第16セット 今からでも遅くない
今回もアフタートーク。
ただ……前回話した通りのまさかの展開となります。
登場人物紹介、今回は桃華です。
澤田桃華 小田原南高校2年 座間仙北中出身 8月10日生まれ AB型 バレー歴は小2から 右利き リベロ 145センチ32キロ 3サイズB84W56H84 好きな食べ物 シーザーサラダ 趣味 ソーシャルゲーム、メタルを聴くこと
チーム1小柄。スピードがその分あり、レシーブ力も高い。バレー歴はチーム1長い。
藍とは中学の時から先輩後輩関係で、ソシャゲ仲間でもあるので非常に仲がいい。
お金好きで、理想の男に高収入を求めるほど。そのため、結構軟派な性格。
硬派な瑠李とは相性が悪いので、お互い嫌っている。(いないところで呼び捨てにしている時があるほど)
小柄なことを武器にしているフシがあるので、意外とあざといミーハー。
瑠李と春希は向かい合った。
それも正面で。
お互い言いたいことがあるのだろうが、なかなか切り出せないでいた。
麗奈はそれをただ、仲裁に入ることなく傍観している。
春希が切り出した。
「瑠李……戻ってきてよ……!! みんなさ……!! 心配してんだよ!? アンタのことで……!!!」
気持ちを理解したかのようで、瑠李にそう言った春希だったが、当の瑠李は困惑していた。
何故自分の心配をする必要があるのか……どういう回答をしていいのか、困っていた。
「春希……! なんでわざわざ来たの!? 私の心配なんてしなくていいのに……!!! ねえ! なんで!? そもそもなんで教室にいるって分かったの!?」
麗奈と莉子奈が上手いことバレないで盗聴しているが故ではあったが、それを話すわけにはいかなかった。
「……アンタのこと考えたらさ……!! 居ても立っても居られなくなって………!! 瑠李は瑠李で思う所あると思うよ、そりゃ……!! でも私は私でアンタに言いたいことがあるんだよ……!!」
春希はいつも見せる明るい顔がなく、悲痛な顔になっていた。
「な……なによ、言いたい……ことって……」
心当たりがないと言ったら嘘にはなるが、確かに中学の時からの付き合いだ、ヨリを戻したいと麗奈が言ったのもわかる。
「瑠李……! もう、いいじゃん! そんな昔のこと引きずんなくても……!! なんでさ……! 今まで言えなかったの!? ずっと……!! 苦しんでたのをなんで!? 仲間をそんな信用できない!? ねえ!!」
瑠李はなぜ言えなかったのか……態度的な面でもそうだが、明るい、キラキラした雰囲気が苦手だった瑠李には、自分の過去を話そうにも話せない雰囲気で、瑠李なりに気遣っていたからだった。
「どんだけさ……! 私が今まで瑠李に気を遣ってきたって思ってんの!! アンタがチームにちょっとでも溶け込めやすいように間に立ってきてたってのにさ……!! あの時のことは私にも非があるってさ……! そりゃ思ってるよ!! でも昼ごはん誘っても全然乗ってこないしさ!! 私のこと嫌いなの!? 瑠李!!」
お互い蟠りがあるのは明白ではあったのだが、瑠李自身は、春希のことを鬱陶しいと思っていても、嫌いとは思っていなかった。
瑠李は唇を噛み、春希に何も言わずに詰め寄った。
そして。
怒りを携えた目を春希に見せたと同時に、春希の顔に左フックを放った。
ゴツン、という音と共に春希は少しよろけた。
「る……瑠李……?」
予想外の事態に困惑した春希。
まさか殴られるとは思ってもいなかったのだから。
「知った口を……聞くな! 春希……!! 裏切ったクセして……よくもぬけぬけとそんなこと言えるよね……!?」
瑠李の目には、今まで溜め込んでいたであろう怒りが血眼のように迸っていたのだった。
そこから瑠李と春希は、殴り合い、取っ組み合いの喧嘩になった。
