第14セット 「あとは頼みますよ」
この回で紅白戦に決着が付きます。
どんな決着を迎えるか、御刮目ください。
さて、登場人物紹介のコーナー、今回は韋蕪樹です。
勝又韋蕪樹 小田原南高校2年 相模原東中出身 7月6日生まれ A型 オポジット 左利き バレー歴は小5から 177センチ 61キロ 3サイズB88W59H90 好きな食べ物 ゴルゴンゾーラチーズ 趣味 サイクリング、ドラムを叩くこと
チーム唯一のサウスポーで、春希と並ぶ小田原南の得点源。
中性的な容姿をしているので、男子より女子にモテる。
無論、女子の友人も多い。
元JOC神奈川県代表。
「二重関節」(ダブルジョイント)を肩に所持している特異体質で、肩の可動域は300度を超える。
それを活かしたインナースパイクを最大の武器にする。
レシーブ面では多少弱い部分はあるが、その他のプレーはJOCに選ばれているだけあって、かなりハイスペック。
性格面では人当たりはいいが、かなりの自信家で、ポジティブシンキングの持ち主。
瑠李と春希とは中学の時からの先輩として付き合いがあり、二人からは特に可愛がられている。
瑠李からは頼れる後輩と思われており、一定の信頼を得ている。
一方の韋蕪樹は、瑠李の優しい面を知っているので、現在の荒んだ姿には見ていられないとのことで、元に戻って欲しいと内心思っている。
24-23。
Bチームがマッチポイントを奪取したが、Aチームが得点したので、韋蕪樹のサーブに回っていた。
全員、表情が引き締まっている。
それもそうだろう、これほどまでに熱い展開は無いのだから。
夏岡の持つ笛が鳴り、韋蕪樹がサーブを打った。
そのサーブは真理子の方角へと大きく伸びた。
真理子がなんとか挙げるが、詰まったため短くなった。
「ッツ……ごめん、麗奈、カバーして!!」
こう声を麗奈にかけて真理子は後ろへ大きく引いた。
麗奈は流石にさやかや彩花に使えないと判断し、アンダーハンドで真理子に挙げた。
真理子はしっかり踏み切り、長めにスパイクを放った。
しかし、威力があまり出ていなかったため、桃華に拾われた。
正確なパスになって、瑠李が春希にここぞとばかりに挙げた。
麗奈は敢えてブロックに飛ばず飛ばせずで下がらせてバックアタックに備えた。
空気をつん裂く音と共に春希のバックアタックが放たれ、それは蓮と真理子のちょうど間に来た。
雰囲気ではなく、蓮は感覚でインになると直感し、走り込んで春希のバックアタックを挙げた。
少し高くなったディグだった。
正直にいうと麗奈の射程圏内ではあるのだが。
と、ここで麗奈がスパイクを打つ時のように後ろへ一歩引いた。
そしてスパイクの助走に入り、跳び上がった。
さやかは構うことなくBクイックに入った。
麗奈のフォームは真っ直ぐで美しかった。
莉子奈と藍は麗奈が打ってくるのと直感し、麗奈のスパイクにブロックを跳んだ。
だがしかし、ここで予想だにしないことが起きた。
突如麗奈が横に向きを変え、平行トスを挙げた。
麗奈にブロックを跳んでいた二人に追いつくのは不可能だった。
二人がやられた! と思った直後、さやかのクイックにブロックで跳んでいたのは_____
瑠李だった。
麗奈のスパイクジャンプをブラフと読んでいたからこそ出来たことだった。
しかもジャストタイミング。
コースも完璧で、いくらさやかの高さといえど、止められることは必至だった。
かのように思えた。
なんと、さやかがこれを空振りしたのだ。
まさかの事態に驚きを隠せなかった瑠李。
じゃあ誰が……瑠李がそう思った刹那、その人物はもう、跳んでいた。
彩花だった。
しかも既に跳んでいる瑠李ではブロックが間に合うことはない。
瑠李の身長では到底届かない。
先程さやかにばかりに集めていたのは、明らかなる伏線だったのだと、Aチームはまざまざと見せられた。
全てを欺いた完璧と言える麗奈のトスだった。
「……ここまでお膳立てしたんですから……あとは頼みますよ………彩花さん。」
麗奈がこう呟いた。
彩花はノーブロックになったAチームのコートに渾身の力を込めて打ち込んだ。
瑠李はまだ諦めていなかった。
声を張り上げた。
