第10セット 「JOKER」
この回は結構派手ですね。ジャンプサーブ多めですw
さて、登場人物紹介、今回は瀬里です。
望月瀬里 小田原南高校3年生(副主将) 綾瀬東中出身 9月9日生まれ バレー歴は小5から 右利き O型 171センチ 59キロ ミドルブロッカー 3サイズB86W60H87 好きな食べ物 キムタクチャーハン 趣味 愛犬と遊ぶこと
小田原南高校女子バレー部副主将。チームのツッコミ役なのだが、悪ノリには案外乗るタイプ。基本的には真面目な性格。家族構成は両親と中学2年生の弟と犬が3匹。(3匹とも保健所から引き取った雑種)
冷静な判断力で相手の状況を見てブロックに跳ぶタイプ。クイック力は普通。
瑠李のことは苦手としており、瑠李の方からも距離を置かれている。瑠李のいないところで愚痴を吐いたりしていることはあるが、チームのことを考えているからであり、本音は仲良くしたいと思っている。また、麗奈にも多少苦手意識あり。
5-5。
Aチームが春希のサービスエースで同点に追いつき、勢いに乗っている。
Bチームはこれに対して後ろに少し下がり、威力を少しでも殺す作戦に出た。
ただ、さやかはレシーブに参加することはないので少しネット側に寄せた。
そして、春希がボールをリフトアップし、ジャンプサーブを放った。
今度は蓮の左側。
蓮は、右足を思い切り蹴り出して、正面に入ってこれを取った。
少し高いパスになった。
麗奈はこれをジャンプトスで挙げ、レフトへ挙げた。
彩花の位置だ。
しかし、ブロックがかなり高い。
韋蕪樹と藍の二人だ。
175を越す長身コンビ。
161センチしかなく、しかも最高到達点が高い方ではない彩花にとってはかなり厳しいマッチアップだった。
(正直私は高くない……だったらやることは……一回韋蕪樹に当ててもう一回展開する!)
ストレートに少し弱めのスパイクを打ち、韋蕪樹の掌目掛けて打った。
彩花の目論見通り、韋蕪樹の手に当たったそれはフワッと上がっている。
これを芽衣がオーバーパスで挙げ、麗奈が助走する。
今度は先ほどより少し早めにレフトへトスを挙げた。
さやかのクイックだと思っていた藍は少し遅れた。
彩花はブロックの間目掛けてクロスへ打ち込んだ。
しかし、ネットの白線に当たったことでバウンドして威力が弱くなった。
だが絶妙なところに落下点が来た。
瑠李がフライングしてなんとかボールを挙げ、莉子奈が二段トスで韋蕪樹に挙げた。
韋蕪樹が助走に入って打とうとした。
だが、3枚来ていた。
韋蕪樹の肩の可動域なら、インナークロスへ打ち込んでもおかしくはないのだが、ブロックがサウスポーのクロス寄りの位置だ。
打ちづらいこと、この上ない。
だが、韋蕪樹は躊躇わなかった。
躊躇なく超インナーにスパイクを打ち込んだ。
真理子の真横を通り、インナーのコースに入り込んでいくボール。
だが、韋蕪樹は信じられない光景を目にした。
なんとそこに、麗奈が入って、これを難なく挙げたのだった。
しかし、セッターが1本目で触ってしまったので、二段トスしか選択肢がなくなる。
だが、これも麗奈の計算尽くだった。
彩花が二段トスをアンダーパスで挙げ、真理子が助走を取る。
そして、持ち前のハイジャンプで3枚来たブロックの、莉子奈の方に向かってスパイクを放った。
左手に当たったボールはサイドラインを割り、アウトとなった。
ブロックアウトでBチームの得点。
春希のサーブからのラリー合戦を制したのだった。
「いやー……すいません……麗奈にやられました……。」
自らのインナークロスを麗奈に破られた挙句、得点を取られ、流れを切られた韋蕪樹は肩を落とした。
「いや……まあ、アレやられたらお手上げだよ……。まさか対策されると思ってなかったけど、私が真理子を止めきれなかったのがそもそも悪いからさ……。ま、切り替えよ。とりあえず。」
莉子奈はしょうがない、といった感じで次のレシーブに備えた。
6-5。
Bチーム一点リード。
真理子のサーブのターン。
と、ここで真理子が麗奈に一言言った。
「……麗奈……ごめん、切り札、切るわ。……ずっと、練習してきた奴。」
「まあ、いいけどさ。ミスらない、って自信ある? やるのは別にいいから。」
「……決まれば儲けだからさ、思い切ってやるよ。勝つためだし。」
そういって、真理子はエンドラインの外を出た。
真理子が後衛に下がったことで、麗奈が前衛に上がった。しかし、相手の攻撃が3枚なのに対し、Bチームは2枚しかなかった。
圧倒的に不利な対面。
ミスマッチもいいところだった。
真理子は左手を前に突き出した。
そして、笛が鳴った後、一息吸い、深呼吸する。春希と同じように回転をかけて助走し、跳び上がった。
3メートルの、女子ではかなり高い高さから打ち下ろされたジャンプサーブは、春希ほどの重さはないにしろ、強烈なのには変わりなかった。
