第13セット 覚醒する、さやかの才能
前話で恵那のサーブから春希のサーブ、という風になってましたが、ローテが破綻していたので恵那の部分を芽衣に修正しました。
大変申し訳ございません。
さて、今回はさやかが無双します。
そして登場人物紹介は藍です。
丸山藍 小田原南高校三年 座間仙北中出身 175センチ 64キロ 2月15日生まれ A型 ミドルブロッカー 右利き バレー歴は中1から 3サイズB96W60H93 好きな食べ物 おかかのおにぎり 趣味 水泳、ソーシャルゲーム
3年生最長身のミドルブロッカー。
正確無比なクイックを武器にしており、攻撃型ミドルブロッカーとしてチームを支える。
4つ上の兄はサッカー日本代表右サイドバックで、現在はスペイン一部リーグで活躍する「丸山亮平」。
兄が凄すぎるが故に幼少期から比べられてきた。
水泳の自由形100メートルで小学5年で日本新記録を出すほど水泳が得意だったのだが、肺気腫を患い、バレーボールに転向した過去を持つ。その後遺症で肺活量は低い。
桃華とは直属の後輩で、ソシャゲ仲間でもあり、仲がとてもいい。
控えめな性格で、無口なため、ほとんど喋ることはないが、最低限のコミュニケーションは取れ、表情の変化も割と豊か。
ただ、桃華が「ど天然」と評するほど、抜けている節は見受けられ、莉子奈曰く、瑠李より掴みどころがないとのこと。
チーム1の巨乳。
去年までは彼氏がいたが、物語開始の1ヶ月前に「バレーボールに集中したいから」という理由で別れた。
のめり込んだらハマる性格。
ちなみにその巨乳を周りから羨ましがられているが、本人はそんなことを意に介していない。
瑠李とはジェスチャーでコミュニケーションを取ることが多いので、周囲から見ればただの放送事故にしか見えない。
瑠李曰く、藍はあまり干渉してこないので接しやすいとのこと。
藍本人は、瑠李はもっとコミュニケーションを取るべきだと考えているが、本人にはそのことを言っていない。
21-22となり、さやかの縦クイックで得点したBチームのローテーションは真理子のサーブだった。
Bチームからすれば、真理子のサーブのターンでブレイクを取れなければかなりキツい展開になることは間違いなかった。
何せAには勢いに乗る春希がいる。
一本でサイドアウトになれば、勝利を持っていかれかねなかった。
それだけに真理子に重くプレッシャーがのしかかった。
真理子の心臓が緊張で高鳴っている。
それは真理子本人が一番よくわかっていた。
それでも一息ついた。
なんとか自らを集中させようとしている。
大丈夫、私なら、と自分に言い聞かせながら。
そして、夏岡の持つ笛が鳴る。
ボールを2回、両手でバウンドさせ、深呼吸する真理子。
そしてボールを高々と挙げ、跳躍力を活かした高いサーブを打ち込んだ。
今までで最も手応えが良かった。
威力も上々。
しかし、桃華がこれを挙げた。
マジか……と真理子は呟いた。
この勝負どころで集中していたのは桃華も同じだった。
瑠李は藍と韋蕪樹にダブルクイックで入らせた。
彩花だけがそれに反応したが、麗奈とさやかは勘づいていた。
春希で勝負を決めにくる、と。
そして案の定、高速バックアタックがセンターに挙げられた。
春希がそれに思い切り踏み込んで跳び上がった。
「せー……の!!」
さやか、麗奈は息を合わせブロックに跳んだ。
春希は威圧感だけで決める雰囲気を醸し出していた。
渾身の力を込めてクロスへバックアタックを打ち込んだ。
のだが。
そこには抜いたはずのさやかの腕があったのだった。
左腕に当たったボールは勢いよくAチームのコートに突き刺さった。
それは春希のスパイクの威力の高さを表していたし、さやかのブロックもタイミングが合っていたということも意味していた。
これにはブロックカバーもあったものではない。
これで22-22。
Bチームが再び追いついた。
しかもこの勝負どころでのさやかのブロックポイント。
Bチームは喜びに沸き立った。
春希が苦虫を噛み潰した顔になったところで、瑠李が春希に駆け寄った。
「……春希……ごめん、流石に使いすぎた。」
瑠李は珍しく、春希に謝った。
長い付き合いの春希と韋蕪樹以外の全員は、このことに驚いた顔をしていた。
「あ……アンタが謝るなんて……明日雪でも降るんじゃないの……?」
莉子奈はあまりの衝撃に特大のボケをかました。