何か言い合いながら暴力の嵐になっていく二人。
だが、傍観人の麗奈は止めようとはしなかった。
『ちょ……まずいって! 麗奈! 二人を止めてよ!!』
莉子奈の声が、麗奈のワイヤレスイヤフォン越しに伝わっている。
焦っているのは明白だったが、当の本人は至って冷静だった。
「……大丈夫ですよ。あの二人なら。」
『ええ!? ど、どゆこと!? 麗奈!! ここで喧嘩が起きたってバレたら私達もタダじゃ済まないってのに……!!』
「……信じましょう。……二人の蟠りが、消えるはずですから。」
……と、言ってる側から瑠李が春希を投げ飛ばし、ドンガラガッシャン、と机が薙ぎ倒される音が聞こえてきた。
お互い鼻から出血し、取っ組み合いながら睨み合っている。
目も少しばかりか腫れぼったくなっていた。
それでも麗奈は止めようとしない。
止めようとすれば、邪魔になるのは分かっていたからだ。
スマホから焦りの声が聞こえてくるが、全く心配している素振りはない。
春希が瑠李を押し返し、体勢を入れ替えた。
瑠李を教卓の上に押しつける。
教卓の金属音が教室内に響いた。
「瑠李……私はアンタを裏切ったわけじゃない!! アンタを守るためだった!! 間に立ってたのも全部!! でも……それがアンタを……!! 瑠李を苦しめてたなんて……思いもしなかった!!」
目には涙が浮かんでいる。
とんだ思い違いだと気づいた時に、後悔だろうか、ブレた自分が、春希はとても悔しかった。
「うるさい……!! 私がどんだけ悩んで!! 味方がいなくなったあの状況の苦しさが……!! アンタには絶対わからない!!」
瑠李はまだ、春希のことを許しきってはいなかった。
それもそうだろう、唯一信じていた春希に裏切られたと思っているのだから。
それが瑠李の誤解だったとしても。
「確かに思うところはいっぱいあるよ……! 瑠李の悪いところを言おうと思ったらさ!! みんないくらでも言えるよ!! 瑠李は不器用だから!! ……でもさ!! それ以上に瑠李の良いところはいっぱい言えるんだよ! 私は!!」
そして春希は涙を浮かべながら続けた。
「瑠李は……私よりバレーが好きで……!!! 誰よりも遅くまで残って……練習して!! 筋トレもして!! 私らが先輩に言いづらかったこともハッキリ言えるしさ……!! そんでもって……アンタは誰よりも優しいのをさ……!! 私は……私が一番知ってるんだから!! 確かにさ……! 私もイジメられるのが怖かったから悩みに悩んでイジメのグループと瑠李との中央に立ってさ!! なんとか間を取り持ってたのに……!! だからさ……! ホントにごめん!! 瑠李!! なんで一番そばに居たのに!! 私……!! 私は……!!」
と、ここで幸か不幸か、夏岡が3年2組の教室を覗きにきた。
これに気づいた麗奈は、咄嗟にイヤフォンを隠した。
目が合った夏岡と麗奈。
夏岡は、麗奈にちょっと来て、と手で二人に気付かれないように催促をし、麗奈はそれに従ったのだった。
一方、春希の切実な訴えを聞いた瑠李はというと。
春希の涙を見て、落ち着きを取り戻したのか……こう話し始めた。
「……ゴメン……春希……私も……アンタのこと、誤解してた……」
気づいた頃にはもう、鼻血も止まっていた。
「ごめん……でももう……どうしたらいいか……わかんないよ……春希………。」
春希の制服のブレザーの襟を掴み、顔を埋めて瑠李は涙を流していた。
「瑠李……今からでもさ、まだ間に合うよ。人と仲良くなるのにさ、早いも遅いもないんだよ。……だからさ、もっと気楽にやっていいんだよ、瑠李は。……何のためにバレーやってたのか、って言いたげだけどさ……このためだよ。バレーは……誰かと一緒にやるから楽しいんだよ。ホントに私のことが嫌いだったらバレーなんてもうさ……瑠李はやってなかったと思うよ? ……何年一緒にさ、バレーやってきたと……一緒に過ごしてたと思ってんのさ。アンタと。」
