第11セット 「MB1」
謎の言葉がサブタイトルでありますが……2013年のグラチャンバレーで、女子日本代表が実際にやっていた戦術です。元経験者の立場からすれば……案外混乱しますwww
さて、登場人物紹介。今回は……瑠李です。
亀貝瑠李 小田原南高校3年生 12月30日生まれ B型 右利き 相模原東中出身 バレー歴は中1から セッター 163センチ54キロ 3サイズB87W61H86 好きな食べ物 ササミ 趣味 筋トレ、川釣り
チームのセッターなのだが、チームから孤立気味で、本人も自覚はしている。独りよがりな性格で、友人もほぼいない。練習後に一人で筋トレをしているほど。実際キツく当たることもあって反感を買われているのだが、本人なりにチームを想っているからこそで、チームの輪を離れて筋トレをしているのも、本人曰く、練習の後で気まずいからなのだとか。実際は人付き合いが苦手な、シャイで不器用な性格で、韋蕪樹曰く、中学の時はとても優しかったのだとか。
家庭が複雑で、両親からはネグレクトを受けており、春希曰く、バレーの道に行っていなければ絶対に悪い方向へ行っていたとのこと。9歳上の兄がいるので、日銭は兄の給料からもらっていて、ブラコンだったりしている。
春希とは中1から同じクラスで、バレーの道に行ったのも春希に誘われたから。ただ、引退してからクラスでイジメを食らったことで人間不信になる。春希からは実情を最も良く知るため気に掛けられているが、本人は鬱陶しいらしく、昼食の時はいつも便所メシ。(恵那に目撃されたことあり。)また、オシャレにも疎い。
プレースタイルは速いトスを主体に組み立てていくスタイル。ただ、そのせいで速すぎてスパイカーがトスが合わないこともしばしばで、トス自体は一級品なのだが喧嘩になることも多い。そのため、「自己中心的」とよく誤解される。本人は強豪に勝つためだとか。
バレーの熱は熱いので、本人が思っている以上にチームからは嫌われていない。
クールな顔立ちで、美人ではあるのだが、上記のこともあり、クラスメイトや後輩(特に一年生)からは怖がられている。
一番低いローテーション、しかもさやかのサーブのターン。
Bチームは2点リードしているとはいえ、不安がよぎっていた。
と、ここで麗奈が一度タイムを取った。
「………ここのローテーションなんですけど……恵那さんが戻ってきたタイミングなんで、私がずっと考えてきたのを使いたいんですけど……行けますか?」
ずっと考えてきたものとは。全員の頭に「?」がよぎった。
「えっと……私が戻ってきたのはわかるけど……。どういうこと? 麗奈。」
「……『MB1』ってやつです。さっきの1ローテを一通りやって……恵那さんを活かす道はこれだと確信が持てました。……要は、センターをさやかだけにして、恵那さんが普通にオープンスパイクを打つ。そういうシステムです。実際日本代表も、これを使っていたことがあったりします。」
「そ、それはわかったけどさ……ぶっつけじゃん! 大丈夫なの!? それ!」
芽衣から反対の声が上がったが、バリエーションを増やすためだと、麗奈は言った。
「芽衣……大丈夫だから。確かにぶっつけだし、これだけだと攻撃力が低いから、真理子も積極的に使っていくよ。ここのローテは。このローテでいかに引き離せるか。勝負のカギはここ。だからこそだよ。」
芽衣は渋々理解したようで、
「はー……ホント考えることぶっ飛んでるね、麗奈。そこまで言うなら信じるよ。」
「……んじゃ、さやか。サーブ、入れてよね。今はまだ、それだけでいいから。アンタは。」
「……オッケー。」
そういって、さやかはサーブに下がっていった。
そして、笛がなる。
さやかがサーブを打った。
ポー………ン、と山なりに打たれたサーブ。
これを桃華が難なく取った。
Aパスで通った。
瑠李のトスの選択肢はAクイック。
藍が打って、芽衣の右側にコースが行った。
これを芽衣は、フライングで触ったのだが、低すぎてネットの下を通った。
Aチームが得点を決めた。
これで8-7。
一点差に詰め寄った。
そして藍がサーブに下がり、瀬里が前衛に上がった。
そして、笛が鳴り、藍のサーブ。
弾速は遅めだが、キチンと入れられていた。
これをフォーメーション的にバックセンターに、前目に来ていた真理子が難なく取った。
麗奈は一度ライトへトスを上げ、彩花は、莉子奈のブロックに当てた。
これを計算済みで、跳ね返ったボールをオーバーパスで取った。
麗奈の選択肢は、レフトのセカンドテンポだった。
トスの先は恵那。
瑠李のブロックの上でボールが弾かれ、韋蕪樹はこれを処理した。
瀬里がクイックに入った。
瑠李の選択肢はレフトの速いトス。
トスの先は無論莉子奈だ。
だが、トスが少し長い。
(クッ……麗奈に当ててブロックアウトを狙うしか……!)