真理子から放たれたジャンプサーブは、まるで挑発するかのように春希の真正面に行った。
これが真理子の言った切り札、ジャンプサーブだ。
春希は後ろ重心になり、サーブの威力を上手く鎮めた。
瑠李が選択したのはAクイックだった。
藍から放たれたクイックはさやかのブロックに当たった。
タイミングが遅れて高さは出ていなかったが、それでもワンタッチは十分に取れた。
桃華がカバーし、レフトセミ時間差を莉子奈に向かってあげた。
持ち前のスピードを活かして入り切った莉子奈。
ターンのコースに打とうとしたが、これを読んでいた麗奈にドンピシャで止められた。
麗奈のキルブロックが決まり、Bチームの得点となった。
莉子奈は悔しそうな表情を浮かべた。
「いやー……やっちゃった……。完全に読まれてたわ……。」
謝る莉子奈に対して、藍は首を横に振った。
「………その前に私が決めきれなかったのが悪いから……莉子奈は気にしないでおいて。」
「いやー……ホント麗奈にコントロールされてる感じがする……。ごめん藍。心配しないで。次こそ決めてやるから……。瑠李、頼むよ。」
「……まあ、いいけど。……その代わり、しっかり付いてきてよ。トスに。」
「ほんっと瑠李は要求高いな〜…ま、いいや。ここ、切ってくよ!」
莉子奈の指示でAチームはレセプションに散っていった。
7-5。
真理子のサーブ。
強力な回転がコートに突き刺さっていく。
桃華が回転レシーブでこれを挙げた。
(まだ使いたくはなかったけど……仕方ない。アレで行くか……。)
「春希!」
と、明らかにネットから離れた方へトスを挙げた瑠李。
そして、後ろから春希がスパイクの助走に入っていた。
バックアタックだ。
バックアタックは、後衛の選手が打つスパイクで、主にエース級の選手が使うものだ。
ハーフコート9メートル四方のコートの中に一本だけ「アタックライン」と呼ばれる線があり、それを踏むことなく跳べば、スパイクとして成立する。(跳んだ後にアタックラインを越すのは反則を取られない。)
春希の強烈なバックアタックが襲いかかる。
麗奈のブロックの手を弾き、エンドラインを割った。
これでAチームがポイント。
7-6と、一点差に詰め寄った。
「……ごめん。普通に飛ばされた。」
「……まさかバックアタックとはね……てか私らは真理子しか打てるのいないよね?これ打てるの。」
芽衣はAチームが早いタイミングでバックアタックを使ってくるとは思っていなかったようだった。
「……次だね。勝負は。一本で切ろう。サウスポーのサーブだから多分、春希さん以上に厄介だと思う。韋蕪樹さんのサーブを一本で切ろう!ここは!」
蓮がゲキを飛ばしたのも、実際サウスポーは小田原南には韋蕪樹一人だけしかいない。
右利きと軌道や回転が違ってくるのも事実。
ジャンプフローターサーブとはいえ、サウスポーなので、春希より厄介といっても過言ではなかった。
蓮が一息吐いた。
「……大丈夫……。私に任せといて……。」
蓮の目からは自身と冷静さが漲っていた。
そして、韋蕪樹のサーブ。
弾速が速い上、不規則に揺れる、一級品のサーブ。
それが蓮の方に飛んできた。
(落ち着け……見極めろ……。何のための動体視力だ……。ここで使わないでいつ使うんだ!)
蓮の武器は、抜群の動体視力。
高速でゴキブリを捕まえることを得意にしている蓮にとって、サーブの軌道を見極めるのは朝飯前。
急激に落ちたサーブを、膝を前に突き出して低い、且つ麗奈が丁度トスアップできる高さにまで拾い上げた。
ナイスカット、と一言呟いた麗奈は少し床で弾み、さやかへ向けてBクイックを挙げた。
そして、さやかは思い切り腕を振り下ろした。
それは瑠李のブロックの上から叩き込まれたクイックだった。
ポイントが決まり、喜びを爆発させたさやか。
一方、瑠李はただただ驚愕していた。
「……まさか……私が上から打たれるなんてね……。……やっぱりモノが違うわ、さやかは。」
春希もこれに呼応した。
「うん、今のは誰も取れないよ。上からなんてほぼ見ないしね、高校の女子バレーで。」
「……でも次は大丈夫じゃないかな。恵那と彩花のコンビだから。向こうは。」
これで再び2点差としたBチームだったが、ここで不安がよぎった。
さやかのサーブのターン。
そして、全6ローテ中、一番低いローテーションだという事実。
ここでブレイクを取れなければ、一気にAチームに流れが傾きかねない危険性が孕んでいた。
そしてさやかという、初心者のサーブ。
不安な空気が漂うのも無理はなかった。
小説の中でもラリーは結構見応えありだな、と思います。元バレーボール経験者として、超本格的に仕上げていきますので、最後までお付き合いください。
さて、次回は瑠李の紹介です。紅白戦編はまだまだ続きます。