「韋蕪樹ーーーーーーーーーーー!!!!!」
この瑠李の大声に呼応した韋蕪樹は幾ら彩花といえど、打ち下ろしてくると思い、突っ込んだ。
だが、彩花のスパイクの脚は長かった。
韋蕪樹がオーバーハンドでディグをしたが、吸収しきれず、後ろへ逸れた。
ストレートのコースへ走り込んでいた桃華も、韋蕪樹が逸らしたボールには対応できず、フライングで飛び込んだが、ワンタッチアウトの形で床にボールが落ちた。
Bチームは歓喜に沸き立った。
決めた彩花当人は、信じられないといった顔をしていた。
ボールの手の感触が、今も感覚として残っている。
「な……なんだろ……これ……私が決めたのに私が打った感覚がしないのって……」
興奮して、逆に決めた実感が湧かなかった彩花であった。
「つーかさ……よくあそこ、彩花さんに挙げたよね……。アンタの性格上だったら、さやかに挙げててもおかしくなかったのに。」
芽衣も今のスーパープレイには舌を巻いている様子だった。
「あと、さやかも打ってもおかしくなかったトスだったけど……さやかもよく彩花さんのトスだってわかったよね……? 何か感じたの? さやか。」
真理子の問いにさやかは少しはぐらかした感じで答えた。
「あー……うん、なんか、来そうな感じはなかったかな……勘なんだけどね?」
苦笑いを浮かべるさやかを見た一同は、本当は自分が決めたかったんだろうな、と思った。
整列し、一礼したメンバーは全員、夏岡のところへ集まった。
夏岡はメンバーにこう話す。
「いい試合だったとは思うけど……まあ、あくまでも新入生の実力を測るための物だったからさ、結果はぶっちゃけアテにしなくてもいいよ。うん。……まあ、本音は言いたいことがいっぱいあるんだけど、とりあえずお疲れ様。各自で反省しておくようにね。……で、今日はダウンしてあがろうか。」
「ハイ!」と一同は返事をし、ストレッチを開始した。
と、ここで夏岡が瑠李を呼んだ。
「ああ、瑠李はちょっと来て。」
瑠李は夏岡のところへ行き、話を聞きにいった。
瑠李を呼び出した夏岡は話し始める。
瑠李は瑠李で、悔しそうな表情を浮かべていた。
「……まあ、気持ちの整理がついてないってところだね? その顔は。」
「……はい……。」
「うーん……まあ、今後セッターは麗奈主体で使っていくことにはなるとは思うんだけどさ……今日見てたら瑠李も瑠李で……成長してる部分は見受けられたなって思う。」
瑠李の顔に戸惑いが浮かんでいた。
「最後に韋蕪樹に取ってくれ、って声を張り上げた時にさ……結果は伴わなかったかもしれない。莉子奈と衝突したのも一回あった。……けれど瑠李は瑠李なりに、チームのことを考えていたんだな、って思わせられたよ。以前ならそんなこともなかっただろうし、瑠李が焦って大崩れする時だってあった。……でも今日の紅白戦はそんなことがあんまりなくて、緊張感もちゃんとあって……ちょっと変わったな、って思った。私は。」
たしかに結果としてはAチームは負けたかもしれない。
ただ、瑠李も成長しているのは誰の目から見ても明らかだった。
それ以上に麗奈の才能が上回っていたのだった。
瑠李は夏岡の言葉に唇を噛んだ。
「アハハ、そんな顔するなって、瑠李。……大丈夫だよ、ちゃんと大事な時に使うからさ。というか、君がいてくれないと困る。さっきも言ったけど、悔しいのはわかるし、私だって言いたいことは山ほどある。ただ、この緊張感を忘れないでいて欲しい、って思ったから敢えて言わなかっただけだよ。……瑠李はさ、人付き合いが苦手だから、あんまりこういうのはわからないかもしれないけど……君が誰よりも遅く残って練習だったり、トレーニングだったりをしているのを知っているし……君が思っている以上に君は嫌われてないよ。」
夏岡の嫌われていない、という言葉にある種動揺を隠せないでいた瑠李。
下に俯き、拳を握りしめた。
それを見た夏岡はというと、瑠李をそっと、抱きかかえた。
「……大丈夫だって……君が素直になればいいんだよ……。悔しい時は泣けばいいし、甘えたい時は甘えたっていいんだ……心配するなって。君はまだ、成長途上だ。勝ちたいって気持ちも優先してたかもだしさ……、家庭環境のことだって、あるかもしれないよ? でも……君が思っている以上に、チームメイトは君のことを見てくれている、っていうのを忘れるな。いいかい?」
