子育ては森の中15
はい、みなさんこんにちわ。
よく考えもせず、聖獣様と契約なんぞをかましてしまったナナさんが通りますよ。
なんか前もやったな、このくだり。
まぁ、いいや。
あの後、とりあえず、巣に戻ったら呆れ顔の母さんに迎えらたよ。
一応、私と契約をしたい旨は宣言済みだったそうだけど、もう少し後の話だと思ってたみたい。
なぜなら、契約すると聖獣の寿命に引っ張られて、契約者も寿命が伸びるから。
この寿命が伸びる、ってのがくせもので、正確には契約者の時間の流れがゆっくりになって、老化が遅くなるってかんじみたい……。
さて、私ナナさん。
ただいま推定4歳児。
つまり、現在老化というか成長期。
それがね、ゆっくりになるんです。
ただでさえ銀狼族に比べて遅い成長がさらにゆっくりに。
具体的にいうと、1年で成長する分が3年くらいかかるという…………。
「うそぉ〜〜ん!!」
ええ、叫びましたとも。
可愛い4歳児。
可愛い期間が伸びてよかったね〜〜、なんて、当事者が言えるもんか!
この原生林の世界、体小さいだけでかなりハンデ背負うことになるというのに。
『大丈夫。ナナ、可愛いから。魔力増えてるから、その分動きも良くなってるはずだから』
『そうそう。多少障害物あっても、飛び越えればいいだけだから』
『体小さい方が油断誘えるし、やり方次第よ〜』
兄妹みなさまが口々に慰めてくるけど、どうしたものか。
いや、やっちまった以上、どつにもならないんだけど。
いいの。
時に人は諦めも肝心。
ちょっと体が小さくて、ちょっと舌が回らないからおしゃべりが大変、な、くらい気にしないもん。
………きにしないもん。
開き直って、有り余る兄妹3人の魔力を流用した結果、3人のアクロバットショーに、参加できるようになったよ。
空中戦でドンパチ、マジで楽しい。
多少弾かれても、常時展開してる結界で怪我知らず。
いや、結界ごと弾かれて飛んでったりもするけど。
多少のダメージはあれども、怪我は皆無!
すばらしい。
3人が諸々の教えを請うてる森の長老にも会えたよ。
ドライアドのおじいちゃんだった。
この世界で生きていくための、知恵や技術を教わって……って、(戦闘の)知恵や(戦闘の)技術ばっかりだったよ。
お爺ちゃん、脳筋だったよ。
植物なのに戦闘狂だったよ………。
え?ドライアドって植物の括りだよね?だよね??
兄弟達は遠い目をし、花の妖精女王様には頭なでなでされた。
結果、一般常識はこれまで通り女王様に教えてもらう事になったよ。
良かったよかった……‥のか?
そうして、なんとなく今後のルーチンが決まった頃……。
「お母さん、行っちゃうの?」
首元のモフモフを握りしめ、半ベソです。
『ずいぶんと契約者の元を離れてしまったから。そろそろキナ臭くて、ね』
ペロリと慰めるように頬を舐めてはくれるけど、お母さんは望む言葉は言ってくれない。
アサギと契約してお話が出来るようになると、なんとお母さんともお話できるようになったの。
正確には、お母さん、念話使えたけど、あえてお話してなかったんだって。
お母さんくらい年月を重ねたら、念話使えるようになるんだって。ザッと100年近くかかるらしいけど。
お母さん、今何歳なの?
そして、なんとお母さん、契約してる人がいたらしい。
ただ、子供育てるには人の世界では落ち着かないから、この森に帰ってきてたんだって。
どうもこの森は、というか、この場所は聖獣の子育てする聖域だったそう。さらに言えば、その子育てエリアの銀狼族のナワバリに当たる場所だった。
危険な生物は入ってこれないんだって。
道理で、戦闘力ほぼほぼ皆無の私がポテポテ歩き回れたはずだ。
『本当はもう少し前に、戻る予定だったのよ?』
困ったように首を傾げるお母さん。
なんと、衝撃発言。
お母さんは、子供達をこの森に残して、契約者のいる国へと旅立ってしまうというのだ。
銀狼族は、長くても1年くらいで親元を離れて自分達で生きていくらしい。
この安全なナワバリをベースに少しずつ動き回れるエリアを増やして、最終的にこの広大な森のどこかに自分自身の縄張りを作っていく。
もしくは、森を出てさらにその先の広い世界へと旅立つのだ。
1年足らずで親離れとか、野生の掟、厳しくない?
安全なナワバリがあるだけ優しいの?