春希はそっと、瑠李の頭を抱きかかえた。
さっきまで殴り合って、取っ組み合っていたのが嘘みたいな慈しみだった。
そして、こんなことを言った。
「……大丈夫だよ、瑠李。……私が今度こそ、絶対守るから。アンタのこと、絶対、全部受け止めるから。……だってさ……高校に入ってから一回も笑ってないけどさ……アンタの笑顔がさ……私は世界一カワイイと思ってるよ……私はさ……」
この言葉を聞いた瑠李は嗚咽を漏らして、春希の懐で涙に明け暮れたのだった。
その頃夏岡と麗奈はというと。
隣の教室で麗奈が事情を話しているところだった。
それを聞いた夏岡は手を叩いて笑っていた。
「なーんだぁ、そんなことかぁ、アハハハ!!」
何が面白いのかはさておき、夏岡はこう続けた。
「うーん、まあ、瑠李が心配だった、というのはチーム全員が一致していた、ってところだね? 麗奈。」
「……ですね。そうじゃなければ、私が事情を聞きに行ったりはしませんから。」
その通りだと、麗奈は頷いた。
と、麗奈は瑠李からこっそり持ってきた日記を見せた。
これを見た夏岡は、というと。
「やっぱ、環境が変わってなかったのか。……むしろ心理状況が悪化してるね。」
と、呟いた。
そして、こう続けた。
「……私はさ、瑠李のお兄ちゃんと同級生だったんだ。……だから瑠李の家の環境を知ってる。「アイツ」とは、部長同士で仲が良かったからさ、色々話聞いてたんだよ。家のこともさ? ……正直初めて会った時の瑠李はさ、結構荒んでたんだよ。瑠李の兄ちゃんは温厚な奴だったから……兄妹でこんなに性格が違うのか、って思ってたけど、やっぱ悩んでいたんだな、って思ったよ。瑠李が。」
夏岡はホッとした顔を浮かべていた。
瑠李の兄「元」は、現在は会社員で、瑠李のことが気がかりで、今でも独身の実家暮らしをしているほどだ。
夏岡は全てを知った顔を浮かべて、今後のことを話した。
「まあ、あの二人を咎める気はないよ? 君に事情を聞かなければ表面で捉えていただろうしね。寧ろ二人が成長するきっかけになるだろうしね、これからさ?」
「そうだと良いんですけどね。」
「大丈夫だよ、盗聴してた、ってことはさ、つまりそういうことだろ? みんな、知っているって。」
「……まあ、そうですね。……瑠李さんには話してませんけどね。警戒されますから。」
「……みんなお人好しが多いから分かってくれるよ。さて……あとは、瑠李っていう“ピース”が埋まるかどうか、だね。チームワーク的な意味で。」
そういった夏岡は、窓の外を見つめていたのだった。
一方、瑠李と春希はというと。
「……落ち着いた? 瑠李。」
「うん……ごめん、迷惑掛けた。春希。」
「いーよ、そんなことぐらいさ……部室行こう。みんな、いるからさ。」
こうして二人は、荒らした机を直し、部室へ向かっていった。
と、ここで部室へ向かっている途中で瑠李がハッと気づいた。
「あ……カバン忘れた……」
「え? カバン?? ……後でいいじゃん、そんなのさ。とりあえずみんなのところ行こ?」
こう春希に言われた瑠李は薄笑いを浮かべていた。
「……そうだね……行こっか、春希。」
「何シンミリしてんだよ瑠李! 笑っていこうって!!」
こうして二人は部室に向かっていった。
そして二人が部室に着いて、中に入った瞬間。
部室に大幾と麗奈以外、全員が待機していたのだった。
喧嘩するほど仲がいい。
というか、喧嘩の詳細は尺の関係上書ききれなかったですwww
次回、紅白戦編、終幕です。
登場人物紹介のコーナーは、彩花を紹介します。
お楽しみに。