真犯人⑵
みおんの話を一通り聞いた湊人は、不思議な気分であった。
時折涙を見せたり、声を詰まらせたりするみおんの話ぶりからすると、みおんが嘘を吐いているようには到底見えない。
とはいえ、みおんの話が論理的に整合しているかというと、そうではない。
みおんの説明は、本件の客観的事実を少しも説明できていないのである。
「みおんさんはTASUKUさんを殺していないんですね?」
「はい」
「そして、みおんさんは動画のアップもしていないんですね?」
「はい」
「じゃあ、あの動画は誰が撮影したものなんですか?」
「それは私です」
「え?」
「言葉足らずですみません。ジェイソンがチェーンソーを持って現れるまでのシーンは、すべて私と佐とで撮影したものなんです。ただ、ジェイソンがチェーンソーを持って突然現れて、佐に切りかかるシーンは、私は知りません。私はそんなシーンは撮影していません」
そんな都合の良い話があるだろうか。
まるで、「私は留守の家に侵入し、タンスの引き出しを開けましたが、引き出しの中の現金は盗んでいません」と言っているようなものではないか。
「ワープですね!」
嬉々としてそう言ったのは、なゆちだった。
「ワープ……ですか?」
「はい。あの動画のジェイソンはワープをしてるんです。TASUKUさんは完全に逃げ切ったはずなのに、ジェイソンがワープをしてきて、突然TASUKUさんの前に現れるんです。チェーンソーを持ってね。今、みおんさんが言っていたのは、このシーンのことですよね? ワープする前のシーンは、みおんさんと撮ったものだけど、ワープ後のシーンには身に覚えがないということですよね?」
「ああ、そういう意味ですか。だとすればそうです。そのとおりです」
なゆちの指摘で、湊人は気付かされた。
そうだ。この動画には、ワープシーンがあるのだ。
ワープ前とワープ後では時間が断絶しているのだ。
湊人は、今まで、その間隔はせいぜい数分程度かと思っていたが、実際には1〜2日程度の間隔があり、前後の動画は全く別の動画なのだとすれば,みおんの言ってることもそう突飛ではない。
動画の内容を思い出してみると、たしかにワープの前後で、ジェイソンがチェーンソーを持っているかどうかという点も違っているし、ワープ後には、今まで聞こえていなかったザーッというテレビの砂嵐音のようなものが入っていた。
実はワープの前後で完全に違う動画なのだ、という説明は、あの動画であれば十分に成り立ちうる。
そして、みおんの言うとおりなのだとすれば、ワープの前のジェイソンの正体はみおんであるが、ワープ後のチェーンソーを持ったジェイソンの正体はみおんではないということになる。
「なるほど。すると、真犯人は、ワープ後の殺害シーンだけを撮影し、元々みおんさんとTASUKUさんが撮っていた動画に付け足した上でネット上に投稿したというわけですね」
「おそらくそういうことだと思います」
「ありえない話ではないと思います。ただ、真犯人はどのようにして、元々みおんさんとTASUKUさんが撮っていた動画を手に入れ、かつ、『TASUKU』のアカウントにログインすることができたんですか? そんなことができる人物、TASUKUさんとみおんさんの他にいるんですか?」
みおんはしばらく黙りこくった後、ゆっくりと首を横に振った。
「正直、思い当たりません」
「でも、みおんさんは、その誰かにハメられたと思っているわけですよね? 故意に犯人に仕立て上げられたと」
「はい。そうです」
「すると、その誰かというのは、TASUKUさんとみおんさんに対して、相当強い恨みを持っている人物だと思うのですが、そういう人物にも心当たりはないんですか?」
「……恥ずかしながら、そのような心当たりも全然ないんです。私、知らないうちに誰かを傷つけているんですかね?」
みおんは困り果てた顔をしたが、困ってしまったのは湊人も同じである。
みおんをハメようとしている真犯人がいるという説は、なぜ犯人はわざわざ殺害シーンの動画をアップしたのか、という疑問には一定の答えを与えている。
犯人は、みおんを「犯人」に仕立て上げるために、みおんが撮ったジェイソンの動画を利用したのである。
しかし、このみおんの仮説も、実際に動画をアップすることができる環境にいて、かつ、みおんに恨みを持っている人物がいなければ、ただの絵に描いた餅に過ぎない。
果たして、「私は佐を殺していない」というみおんの言葉を信じてよいのかどうか、湊人にはサッパリ分からなかった。
「みおんさん、みおんさんがTASUKUさんを殺していないのであれば、その旨警察に話そうとは考えなかったのですか?」
「そうかもしれないんですけど、警察の方に私の話を信じてもらえるか自信がなくて。実際、TASUKUとジェイソン邸で動画を撮っていたことは事実ですし」
「とはいえ、わざわざ、TASUKUさんの家から、みおんさんがいた痕跡をすべて消す必要はなかったんじゃないですか? 逆に怪しまれる可能性もあると思うのですが」
「……痕跡をすべて消す? 何の話ですか?」
予想だにしなかったみおんの返答に、湊人は困惑した。
「……え? みおんさん、TASUKUさんの家から出て行くとき、歯ブラシとか私物はすべて回収していきましたよね?」
「いいえ。というか、私、そもそも佐の家に行ったことないんですけど」
「……は?」
「2年以上付き合ってましたけど、佐は私をなかなか家に呼びたがらなくて。まあ、私も佐もアウトドア派なので、お家でまったりデートとかはそもそも御免なんですけどね。イチャイチャはホテルでやった方がドキドキしますし。佐から、住んでいる地域がどの辺りかということは大体聞いてましたけど、佐の家の建物を見たのは、ニュースが初めてでした」
頭の整理ができなかった。
みおんがTASUKUの家に行ったことすらないのだとすれば、三木が話していた「女性」とは一体誰なのか。
三木の話を聞く限り、それの「女性」の特徴はみおんと丸っきり一致していたが、それはみおんではないのだろうか。
まさか、本当に幽霊だとでもいうのか。




