子育ては森の中⑤
皆さんこんにちは。
ただ今、アサギを1日遅れのブラッシング中のナナです。
なんか、朝、目が覚めたら、昨日は怒られてるアサギをニヤニヤしながら見てたはずのシオンとアカネが、やたら取りなしてきてね?
華麗な手のひら返しによくよく話を聞いてみれば、どうやら居なかったのはお勉強の為で、本当ならアサギは約束の時間までに帰って来るつもりだったんだって。
だけど出された課題が上手にできなくて帰れなかったみたい。
そういえば、最近、チョコチョコみんな居なくなってたな〜。
全員がいなくなる事はほとんど無かったから、あまり気にして無かったけど。
お勉強じゃ、しょうがない。
苦手な事もあるよね?居残りさせられてたんだね〜。
と、納得したんだけど、なんかアサギがちょっと悔しそうな顔してた。
出来ないのを知られたくなかったんだろうな〜。
アサギ負けず嫌いだもんねえ。
不満そうにグウグウ唸ってたからなでなでしたら、複雑な顔してからベロベロ顔中舐めまわされて大変だった。
で、今日は代わりにシオン達がお出かけして、アサギが一緒に居るみたい。
なので、2人で水浴び&ブラッシングの仕切り直ししてるんだ。
「でもしゃ、みんないりょいりょ頑張ってるんだね〜。私も、もうチョットいりょいりょ出来たりゃいいんだけじょ……」
首元の毛を梳きながらつぶやいたら、ゴロンと横になってうとうとしてたアサギがちろりと薄目を開けてこっちを見た。
「じぶんにゃりにできる様になったつもりだけじょ、まだまだでしょ?みじゅうみの木の上までだってまだにょぼれないし」
すぐ近くにズドーンとそびえる一際大きな木。
湖のすぐそばに立っているおかげで日の光をたっぷり浴びれたからか、他の木に比べて一回りほど大きいのだ。
その高さ推定30メートル。
下枝がほとんどない上に凹凸も少ない為足場がなく、風魔法でかなり補助をしないと天辺まで辿り着けないのだ。
けれど、この木を自力で登れなければ、母さんは自分の側からこれ以上離れる許可をくれない。
どうやら、行動範囲を広げる目安になってるみたいで、巣のそばにある木(横枝多し、巻きつくツタあり)を登れたら、湖までは1人もしくは兄弟だけでくることを許してもらえる様になった。
で、次はコレ、と母さんの示したのが湖のそばの大木だったんだ。
何度か、母さんが連れて行ってくれたから分かったけど、巣を中心に半径20キロくらいが安全地帯みたいなんだよね。ナワバリ、っていうのかな?
その範囲だったら、特別危険な生き物はいないけど、その先はダメ。
母さんに押さえつけられ噛みつかれる真似をされたから、そういう事なんだと思う。
危険な生き物がいるよ、って。
鼻にシワを寄せて唸って見せる母さんの顔はかなり怖かった。
でも、安全なはずのナワバリ内でも私はあまりにも弱過ぎて、1人で行動できる範囲はココまでってされてるのが巣と湖の間のみ。大体300メートルくらい?
そこなら母さんも兄弟も頻繁に行き来してるから、弱い小動物すらほぼ入り込まない。
実際、見た事ないし。
蝶々とかの小さな虫やずっと上の方に小鳥が居るくらい。
多分ココは母さんが安心して子育て出来るための特別な場所なんだと思う。
そう考えたら、突然湖に落ちてきた私はよく助けてもらえたなぁ、って思う。
昔、子育て中の猫に引っ掻かれて威嚇された経験からしても、少なからず気が立ってたはずだし。
て、脅威にすらならなかったのか?
攻撃力虫以下?
まあ、否定できないけど。
ちなみに、兄弟達はナワバリ内なら自由に行動出来るし、限定的だけどその先にも行ってるっぽい。
言ってもしょうがないと分かってるけど、あえて言いたくなるよね。
この差はなんだ?!
まぁ、種族差なんだろうけども。
でも、それ言ったら、魔法使える様になったんだから、純粋な人間ってわけでもないんじゃないかと?
あ、でも、この世界の『人間』は魔法使えたりするのかな?
う〜〜ん?謎は深まるばかりだね!
確かめようもないけど、この世界に私以外に人型生物はいるんだろうか?
この森はどこまで続いてるの?
「ガウガウ!」
上の空でブラッシングしてたのがバレたみたいで、アサギが不満そうに声をあげた。
「あ〜〜、ごめんにゃしゃい」
誤魔化す様にヘラリと笑えば、ムクリと体を起こしたアサギにペロリと頬を舐められた。
突然のそれに頭が揺れる。
優に倍以上ある体格差は、相手にその気がなくとも押されてしまう。
「アシャギ?」
体勢を立て直す間も無く、さらにアサギのナメナメが続く。
頬から始まりコメカミや耳、髪の毛まで。
くすぐったくて笑えば、座っていた体勢からコロリと転がされ首筋や肩の方へと下がっていく。
どうやら考え込む私に何か落ち込んでるとでも思ったのか、本格的にグルーミングしてくれようとしてるらしい。
少しざらざらした大きな舌が優しく丁寧に舐めていく。
ついには唯一身につけているタンクトップを器用に鼻先で押し上げて脇腹や背中まで舐め出した。
あ、裸じゃないんだよ。
落ちた時着てた服は、暴れてる時に下は全部脱げてて湖に沈んだけど上は無事だったから、現在その中のタンクトップをワンピースがわりに1枚着てるの。
いくら幼児といえどもスッポンポンはチョットね。
最初はビックリしたグルーミングも、今では愛情を伝える手段だと知っているから、恥ずかしくも驚きもしないし、むしろ心地いい気もする。
けど、これ、結構くすぐったい。
毛皮装備の皆なら丁度いいのかもしれないけど、こっちは剥き出しだから。
しかも、いつもならムズムズするのと心地よいの狭間くらいの力加減で舐めてくれるのに、今日はどうやらおふざけも入っているらしく、わざと擽るみたいな力加減なんである。
「チョ!やめ!アシャ!!」
どうにか逃げようと暴れるも、上手に前足で押さえ込まれて逃げられず。
「ギブ!ギブゥ〜〜!!もうムリィ〜〜!!!」
結果、笑いすぎで息切れしてグッタリするまで舐め転がされた。
「グルグルグルグル」
ご機嫌に喉を鳴らす様な音を立てながら、グッタリした私を抱き込んだアサギが、今度は絶妙な力加減で顔を舐めている。
………ご機嫌だね。
私は笑い過ぎて疲れたよ。
おかげでさっきまで考えてたことまで吹っ飛んでったけど。
笑い過ぎて疲れた体に、アサギの優しい気持ちが染み込んでくる。
その温もりに、ゆっくりとまぶたが下がってきてしまう。
体に響く様な優しいリズムと温もりに、私が意識を手放したのは直ぐだった。
読んでくださり、ありがとうございました。
アサギ君、やりたい放題(笑