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動画のカラクリ⑴

 結局、その後も湊人となゆちが雑木林の中に入ることはできず、警官との押し問答の末、二人はとんぼ返りを余儀なくされた。



 電車の本数が極端に少ないローカル線の駅では、解散も現地というわけにはいかなかった。

 暖房がほどよく効いた電車で、二人は並んで座る。

 車両には他に人はおらず、貸切のような状態だった。


 このシチュエーションでドキドキするな、という方が無理である。緩やかながらもスタッフの監視のある撮影会とは違い、完全に二人きりなのだ。


 前回の撮影会の時と同様、なゆちはみなとに肩を寄せるようにして座っている。これはどういう意味なのだろうか。まさか、湊人に心も、身体も許しているという意味なのだろうか。

 みなとが理性的な人間でなければ、どうにかなっていてもおかしくない状況だ。

 


 なゆちは、湊人の脳内での葛藤などいさ知らず、事件の話を始めた。



「ねえ、みなと、TASUKUは本当にジェイソンに殺されたのかな?」


「どういう意味?」


「だって、ジェイソンなんて、お化けみたいなものでしょ? 本当に実在してるの?」


「ああ、そういうことか」


 今回の事件が異常であるのは、犯人が「ジェイソン」である点である。例の殺人動画に寄せられたコメントにも、今のなゆちの質問と同様の書き込みがたくさんあった。



「なゆち、お化けはいると思う?」


「うーん、いるようないないような……なんともいえない」


「そのなゆちの態度は正しいと思うよ。未だかつてお化けがいることを証明した人間はいないし、他方、お化けがいないことを証明した人間もいない。存在も不存在も証明できない存在がお化けであり、ゆえにお化けは『非科学』的なんだ」



 湊人の説明を半分くらい咀嚼したのだろう、なゆちは、


「じゃあ、ジェイソンも本当にいるかもしれないってこと?」


と首を傾げながら訊いてきた。



「なゆち、ジェイソンはいつどこで生まれたか知ってる?」


「えーっと、名前的にアメリカ人?」


「正解。1946年6月13日、ニュージャージー州でボーヒーズ家の長男として生まれたんだ。ジェイソン・ボーヒーズは、生まれつき顔が奇形だった」


「……奇形?」


「まあ、顔面が歪んだり崩れたりしてるって意味だね」


「可哀想」


 たしかにジェイソンは元々は「可哀想」な存在なのである。


 そして、この顔面の奇形が、彼の今後の「人生」を決定付ける。



「ジェイソンが11歳のとき、クリスタルレイクでのキャンプに参加した。そこで、ジェイソンは、顔面の奇形から「怪物」と差別され、顔に布袋を被された状態で、少年少女に湖に突き落とされるんだ」


「それで死んじゃったんだね……可哀想」


「いや、それがジェイソンは、人並み外れた心肺機能を持っていて、奇跡的に生還するんだ。ジェイソンは、生まれつき常人の二倍の大きさの心臓を持っていたからね。それから紆余曲折がありジェイソンは殺人鬼と化し、クリスタルレイク付近のキャンプ場を訪れた若者たちを次々と殺害する」


「……じゃあ、ジェイソンは、お化けじゃなくて、生きた人間だ、っていうこと?」


「そうだね」


 このことは今の日本人にはあまり知られていないかもしれないが、ジェイソンは、驚異的な心肺機能を有した人間なのである。

 ただし、被害者の反撃に遭ったジェイソンは、40歳で死亡した後、落雷を受けて蘇生をするので、この時点からは完全に「お化け」になるのだが。



「ジェイソンが、人間ということは、ジェイソンは本当に実在してるということ?」


 「そうだよ」と言ったときのなゆちの反応を見てみたい気持ちはあったものの、湊人は,純朴な少女を揶揄うことはしなかった。



「違うよ。ジェイソンは、明らかに創作された存在だ。さっき僕が話していた話は、すべて映画の話だよ。ジェイソンは『13日の金曜日』というホラー映画のために生み出されたフィクションだよ」


「なんだ。先に言ってよ」


 なゆちは心底がっかりした様子だった。



「TASUKUの動画のジェイソンは、明らかに映画のジェイソンをモチーフにしている。ホッケーマスク、黒いジャケットに白いシャツ。さらにチェーンソー。完全な再現だ。コスプレと言っても良いレベルだね」


「コスプレ、ということは、誰かがジェイソンの格好をしてるということ? つまり、ヤラセってやつ?」


「そういうことだろうね。TASUKUは、ジェイソン邸で、誰か協力者にジェイソンの格好をさせて、『心霊動画』を撮ろうとしたのだろう。そこまでは、実に下らないけど、YouTuberにありがちな発想に思える」


 ただ、と湊人は続ける。



「TASUKUにとって、想定外だったのは、その協力者が、本当にチェーンソーでTASUKUを殺してしまったことだね」


 おそらく、TASUKUは、協力者に、チェーンソーで自分を襲うフリをしてもらうように頼んだのだと思う。しかし、何らかの理由でTASUKUに殺意を抱いていた協力者は、フリではなく、実際にチェーンソーで切りかかったのだ。



「みなと、ちょっと待って。実はジェイソンはコスプレで、中には生身の人間が入っていた、ということなんだよね?」


「そうだけど」


「じゃあ、どうやってジェイソンはワープしたの?」


「ワープ?……ああ、あれか」


 動画では、ジェイソン邸でジェイソンに遭遇したTASUKUは、外に逃げ出し、一度は完全にジェイソンを振り切っている。それにもかかわらず、TASUKUの目の前に突然ジェイソンが現れ、チェーンソーで襲いかかってきたのである。なゆちの言っている「ワープ」とはそのシーンのことに違いない。



「なゆち、あんなの簡単だよ。動画を編集すればいいんだ。実際には、逃げるシーンと襲われるシーンとの間には時間の間隔があって、その間にジェイソンはTASUKUの前に回り込んでるんだけど、その回り込むシーンをカットしてしてるんだよ。だから、ジェイソンが『ワープ』をしてるように見えるんだ」


 単に動画の一部分をカットしているだけなのであるから、編集としてはもっとも容易な作業である。

 スタジオでジャンプして、着地した瞬間にはロケ先にいる、という「ワープ」映像はテレビでもよくありがちであるが、それと同じ手法だ。


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