ち、連続得点を奪い取った。
18-9となる。
ジワジワ、しかし、着実に詰め寄って、平塚大北が盛り上がり、雰囲気も掌握していた。
これに莉子奈はやりづらさを感じたようで、
「ヤバイね……完全に乗せちゃったかな。どうする?」
「……ちょっとお灸、据えましょうか。……調子に乗りすぎてるかと。」
といい、麗奈はポジションに戻っていく。
その目は、どこか据わっていた。
いつものマイペースな麗奈とは違い、どこか雰囲気が恐ろしかった。
次も枝里がバックアタックを決め、18-10とした時に、それは現実となる。
莉子奈と藍にサインを出す時も、どこかドス黒い、何かがあった。
別の意味で固唾を飲むメンバー。
そして、サーブを桃華がAパスでカットした時、それは起こった。
今まで見せたことのない麗奈が、そこにいた。
ジャンプトスで藍のクイックに挙げようとしたその時だった。
鋭い、殺意マシマシな目を枝里に向けた後、麗奈は枝里に向かってツースパイクアタックを、本来ほとんどバレーで使わない左手で放った。
枝里の右腕を弾き、ボールは後ろに逸れた。
逆手のスパイクとは思えないほど、威力が凄まじい。
それは枝里のスパイクを受けた腕がまだ、痺れているのがその証拠だった。
「……どんなに凄いスパイカーだろうと……私の前で勢いに乗らないことですね。」
据わったままの目で、平塚大北にこう、麗奈は言い放った。
19-10となり、流れを結果的に切った麗奈だったが、小田原南は全員ドン引きしていた。
何せ、今まででツーアタックをほぼ使わなかった麗奈が、高校に入ってから初めて使ったツーアタックが、あれ程の殺意を込めたスパイクだったのだから。
「麗奈……アンタ怖いわ、なんか……底が知れなさすぎる……私より良いの打ってるじゃん……」
莉子奈が1番ドン引きしていた。
「……幾ら鮫島さんがJOC代表だったからと、勢いに乗っている芽は摘まないと行けませんからね。……誇示ですよ、ただの。元ユース代表としての。」
当の麗奈は淡々としていたが、瞳の奥は全ての希望を叩き潰す、という黒いモノがあったのだった。
「……やっぱそう簡単にはいかないか……倉石麗奈……」
麗奈に威嚇のような強烈な一撃を喰らった枝里は闘志が湧き起こっていた。
面白いじゃないか、といった表情で。
森北が声を出す。
「全力で挙げるよ! いい!?」
「オー!」と全員が声を出した。
藍のサーブのターンで、夏岡が動く。
恵那をここで投入したのだ。
笛が鳴り、恵那がサーブを放った。
白鷺がなんとか上げ、森北が高いトスで繋ぎ、枝里が助走に入った。
バックアタックで、パワーを溜め、声を荒げて渾身の力でスパイクを放った枝里。
だが、平塚大北に、心が完全に折られる事態が襲った。
麗奈がキルブロックを決め、ボールはコートに叩き落とされた。
一歩も動けなかった平塚大北のプレイヤー。
20-10と、ダブルスコアになる。
麗奈はガッツポーズも見せず、ただ、淡々としていた。
ただ、その目は軽蔑の目をしていた。
こんな程度か、という目。
その目を平塚大北に向けていたのだった。
だが、枝里も諦めていない。
枝里だけ、たった一人は。
恵那のサーブをなんとか繋いだ平塚大北。
枝里は繋がれたボールをバックアタックで打ち返す。
これを春希がなんとか拾った。
しかし、二段トスだ。
麗奈は後ろ重心で跳び、高めに二段トスを打ち上げた。
莉子奈は一息吐き、助走に入ってストレートにスパイクを打ち込んだ。
諫山のディグが詰まり、他のメンバーも拾いきれない。
21-10と、完全に勢いを掌握し直した小田原南だった。
しかしその後の枝里のバックアタックでワンタッチエースになって、21-11とした。
ここで枝里が前衛に来るタイミングだ。
一本で切らなければいけないというプレッシャー。
しかし、そのプレッシャーを易々と越えるのも、今の小田原南だ。
古川のサーブを桃華が難なく挙げた。
ここで今まで見せたことのない攻撃を仕掛けた。
麗奈が瀬里に移動攻撃のトスをライトへ挙げた。
瀬里が走り込んで、左足で踏み切り、ストレートに打ち抜いた。
古川がなんとか挙げるが、小田原南のコートに返る。
韋蕪樹が落ち着いて処理し、Bクイックを瀬里に跳ばせてからの、莉子奈のレフトへの速いトス。
森北の右手に当ててブロックアウトを奪い、なんとか一本で切ることに成功、22-11とした。
そして、夏岡がここで3枚替えを決行した。
プラスでリベロも蓮と交代する。
麗奈のポジションにさやか、韋蕪樹に瑠李、そして、莉子奈に芽衣と、ワンポイント交代をここで使ってきたのだった。
所謂温存だろう。
そしてさやかをワンポイントブロッカーとして入れることで、更に威圧感を与えようというところだろうか。
芽衣がジャンプフローターを放つ。