で、半年過ぎてそろそろ乳離れ〜って時に、私を拾っちゃって。
あんまりにも弱っちかったもんだから、放っておけずに予定変更して、(銀狼族にしては)長々と子育てしてくれてたそう。
うん。まあ、最初は半径5メートルで生活してたしね。
ただの木の根が乗り越えられずに落っこちては、お母さんにナイスキャッチされてたもんね。
せっかく助けたのに、目を離したら死にそうってなったら、それは放っておけないよね……。
だけど、今回フライング気味にアサギが契約しちゃった恩恵で、どうにかこの森でも生きていけそうな目処がだったから………。
「うぇぇぇ〜〜ん」
お母さんは、丁寧に説明してくれたと思う。
銀狼族の生き方、ひいてはこの世界で生きていくには、当然の行為で、別に嫌いになって離れてしまうわけではないんだ。
理性ではちゃんとわかるのに。
なんでだろう。
お母さんがいなくなってしまうと思うと、どうしても涙が出てきてしまう。
この世界に落ちてきてから、いつでも優しく守って、包み込んでくれたこのモフモフな毛皮がなくなってしまう。
込み上げてくる不安と寂しさがどうしても、握りしめた手から力を抜いてくれないのだ。
『ナナ………』
お母さんとしても、まさかこんなに私が泣くとは思っていなかったのだろう。
だって、同じように話された兄弟達は、泣きじゃくる私を不思議そうに見てるから。
お母さんを困らせてる。
そう感じることで、私の頭の中はますますゴチャゴチャになってしまう。
離さなきゃ。
嫌だ。この手を離したら、お母さん行っちゃうの。
それは仕方ないことなんだよ。
でも嫌!イヤイヤ!!
理性と感情がせめぎ合う。
どうして良いか分からなくて、ただ、しがみついて離れない私とお母さんの間に、アサギが鼻先を押し込んできた。
なんかビックリして力が抜けた一瞬に、さらに体を押し込んでくる。
すると、後ろから優しく襟首を咥えられてさらにお母さんから引き離された。
「あぁ」
反射的にお母さんの方へ手を伸ばすけど、それを遮るように、ベロリと顔を舐められた。
「ちょっ、あさっ、やめっっ」
そのまま、息をするのも困難なくらい、ベロベロと舐められる。
どうにか押し退けて息をしようとするも、今度は、後ろから押し倒され、シオンやアカネにもベロベロと舐められた。
「ちょっ……、しゃんにんともっ………、やめ………」
横になったアサギのお腹に受け止められた状態で、3人がかりで舐められ、鼻先で突かれ、転がされ。
抵抗にも疲れて、グッタリとしたら、ようやく舐めるのをやめてくれた。
『本当に仲良い事』
その様子を眺めいてたらしいお母さんが、楽しそうにクスクス笑う。
『ナナ。異界から落ちて来た私の愛おしい子』
そうして、ゆっくりとした動作で立ち上がると、お母さんはグッタリとアサギの腹にもたれかかる私の頬を優しく舐めた。
『ナナを拾って本当に良かった。お前のおかげで子供達も皆仲良く、優しい子に育った。私もとても楽しかったわ』
愛おしい、と。
聞いただけでそう分かるほど、優しいお母さんの声。
その声に、胸がいっぱいになる。
愛してもらった。
慈しんでもらった。
姿が違う、種族も違う。
なにより、生き物としての在り方すらも違うはずなのに。
実の子同様に。もしかしたら、それ以上に。
だったら。
寂しくても、悲しくても。
私は、この手を離さなきゃいけないんだ。
だって、こんなにも満たしてもらったのだから。
「………かーしゃん。だいしゅき……」
それでも、涙が出るのは、しょうがない。
だって、本当に本当に大好きなのだ。
『別にもう一生会えないわけでもあるまいし。そんなに泣かなくてもいいだろ」
なぜか、少し不貞腐れたような声でアサギが言った。
それに、目をパチパチと瞬く。
「会える、の?」
キョトンとした私に、お母さんがクスリと笑った。
『そうね。ナナが私に会いたいと思うなら、尋ねてくればいいわ』
「行く!お母さんに、会いに行く!!」
本当は連れて行って欲しいけど。
あんなに泣いても、誰もそう言わなかったっていうことは、連れて行けない訳があるんだろう。
だけど、自分で会いに行くのは許されるというのなら。
『そう。じゃあ、待ってるわ、ナナ』
ペロリと最後に頬を舐めて、お母さんは風に乗って飛び上がる。
『私は“チャムグル”という国にいるわ』
そうして、後は後ろを振り返ることなく、お母さんは空を駆けていく。
すぐに小さくなって見えなくなった白銀の後ろ姿を私は一生懸命手を振って見送った。
「またね〜〜!かあしゃん!!」
お母さんのいる国に行く前に、強敵の溢れる広大な森を抜けていかなければならないという事の大変さを、その時の私はまだ知らなかった。
読んでくださり、ありがとうございました。
子育て章、終了です。
お母さんは行ってしまいました。
ナナちゃん、元の世界ではもらえなかった“親の愛”をしっかりと注いでもらって成長しました(^ ^)
次回からは森の攻略が始まります( ´∀`)




