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子育ては森の中⑦

少しだけ時間が進みます。

本日木登りの回。

「あ……と、しゅこしぃ〜〜〜」

精一杯手を伸ばして、僅かな突起に引っ掛けていた足の裏に小さな風の渦を生み出す。


イメージはジェット噴射。だけど強すぎたら明後日の方向に飛んでいってしまうし、弱すぎたらそもそも体を浮き上がらせることができない。むしろ足を滑らす原因になる。

これまで何度痛い目にあってきたことか。


過不足なく丁度良い塩梅。

その調整のための繊細な魔力操作が、このミッションの鍵だ。


(大丈夫!ここまで来たんだから。焦るな!行ける!)

心の中で自分を鼓舞し、少しずつ。

きっと見守ってるアサギ達にとっては亀どころかカタツムリ並みのスピードだろうけど。




どうも、皆さん、こんにちは。

ただ今、母さんの課題の木登りに果敢に挑戦中のナナです!


現在、8合目って所かな?

いい感じに張った枝に座ってひと休み。

腰にくくりつけていた水筒の水が美味い!


既に登り始めて1時間近く経ってるからね〜〜。

酷使された指先は痺れてるし、手足どころか全身の筋肉がダルい。


母さんに夜中の散歩に連れ出してもらってから、4ヶ月が過ぎた。

あの日見た光景を胸に、対策を練り、少ない魔力をいかに効率的に使用するか兄弟と共に研究して、特訓して。

ようやくここまで来たんだ。


グルリと見渡せば既に建物の7〜8階ぐらいの高さはありそう。

前ほどではないけれど、此処からでもだいぶ森の様子は見える、かな?


上を見上げれば、今までからすれば格段に密集して生える枝の数にニンマリと笑みが溢れる。

これだけの足場があれば、しがみつくようにジリジリと登ってきた此処までと違って格段にスピードアップ出来るはず。


「しゃーて、後しゅこし!頑張りましゅか!」

グッと手足を伸ばして筋肉をほぐすと、再び上を目指してスタートした。


そして………。


「つゅいた〜〜!!」

母さんが連れてきてくれた枝よりも、さらに上。

本当に天辺の細い枝に捕まって辺りを見渡す。

結構風が強い。


(ここら辺に証が……)


課題クリアの証明に、宝石みたいな赤い石を置いておくからと、前に見せられていた。

透明度の高い赤い石は、まるでルビーのような煌めきを放っていたから、すぐに見つかると思ってたんだけど………。


「あ、あった」

細い枝にまるで埋め込むようにピッタリと張り付いている石、発見。

取れるかなぁ〜〜?


かしかしと引っ掻くものの剥がれない。

前はどんなだったっけ?と考えて、ようやく思い出す。


「そっか、魔力を流すんだったっけ」

どうやって判別しているのかは不明だけど、この石はただ窪みにはめ込んであるんじゃなく母さんの魔力で固定されてるんだった。

まぁ、じゃないと風が強い日なんかは枝が振られて落ちちゃうよね。


そこに私の魔力を流すことで取れるようになってるんだ。

ちなみに、私以外の魔力には反応しない安心設定。

盗難及び不正防止、ですね。

分かります。


そっと指先から魔石に魔力を流し込めば、一瞬、石が光ってから、ポロリと落ちた。

慌てて受け止める。


「おお、綺麗」

親指ほどある赤い魔石を、なんとなく光にかざしてみる。

透明感のある赤い石は、キラキラと綺麗な赤い光を撒き散らした。

それに見惚れて気が抜けた一瞬の油断。


突如吹き抜けた突風に、小さな体は簡単にバランスを崩して………。


「ひぃやぁぁぁ〜〜〜!!」

落ちた。


天辺の方の枝は細く柔らかい為、大して痛くない。

けど、コレ少し下の枝だと怪我するんじゃ‥…てか、そもそもこのまま落ちたら死んじゃうじゃん!


脳裏に浮かぶのはこの世界に来た時のこと。


あの時は湖の中だったから、溺死の危険はあったけど怪我はなかった。

でも今回は落ちたらしっかり地面な上なわけで………。


パニックになりかけた頭で、とっさに残った魔力の全てをかけて風を起こす。

体を浮かせるほどの風はもう、起こせないけど、一点集中なら体の方向を変えるくらいは出来るはず。


さっき木を登ってきた要領で、足の裏からジェット噴射出すつもりで。

思い出せ!嫌になる程練習してきたんだから、体が覚えてるでしょ!私!!