カットされたボールを、枝里は、レフト! と大声で呼んだ。
さやかがセンター、瀬里がライトにいる。
森北は迷うことなくレフトへ挙げた。
枝里は思い切りクロスを抜こうとする。
これを芽衣は後ろ体重になりながらギリギリのところで挙げた。
運良く正面だったのが幸いした。
だが、少しAよりかは逸れている。
瑠李は膝を少し曲げ、ボールの落下点に入った後、レフトへトスを挙げた。
春希は助走を取り、跳び上がる。
当然のことながら、ブロックには枝里が来ていた。
必死の形相をしていた枝里。
しかし春希は、それを嘲笑うかのようにフェイントを繰り出した。
全く予想していなかったパワーエースのフェイントに、平塚大北は一歩も動けなかった。
23-11と、絶望感しかない点差になった。
これに大盛り上がりになる小田原南。
「……よくあそこ、フェイントで行ったね、春希。」
「なんか、見えたからね。後ろに下がってんのが。」
瑠李と春希はお互いに声を掛け合った。
そして、芽衣の2回目のサーブ。
今度は前に落ち、なんとか拾われたが、超えるか超えないか、という微妙なポジション。
さやかは森北が届かないと踏んだのか、両手を伸ばした。
と、ここで枝里が押さえつけようとさやかに迫る。
だが、これもさやかは想定していたことだった。
もし、押し合いになっても良いように韋蕪樹と練習していた時のことを思い出す。
〈腹筋に力を入れて……軸を安定させる、で、肘はしっかり伸ばして踏ん張るんだ。……これができれば、さやかは負けないよ。〉
韋蕪樹に言われた言葉を思い出し、ボールを押さえつける。
枝里もボールを両手でしっかりと押さえ、鍔迫り合いになった。
身長ではさやかが上だ。
経験、技術では枝里が一枚上回っているが、枝里が選択したのは押し合いだった。
一年生の、しかも初心者には負けられないという意地があるのか、歯を食いしばり、押していく。
さやかも負けまいと、渾身のパワーを込めて枝里と張り合った。
「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」
二人は唸り声を挙げて力比べをする。
ボールが二人から離れる。
軍配が上がったのは。
さやかだった。
枝里はバランスを崩し、後退りして尻もちをついた。
ボールは平塚大北のコートの、枝里の真横に落ち、小田原南がマッチポイントを奪った。
「……枝里、大丈夫?」
森北が手を差し伸べた。
「……すいません、ありがとうございます。」
枝里は手を取り、立ち上がった。
そして、芽衣のサーブが来る。
森北が選択したのは、勿論枝里だ。
枝里はさやかの指を狙い、ブロックアウトを狙おうとする。
さやかは「ワンチ!!」と、大声を上げた。
蓮が落下点まで下がり、冷静にアンダーで上げ、瑠李に託した。
瀬里、さやかがダブルクイックに入る中、瑠李が選択したのは1番信頼している、「親友」の春希へのセカンドテンポだった。
跳び上がった春希は、少し笑みを浮かべ、「ナイストス」と呟いて森北の上からコートへと叩きつけた。
インコートとなり、25-11。
結果的に圧勝だったが、平塚大北も、エースの枝里が爪痕を残した結果となった。
これで2-0でゲームセット。
小田原南が3回戦進出となった。
整列し、握手を交わした両校。
小田原南はその後で横並びになり、保護者に向かって、
「応援ありがとうございました!」と言って頭を下げた。
この後でシードの禊応の2回戦があるので、小田原南は観戦してから帰ることになった。
と、ここで枝里が、
「11番の子! ……ちょっと話がある……!」
「え……? わ、私??」
さやかは戸惑ったが、韋蕪樹に背中を押されて枝里のところへ向かったさやかなのだった。
「……えっと……お話って……」
「いや……すぐ終わること、なんだけどさ、……強かったよ、アンタ。」
「え……?? きゅ、急に、なんですか??」
「確かにさ、アンタはまださ、技術的にも発展途上かもしれない。………でもさ、こう言わざるを得ないよ、私は。……アンタに負けたのに何言ってんだって思うんだけどさ……」
苦笑いを浮かべた枝里はさやかにこう、告げた。
「……アンタならさ……日本代表の『核』になれるよ。……絶対に、ね。それじゃ。」
振り向かず、手を少し挙げて立ち去った枝里。
さやかは一礼し、小田原南のところへ戻っていった。
そして、この後禊応義塾と横浜港国との試合が始まろうとしていた。
一気に書いちゃったけど、こんな結末でよかったのかとは思います。
ただまあ、納得はしてくれれば良いかなと思います。
次回、因縁バチバチ回です。
女の戦いの怖さを存分に書きますんで楽しみにしていてください。
次回の紹介は椎奈と対角を張る宙です。
乞うご期待!




