動画のカラクリ⑵
「……編集か。それなら私もできるや」
なゆちはさらに落ち込んだ。
目から輝きは消え、もはやこの事件に対する関心すらも失われているようだった。
「ジェイソンは誰かの変装で、ワープはただの編集。大した謎はないのか」
「たしかに、その点に関しては大した謎はない。ただ、この動画がアップされた経緯に関しては大いなる謎がある」
「え!?」
なゆちの目に再びキラキラが宿る。
「この動画は、TASUKUのアカウントからYouTubeに投稿されているでしょ?」
「そりゃそうだよ。TASUKUが主役の動画なんだから」
「TASUKUはすでに死んでるのに?」
なゆちがハッとした表情を見せる。
「そうか! この動画は、死者によって投稿されたものなのか!!」
「それはないね」
はしゃぎ気味のなゆちには申し訳ないが、そのような解釈は筋が違っている。
「YouTubeのアカウントにログインできるのは、何も本人だけとは限らない。Googleのアカウントとパスワードが分かればログインできるからね」
「でも、普通は、本人以外分からなくない? パスワードとか」
「いや、TASUKUと動画作成を一緒に行っている人ならば、Googleのアカウントとパスワードは共有されていてもおかしくないんだ。そうした方が便利だからね」
「TASUKUと動画作成を一緒に行っている人? 誰?」
「ジェイソンだよ」
なゆちは一瞬混乱したようだったが、すぐに湊人の真意を掴んだようで、「ああ。なるほどね」と何度も頷いた。
「ジェイソンに変装している誰かさんは、TASUKUの動画作成に協力しているから、アカウントも共有されているだろうっていうわけだね」
「そうそう。だから、TASUKUの死後に今回の動画を編集し、アップしたのは、おそらくジェイソン——ジェイソンに変装している誰かである可能性が極めて高い」
「あれ?」となゆちが首を傾げる。
「さっきみなとは、動画がアップされた経緯には大いなる謎がある、って言っていたけど、今、解決しちゃったよね? 動画をアップしたのは、ジェイソンに変装したTASUKUの協力者なんだよね?」
「そう。動画をアップしたのは誰か、というのは、少し考えれば分かるんだ。大した謎じゃない。最大の謎は、どうして動画をアップしたのか、という動機の部分だ」
「どうして動画をアップしたか? みなと、人々がYouTubeに動画をアップする動機は一つしかないよ。売れたいから。それに尽きるよ」
それは、なゆちの場合であって、すべての人々がそうだとは限らない。
とりわけ、今回の心霊動画に関しては、その動機は絶対にありえないのだ。
「なゆち、売れたいって誰が? チャンネル主であるTASUKUはすでにこの世を去ってるんだよ? チャンネル登録者を増やして何になるんだ?」
「たしかに……」
「それに、動画は、犯行の瞬間を映してるんだ。これはこの上ない犯罪の証拠だよ。たしかにホッケーマスクを被っているとはいえ、この動画をアップすることによって、犯人が警察に逮捕されてしまうリスクは圧倒的に高まるんだ。動画のアップは、『ジェイソン』にとって自殺行為に他ならないじゃないか」
合理的に考えれば、ジェイソンに扮した誰かは、動画をアップせず、動画の存在を隠蔽した方が良いのである。それにもかかわらず、わざわざ動画をアップし、世間の注目を買うというのはあまりに不合理だ。狂っている。
もしかすると、犯人は、本当に狂った人間で、自分が誰かを殺している動画をアップすることに快感を覚えているということかもしれない。
たしかにそれは大量殺人鬼「ジェイソン」のイメージとも重なる。
なゆちは、みなとの示した謎に呆気に取られたようで、しばらく何も言わずに固まっていた。
ガタゴトと揺れる電車の音と暖房の送風音だけが聞こえる車内。
そこに響き渡ったのは、ピロンという電子音だった。
「みなと、携帯が鳴ったよ」
「ああ」
「確認しないの?」
「別に」
「なんで? もしかして女?」
「いや……」
湊人はズボンのポケットからスマホを取り出すと、チラリと画面を確認し、そのまま再度ポケットに戻そうとしたが、なゆちにスマホを横取りされた。
「ちょっと、なゆち、返してよ!」
湊人のスマホの通知を確認したなゆちがヒステリー気味に叫ぶ。
「みなと、ヒドイ!! 浮気だ!!」
「なんで!!??」
その通知は、Twitterの通知だった。
しかも、DMですらなく、単なるツイートの通知である。
「私知ってるんだから!! みなとが最近私以外のアイドルにリプしてること!! 最悪!! 浮気者!!」
なゆちはすごい剣幕でまくし立てたものの、湊人には、なぜなゆちが怒っているのかサッパリ分からなかった。
「……別に良くないか? 別に僕はなゆちと結婚しているわけでも付き合ってるわけじゃないし。しかも、この子にはリプをしてるだけで、なゆちから推し変しようとか全然考えてないし」
「そういう問題じゃない!!」
では、どういう問題だというのか。
「だいたい誰よ? その『るるたん』って??」
「るるたんこと傳矢月は、三日月SUNクルーズの新メンバーで、赤色担当。年齢は21歳。身長は154cm。趣味はネイル。特技は一輪車で、好きな異性のタイプは……」
「黙れヲタク!! 余計な知識披露するな!! キモいわ!!」
しまった。ヲタクの習癖である「推し語り」がつい出てしまった。
「みなとが最近よくリプしてるから、私もるるたんのインスタとかフリートとか一通りチェックしたけど、全然可愛くないじゃん。どこがいいの?」
「可愛くない?……そうかな? 顔のタイプはなゆちに近いと思うけど」
「超傷ついたんだけど」
なゆちは「くそっ!」と連呼しながら、座席で地団駄を踏んだ。
「いや、別になゆちのことを可愛くないって言ってるわけじゃなくて、むしろなゆちは世界一可愛くて、僕はなゆちの顔が一番タイプだから」
「……だから?」
「だから、どうしてもなゆちと同じ系統の顔の子を見つけるとなびいちゃうというか」
「みなとなんて、大っ嫌い!!」
なゆちはキーッと猿のような金切り声を上げると、そのまま湊人に襲いかかってきた。
湊人はなゆちに噛まれることを覚悟したが、それはなく、ただ、腕を引っかかれた。
「痛っ……なゆち、何するの!?」
「私の心の痛みをみなとにも味わわせたまでよ。みなとが最低のことをするから」
「そんなに最低なことかな? なゆちと全然似てない子に浮気するより、なゆちに似てる子に浮気した方してる方が、なゆち的にはホッとしない?」
「全然しない。むしろムカつく」
「じゃあ、なゆちに似てない子に浮気した方がいい?」
「それもムカつく」
「うーん、女心ってやつは難しいね……」
「みなとが女心を分かってないだけだよ」
難解なのは、女心一般ではなく、なゆちの心である気がする。
いや、もしかすると、難解なのではなく、単に超弩級にワガママなだけなのかもしれない。
「ねえ、みなと、とりあえず、るるたんのフォローと通知を切ろうか?」
「分かった。分かった」
湊人は口ではそう答えたものの、実際には、なゆちの指示に従う気はなかった。
実際に恋人になってくるわけではないのに、恋人ヅラして湊人の自由を制限しようだなんて、あまりにもご都合主義ではないか。束縛するならば、それ相応の見返りが欲しいものである。
湊人は、また通知音が鳴ると面倒臭かったので、スマホの主電源を切り、ポケットにしまった。