木に垂直に当たった風は、思惑通り私を木の枝の密集している場所から、空へと体を押し出してくれた。


そうして魔力を使い果たした私は、後は虚空を落ちるのみ。

なんだけど。

大丈夫。1人じゃないから。


「た〜しゅ〜け〜て〜〜〜」

叫ぶ私の体が不意に下から巻き起こった上昇気流に押し上げられた。

あまりにも勢いが良すぎて、スピードが落ちるどころかさらに上に体が持ち上げられてますがな……。


「ガウゥッ!!」

目を回した一瞬後、横から飛びついてきた何かにワンピースの背中あたりを咥えられた。

そのまま、ジェットコースター並みの急下降で地面へと一直線。


地面につく、と思った瞬間、今度は軽くポンと上に放り投げられ……。

ボフン、とふわふわの毛並みの上に着地した。

肌に馴染んだこの感触は………。


「ありあと〜〜。アカニェ、シォーン」

2匹が地面に伏せるようにしてクッションになってくれてた。

ご丁寧に柔らかな腹側を上に向けて。


その横に上手に着地したらしいアサギが、心配そうに駆け寄ると鼻先で私を突き回してきた。

さらに、転がっていた2匹も、起き上がると私を舐めたり小突いたりしてくる。


どうも、怪我がないかの確認と油断して落ちたことに対するお小言が同時進行してるっぽい。

心配してくれるのは分かるんだけど、自分よりでかい獣に突き回されたらまともに座ってることもできず、あっちにぐらりこっちにぐらりと目が回りそう。


「グルル〜」

その時、お母さんの低い声がして、私を取り囲む三匹の壁がサッと無くなった。

まだ落ちたショックとその後のやり取りでクラクラする視界の中、ゆっくりとした足取りで歩み寄ってくる母さんが見えた。


じっと私を見つめる瞳は少し細められていて、怒っているような心配しているような複雑な色をしていた。


「しゃいごしっぱいしちゃの〜〜」

私の前に座り、ジッとこちらを見下ろす視線に少しションボリしながら、それでも頑張って目を逸らさないようにする。


「でも、いちは取れちゃの」

そして、母さんに見せるようにぎゅっと握りしめた手を開いて差し出した。

我ながら小さなぷくぷくの手の上に、赤い石が1つ。


「……らめ?」

落ちながらも決して手放さなかった証の石は、私の体温を吸って少し艶っとして見えた。


ジッとしばらく石を見つめたあと、私に視線を移し、さらに背後にきちんと座って整列している3匹に視線を移す。

見なくても、みんなが期待するような目を母さんに向けているのが分かる。


だよね。

湖の先にはまだ見ぬ場所があって、そこにはそれぞれお気に入りの場所があって、私を早く連れて行きたいとうずうずしてたもんね。

私も、楽しみにしてた。


「かあしゃん、おにぇがい」

両手を胸の前で組んで母さんを見あげる。

あざといって?

幼女の可愛さなんて今だけなんだから、使えるものは使います!


四対の目に見つめられ、母さんが大きくため息をついた。

そうして、しょうがないと言うように小さく首を横に振ったあと、見あげる私の頬をペロリとなめる。


「グルルル」

そうして優しい声で鳴くと、そっと鼻先で私を兄弟の方に押した。

「ワウっ!」

「ギャワワッ!!」

「キャウ!ワフッ!」

途端に嬉しそうに兄弟達がはしゃいだ声を上げで、その場で飛び回り出す。


どうやら合格、みたい?

母さんの様子を見るにギリギリ及第点。

1人じゃダメだけど、兄弟達のフォローがあるなら、まぁ良いでしょう、てところかな?


ジワジワと喜びが湧き上がる。

ギリギリでも、合格は合格だ!


「ありあと〜〜!!かあしゃん!!」

私も歓声を上げて母さんに飛びついた。


読んでくださり、ありがとうございました。


気の高さは30メートルの10階建てくらいなイメージで。そこから紐なしバンジーと思うとヒュンってなりますよね。

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