こうして、麗奈の右手に当てようとしたのだが……麗奈はこれを察知していた。
莉子奈が打つ瞬間、手を引っ込めた。
しまった! と、莉子奈が思った時にはもう遅かった。
フェイントを打とうにも、打ちようがない。
何せ振り切ろうとしていたのだから。
放たれたスパイクは、案の定、アウトになった。
これで9-7。再びBチームが2点リードを取った。
と、ここでAチームが喧嘩になった。
瑠李と莉子奈で、だ。
ここでは書くことを憚られるが、トスが合わないだのなんだので喧嘩になっていた。
その時、瀬里からツッコミが入った。
二人の頭を叩いたのだ。
「頭冷やしなって、二人とも! 瑠李も狙いすぎってのもあるけどさ! そりゃあね!? でも莉子奈も莉子奈でさ! なんでブロックアウト狙ったの!! 立て直してもう一回、とかって考えられなかったの!? そういうところだよ!! ワラナンが勝てないのは!!」
副主将として、見ていられなかったのだろう。
瀬里は強い口調で二人を一喝した。
「は〜……確かに立て直しは効いたよね……そう考えたら私が怒るのはお門違いだったかも。ごめん。瀬里。迷惑かけた。」
莉子奈は納得がいっていなかった様子だったが、瑠李はツーンとした表情でポジションへ戻っていった。
彩花のサーブ。
低く、体重の乗ったフローターサーブ。
これを春希が取ったが、少しズレた。
瀬里は構わずAクイックに入る。
瑠李が選択したのは韋蕪樹のバックアタックだった。
今度は得意にしているクロスではなく、ストレートに長いスパイクを打ち抜いた。
そのスパイクは彩花のレシーブを弾き、誰も取れない位置へ行った。
9-8。
一進一退の様相を呈してきていた。
と、ここで春希が前衛に上がった。
Bチームに警戒心がより強くなる。
莉子奈のジャンプフローターサーブ。
真理子を正確に狙ったサーブ。
レセプションが乱れた。
短い。
二段トスになる。
麗奈がアンダーハンドパスで二段トスを上げた。
レフトに、だ。
トスの先は芽衣。
フワッと上げられているので、しっかり踏み込んで跳んだ。
クロスに打ったそのスパイクは、長くなった。
瑠李の左手の上を通過した。
桃華が走りながらレシーブし、瑠李はライトセミへ、トスを上げた。
春希がレフトから走り込んできてコートに叩き込んだ。
蓮が腕を懸命に伸ばしたが、あと一歩届かない。
Aチームがブレイクポイントを奪い、これで9-9の同点とした。
だが、麗奈はこの程度では慌てなかった。
「……大丈夫。まだこっから。次、切り抜けよう。」
この一言にチームは頷いた。
そして再び莉子奈のサーブ。
Aチームの方針は、彩花でも蓮でもなく、レシーブ力が後衛3人の中で一番低い真理子を狙うこと。
莉子奈はそれを一周した中で、見抜いていたのだった。
(これでは真理子のバックアタックの予定も頓挫しちゃうな……。でもここは芽衣と恵那さんだけで取らないとダメだ……。理想は恵那さんで取ること……。そのためにはこの「MB1」も囮……。あくまでクイックを決めるための布石だから……)
そうして、センターにトスをオープンで上げた。
恵那は3枚来たブロックをものともしない。
春希の方に当て、跳ね返ってきたリバウンドボールを彩花は低い姿勢のオーバーパスでこれを取った。
今度は芽衣に上げた。
ブロックアウトを狙い、瑠李の右手を打とうとする。
だが、瑠李はアンテナの近くで、ブロックアウトのコースに手を覆い被せた。
読んでいたのだ。
コートインに落ちていく。
芽衣はもうダメだ……と、その時だった。
蓮が勢いよくボール下に潜り込んで、パンケーキフライングで間一髪、落とさずに済んだ。蓮が雄叫びをあげた。
「ナイス。」
麗奈は蓮に向けてそう呟いた。
今度はアンダーハンドパスで、真理子に向かってバックアタックを挙げた。
瑠李は下がれ! と声を出した。
Aチームは指示通り、ノーブロックになった。
ディグによほど自信があったのだろう。
打たれたスパイクを、莉子奈がなんとか上げた。
瑠李の選択は瀬里のBクイック。
麗奈はなんとかワンタッチを取り、蓮がワンタッチされたボールをオーバーカットをして、なんとか短いながらも上げた。
Cパスだ。
麗奈はライトに挙げる。
恵那に上げ、恵那も思い切り打ったが、これを春希がなんとか触り、リバウンドになる。
真理子がオーバーパスで上げた。
と、ここで恵那がクイックに入った。
Aチームはこの時は思った。
芽衣に上げるブラフだと。
しかし、麗奈が選択したのは、恵那だった。Aクイックだった。
「しまっ……」
流石の瀬里も、反応が遅れた。
ほぼノーブロックの状態になっていたAチームのコートに、恵那は躊躇うことなく打ち込んだ。
やっと決まった……その思いもあったのだろうが、恵那は渾身のガッツポーズを取った。
「……やられた……。恵那は完全にノーマークだった……。まさかここで隠してた武器で来るなんて……。」
瀬里は驚いていた。
麗奈のバレーIQの高さに感服していた。
「……まあ私でも恵那をあんな使い方は出来ないかな……。正直ああやって撹乱してくるのは私も想定外……良くも悪くもセオリーなウチでは考えられないね。」
瑠李はそう呟いた。
瑠李のその目には、闘志が沸き起こっていたのだった。
前書きで瑠李のことを長々と書いたんですけど……。瑠李の出生や過去は暗く、且つ濃いので、こんなに長くなっちゃうんですよねwww
まだ続きますよ。紅白戦は。
そして次回のキャラ紹介はエースの春希です。お楽しみに。