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痕跡

 TASUKUが住んでいたのは、郊外の一軒家だった。


 郊外、といっても、電車を使えば30分ほどで都心に出ることができる。マイホームを構えるにはなんと理想的なロケーションなのだろうか。


 これだけ充実した環境に身を置きながら、なぜTASUKUはYouTuberなどという水モノに手を出したのか。これは今回のジェイソン邸の事件に勝るとも劣らない謎であるように思える。




 湊人は今、TASUKUの家の前で、ジーっと待ち伏せをしている。


 報道によれば、TASUKUは一人暮らしをしていたとのことだから、TASUKUの家から誰かが出てくることを期待していたわけではない。

 無論、恋人のみおんが飛び出してくればそれに勝る収穫はないのであるが、今は少し落ち着いたとはいえ、TASUKUの家周辺はマスコミの魔窟なのである。もしも生前のTASUKUと同棲状態だったなどの事情があったとしても、今のTASUKU宅にみおんが寄り付いて来るとは到底思えない。




 湊人がターゲットとする人物が現れたのは、待ち伏せを開始してから1時間が経とうとした頃だった。


 その女性は、昨日待ち伏せした浅原同様、朝のニュースのインタビューで比較的饒舌に話していた、隣家の主婦であった。

 容姿からすると、30代半ばくらい。表札から名字は「三木」であることが分かる。



 三木が鍵を取り出そうと家のドアの前で立ち止まったところを、背後から湊人が声を掛ける。



「すみません。斑鳩佐について話を伺えませんか?」


「……どなたですか?」


 三木はまるで不審者を見るような険しい目で湊人を見ている。

 浅原のときのように「探偵です」と名乗るのは、不審者であることを自白するに等しい。



「僕、斑鳩佐の従兄弟いとこなんです。生前の佐の様子について、お世話になっていた三木さんに伺いたくて」


 湊人の策は功を奏し、三木は、湊人を家の中に招いた。

 もっとも、湊人は、「あまり長くならないので玄関先で大丈夫です」と辞去した。嘘をついた上で、お茶までいただくのはさすがに罪悪感があったのである。



「三木さん、事件があってから、マスコミが鬱陶しいでしょう? 佐が自宅で殺されたならまだしも、事件があったのは遠く離れた山奥だというのに」


「そうね。でも、昨日今日はだいぶ静かになったわよ。マスコミの方々も、誰もいない家を見張っていても意味がないことに気付いたみたいで」


「生前、佐は一人暮らしだったんですか?」


「いいえ。一緒に暮らしてる女性がいたわ。結婚してたかどうかは知らないけど」


「どんな女性でした?」


「背は低くて、髪が短くて、子猫みたいでなかなか可愛い子だったわよ」


「声はどんな感じでした?」


「なんというか不思議な感じの声ね。浮遊感があるというか。私が再現することはできないけど、だいぶ特徴的な声」


「アニメ声みたいな感じですか?」


「そうそう。それ。声優さんみたいな声」



 特徴がみおんと一致する。


 TASUKUはみおんと同棲していたようだ。

 

 湊人がTASUKUの家の周辺を訪れたのは、みおんの所在に繋がるヒントを得るためであったため、湊人の士気が一気に上がる。



「先ほど、『誰もいない家』と言ってましたよね? 今はその女性はいないんですか?」


「ええ。具体的にいつかは分からないけど、事件の前後に出て行っちゃったみたい」


 それはそうだろう。もしTASUKUの家に居続けたとすれば、みおんはマスコミの格好の餌食となってしまう。もちろん、警察だってやってくるだろう。



「三木さんは、その女性がどこに行ったのか、心当たりはないですよね?」


「ええ。全く。あいさつ以外には言葉を交わしたことはなかったので」


「佐とお隣さんになって何年くらいですか?」


「2年くらい……かしら。私は5年前くらいからこの家に住んでるんだけど、斑鳩さんが引っ越してきたのが、たしか2年前くらいだった気がするわ」


 たしかにTASUKUの家の建物はだいぶ新しいように見える。壁には艶が残っており、新築特有の匂いもする。



「約2年間ほとんど接点がなかったんですね」


「ええ。斑鳩さんとは立ち話をすることもあったんだけど、女性の方は、大人しいというか、ご近所付き合いを避けているというか、まるで幽霊のような人だったわ」


 突然、三木はハッとした表情をする。



「どうかしましたか?」


「私、警察の人たちが話してるのを聞いたんだけど、斑鳩さんの家には、女性が暮らしてた痕跡・・・・・・・・・・がなかったんだって」


「え?」


 女性が暮らしていた痕跡がない? それは一体どういう意味なのか?



「……どういうことですか?」


「捜査のために警察が家の中を調べたんだけど、まるで斑鳩さんが一人暮らしをしていたかのような状況だったらしいの。普通、女性が一緒に暮らしてたら、たとえば歯ブラシが2本あったりとか、ヘアアイロンがあったりだとか、色々と女性が使う物があるはずじゃない?」


「そうですね」


「でも、それが一切なかったらしいの。私物は斑鳩さんの物しかなくて。さらに、女性の髪の毛とか指紋とか、そういうものも見つからなかったんだって」


 だから、と三木は続ける。



「もしかしたら、私が見ていた女性は、幽霊だったのかもしれない」



 三木は真剣な表情でそう言った。


 ジェイソンの次は幽霊か、と湊人は辟易とする。もしかすると、なゆちは、「さらに面白くなったね」とか言って喜ぶのかもしれない。



 ただ、湊人は、そのトリックが何なのか分かる気がした。



 簡単な話である。


 みおんが、警察の捜査を免れるために、斑鳩と同棲していた証拠を消したのだ。


 家を出て行く際に、髪の毛や指紋を掃除した上で、私物をすべて持ち出したということだろう。


 とすると、やはり犯人はみおんで間違いないようだ。


 みおんが犯人でなければ、自分の痕跡を消す必要などないはずだから。



 最後に、念のため、三木にTASUKUを殺す動機があるかも確認してみる。



「生前のTASUKUはどうでしたか? 三木さんに迷惑を掛けてませんでしたか?」


「従兄弟さんに言うのはアレかもしれないけど、あまり良い隣人ではなかったわね。挨拶もしないし、それに……」


「それに?」


「いわゆる騒音被害はあったわ」


「騒音被害ですか」


「ええ。斑鳩さん、大音量で音楽を流す癖があって。あと、この前も、動画編集ってやつかしら? その音が外に少し漏れてて。私がたまたま外にいたとき、例のジェイソンに斬られたときの『悲鳴』が斑鳩さんの家から聞こえてきて、私、動画を作ってるなんて知らないから、もしかしたら本当の悲鳴かしらと思って、思わず警察に通報しそうになったの。ただ、その後にも、全く同じ悲鳴が何度か聞こえてきて。だからこれは本物の悲鳴じゃないんだなって納得したんだけど、正直かなり心臓に悪かったわ」

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