「……………はい……。」
夏岡にそう言われて、返事をした瑠李だったが、どうしたらいいかわからない、といった声色だった。
「でもそうなれるかどうかは君次第。さ、ストレッチしておいで。」
「わかりました……ありがとうございます。」
瑠李は一礼して、春希とストレッチをしたのだった。
片付けが終わって、更衣室にいたメンバーだった。
と、瑠李が珍しく、既に制服に着替え終えていた。
「……先、帰ってる。」
そう言い残し、瑠李は更衣室を後にした。
いつもなら筋トレをしにトレーニング室までいく瑠李が、何故そんなことを言ったのか。
メンバーは違和感を禁じ得なかった。
「……いつもより思い詰めてた顔してたね……瑠李……。」
瀬里が心配そうな声をメンバーに掛けた。
これには莉子奈も同感だった。
「うん……先生に呼ばれた時もさ……悔しそうな顔してたし……。やっぱ、堪えてたのかな? 麗奈のあのトスが。」
だが、桃華は違っていた。
「……ほっときましょう。瑠李さんは……私たちだって、思うところはいっぱいあるわけじゃないですか……今日の紅白戦で……。むしろ一人にさせた方がいいと思います。今日は特に。」
人の心配をしている場合ではない、として、瀬里や莉子奈の考えを一蹴した。
と、ここで麗奈が切り出した。
「……様子を見てきます。……多分、教室にいるんじゃないかと思いますんで。」
……と、言い残し、麗奈は瑠李の元へ向かっていった。
春希が、ああ、3年2組なー、と助言を送った後、麗奈は渡り廊下へ消えていった。
そして、残されたメンバーは。
「……瑠李さん大丈夫かな……何もなければいいけど……。」
韋蕪樹は心配で仕方なかった。
瑠李のことなので、何もなければいいのだが、という心配で胸が張り裂けそうだった。
と、莉子奈がスマホを取り出し、メッセージアプリのグループ通話のアイコンをタップした。
「麗奈、出るかな……心配だから一応かけてみるけど……。」
「……莉子奈さん、彼氏さんいるのに帰り大丈夫なんですか?」
唐突に恵那が莉子奈に話を切り出した。
「恵那、それどころじゃないのわかるでしょ!! ハア……空気読めないなあ、恵那は……。」
一方瑠李はというと。
自分のクラスの教室でノートを書いていた。
日記だろうか。
シャープペンシルの筆を進めていく。
ため息を吐きながら、少しずつ進めていく。
だが、途中で筆が止まった。
瑠李の目から涙が溢れている。
「……あれ……? 私……何のためにバレー……やってたんだっけ……」
瑠李自身でもワケがわかっていない様子だったのは、誰の目から見ても明らかだった。
また一方、その教室の側の廊下で、何やら喋っている人物が一人、いた。
麗奈だった。
どうやら莉子奈の通話に出た様子だった。
『それでさ……瑠李の様子はどう?』
「……泣いてますね。あれは、完全に。」
『……そっか……やっぱ、思うところはあるよね……。』
「ちょっと、話してきます。」
『あ、ああ、わかったけどさ、通話切らないでよ!? 瑠李の様子だけ把握しておきたいから……!!』
「わかりました。『スピーカー』にしておきます。」
こうして教室に入っていった麗奈は、瑠李の後ろから肩を2回、叩いた。
「うわっ!!?? え!? 誰!?」
今までにないくらい、大きい悲鳴を挙げた瑠李だったが、後ろを振り向いた途端、我に帰って冷静になった。
「……麗奈か……ちょっとビックリさせないでよ……。」
「……前の席、座ってもいいですか?」
胸を撫で下ろした瑠李と、相変わらず無表情のままの麗奈。
ビビらせた張本人がこの無表情だ、戸惑わないわけがない。
「ああ、うん……いいけど……。」
「それじゃ、失礼します。」
こうして、二人だけの会話が始まるのだった。
………傍聴人はスマホ越しでいるのだが。
紅白戦本戦後は、青春裏話となります。
カテゴライズとしては紅白戦編に入っていますが、あくまでもアフターストーリーなので、トークメインです。
ご了承願います。
次回の人物紹介は恵那です。
次回もお楽しみに。