ただ、瑠李はそれには乗らなかった。
「……桜咲いてるのに雪なんて降る? 4月にさ……。莉子奈はいちいち大袈裟すぎ。」
春希は全員に笑い飛ばしてこれを答える。
「いーよ、ワガママ言ったの、私だから。気にしなくていーって。瑠李もみんなも。……負けてらんないね、あんなことされたら。」
エース・春希のこの言葉に全員が頷いた。
再び真理子のサーブ。
叫び声を挙げながら打ち込んだサーブは、春希のレシーブを弾き飛ばし、Bチームのコートへ返ろうかというところだった。
さやかがその場ジャンプをし、思い切りスパイクを打ち込んだ。
ダイレクトアタックだ。
角度のあるさやかの攻撃を誰も拾うことが出来なかった。
Bがブレイクを奪い、23-22と逆転に成功した。
麗奈は、真理子に声を掛ける。
「真理子……サーブ、この調子で行こう。」
これに真理子は笑みを浮かべた。
「あったりまえだっての! 最後まで行ってやるさ!」
その笑顔は自信に満ち溢れていた。
事実上の真理子のサービスエースから、3本目のジャンプサーブ。
もう、過度な緊張が消えていた。
打ち込まれたサーブは桃華と春希の間に行った。
オッケー!! と声を出しながら挙げた桃華。
瑠李は春希を使うのを一旦辞めて、莉子奈にトスを挙げた。
ライトセミ時間差攻撃だった。
彩花の方にスパイクを打ち込んだ莉子奈。
そして、意地でも触った彩花。
高くあがったことでさやかが開く時間が出来た。
この高くあがったボールを芽衣がなんとかして挙げ、麗奈に繋いだ。
麗奈はさやかにクイックを挙げた。
トスを見て跳んだ藍だったが、ここで藍は信じられない光景を目にした。
なんと、さやかは跳んでいなかったのだった。
そして、さやかが膝を曲げ、垂直跳びで打ったボールは落ちゆく藍のブロックの上を通過した。
思いの外、伸びたボールは桃華のオーバーハンドを弾き、エンドラインを割った。
まさかの「一人時間差」が決まり、Bチームがマッチポイントを手にしたのだった。
「……え?? さやか、あれ、咄嗟に出たやつ??」
驚いた顔をしている蓮がさやかに、あの一人時間差を聞いてきた。
「……え?? 蓮ちゃん、どうしたの?」
どうやら本人には自覚が全くなかったようだった。
決めたことすら覚えてないのか……蓮は今度は麗奈に聞くことにした。
「麗奈……これ、作戦だったの!?」
しかし、麗奈の反応は意外なものだった。
「……? 知らないよ? 今の一人時間差は。」
まさかの“知らない”という反応だった。
この時おそらく、さやか以外のBチーム全員は思ったことだろう。
本物の天才だと。
何せ、あそこから瞬時に一人時間差を導き出せるだけでもすごいというのに、本人に自覚が全くないのが恐ろしかった。
これで24-22とし、Bチームマッチポイントで真理子のサーブからゲームが再開された。
サーブを打ち込んだ真理子。
桃華がAパスでこれを挙げた。
ここですんなりと点をやるほど、Aチームも甘くはなかった。
瑠李の選択肢は韋蕪樹。
春希は敢えて温存し、左のエースにトスを挙げたのだった。
韋蕪樹のインナークロスを警戒し、3枚でクロス寄りに跳んだが、ここで韋蕪樹が選択したのはストレートだった。
彩花の上から左腕が撃ち抜かれた。
芽衣が弾き飛ばし、Aチームが24-23と、次にブレイクポイントを取れば、デュースまで食い下がれるところまできた。
韋蕪樹が渾身のガッツポーズを取りながらサーブへと下がっていった。
と、ここで、麗奈が彩花に声を掛けた。
「彩花さん……マイナステンポ、行けますか……?」
この最終盤で、彩花に挙げようと麗奈は言った。
まさかこの場面で自分に回ってくるとは思いもしなかった彩花は、脳を最大限にフル回転させ、少し考えた。
そして、一息吐き、答えを出した。
「……できるかはわかんない……でも勝つためならやってみる!!」
彩花の決意の目がそこには現れていた。
そして、韋蕪樹のサーブ。
ここが正念場であり、最終局面を迎えようとしていたのだった。
果たしてBチームの選択は吉と出るか、凶と出るのか。
それは神のみぞ、知る答えだった。
無自覚の中で、さやかは着実にバレーボーラーとして成長していっています。
というか、一人時間差は絶対読めないと思いますwww
あの終盤でそれをする奴はそうそう居ないでしょうから。
次回は韋蕪樹の紹介と、紅白戦のクライマックスです。是非、お楽しみに。