奇跡のDM
三木とは別れ際に連絡先を交換した。
もしも例の女性がTASUKUの家に戻ってくるようなことがあれば伝えて欲しい、と言い添えて。
みおんの立場に立てば、金輪際家に帰ってくることはなさそうであるが、万が一ということもある。「犯人は現場に戻る」とは少しシチュエーションが違うが。
三木からの聴取を終えて、帰宅した湊人は、ノートパソコンを起動し、YouTubeを開いた。
ここ数日、調査のためにTASUKUの動画ばかりを見ていたためか、オススメとして表示される動画が心霊動画ばかりである。
怖いものが苦手な湊人はげんなりした気持ちになる。
湊人が真っ先に再生した動画は、例のジェイソン邸の動画であった。
ジェイソン邸で、TASUKUの目の前にはじめてジェイソンが現れたシーンで、湊人は一旦動画を停止する。
「たしかに背はだいぶ低いな……」
映画の設定によれば、ジェイソン・ボーヒーズの身長は192センチもある。
しかし、TASUKUに襲い掛かったホッケーマスクの怪物の身長は、周りの家具の高さから推し量るに、せいぜい150センチあるかないかだろう。
浅原も三木も、みおんの特徴として、いの一番に低身長を挙げていた。
また、浅原は、みおんについて、巨乳とも言っていたが、大きめのシャツに黒いコートを着ているため、動画からは胸の大きさまでは分からなかった。それに、女性にジェイソンのコスプレをさせるのであれば、おそらく胸にはさらしを巻いているだろう。
もっとも、何度か繰り返し動画を再生しているうち、胸の膨らみが幾分かあることは確認できた。
やはりジェイソンの中身は女性なのだ。
また、湊人は、ジェイソン邸以外のTASUKUの動画も一つずつチェックする。
「おお、いいのがあるじゃん」
湊人が見つけたのは、「心霊系Youtuber VS 女性の幽霊〜TASUKUが都内有数の心霊スポットである例のトンネルに突撃してみた〜」というタイトルの動画であった。
ジェイソン邸の件を受けて、TASUKUの動画の再生数は全体的に跳ね上がっていたが、この動画の再生数はまだ数千回程度であり、比較的落ち着いていた。あまり見つかっていないのである。
この動画も、ジェイソン邸の動画同様、「ヤラセ」であった。
TASUKUが自動車を運転し、女性の幽霊が出るというトンネルを突き進むのであるが、カメラが一瞬、白装束をまとった「女性の幽霊」の姿を捉えるのである。
それはあまりに一瞬であり、また、カメラのピントも合っていないため、ハッキリと見ることはできない。
しかし、動画を停止し、拡大してみてみると、その「女性の幽霊」の正体は、明らかにみおんであった。
低身長に、小動物のような顔、さらには大きな胸。
ショートカットではなく長髪であるが、これはカツラに違いない。
TASUKUの協力者はみおんで間違いないのだ。
犯人の正体を突き止めることはできた。
ただ、この事件の真相を語るためには、犯人の正体を明らかにするだけでは不十分である。
ジェイソン邸の帰りの車内でなゆちに伝えたとおり、この事件の最大の謎は、犯人がなぜ動画をYouTubeにアップしたのか、なのである。
三木はみおんのことを「まるで幽霊のような人」と表現したが、果たしてみおんは殺人享楽者なのだろうか。
それとも、何か別の動機があって、殺人動画をわざわざネット上にアップしたのだろうか。
この動機の部分に関しては、湊人がいくら調査を進めようとも、みおん本人から聞かない限りは明らかにできないように思える。
やはりみおんの居場所を突き止め、会いに行くしかないのだ。
何かヒントはないかと、湊人は、オススメで表示された、ジェイソン邸関連の動画を漁り始めた。
まず目に留まったのは、TASUKUの元妻——夏乃に関する動画だった。
浅原が話していた夏乃が、ついにテレビのインタビューを受けていたのである。
カメラは夏乃の全身を映しており、黒いセーターに黒いズボンという質素な佇まいであることは見てとれたが、さすがに首から上はモザイクがかかっており、顔を見ることはできなかった。
声も加工され、機械音のようになっている。
この動画を見て、夏乃の話を聞いたことにより、湊人の些細な疑問が一つ解けた。
なぜメディアが夏乃に行き着くまでに時間が掛かったのか、という疑問である。
実は、TASUKUと夏乃は、戸籍上の婚姻はしていなかったのである。
夏乃は、「斑鳩とはいわゆる内縁の関係でした」と話していた。
TASUKUの戸籍に夏乃の名前がなかったため、メディアが夏乃の存在に気付くまで時間がかかったのである。
そして、夏乃は、約3年弱前にTASUKUと別れて以降、今日に至るまで、ずっと実家で暮らしていたとのことである。
その取材も、実家の玄関先で行われていた。
殺された元旦那のことを訊きに、わざわざ元妻の実家にまで押しかけるとは、やはりメディアはハイエナのようだ。
そして、湊人を釘付けにしたのは、約1時間前にアップされた最近のニュース映像であった。
「ヤバイな……」
そのニュース映像は、警察が、斑鳩殺害についての重要参考人として、傘島みおんの行方を追っていることを伝えるものであった。
湊人が気付けるようなことは、警察も遅かれ早かれ気付くということらしい。
「急がないとな」
警察よりも先に事件の真相を明らかにしなければ、今までの調査はすべて水の泡である。
とはいえ、単なる一私人に過ぎない湊人が、国家権限とマンパワーを有する警察よりも先にみおんを見つけることなど本当にできるのだろうか。
絶望する湊人であったが、神は湊人に味方した。
通知音に反応し、スマホの通知を見た湊人は、その奇跡に絶句する。
なんと、みおん本人から、湊人宛に、TwitterのDMが届いたのである。




