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異世界に落っこちたら小さくなってて、森の中でモフモフさんに育てられてます。  作者: 夜凪
子育ては森の中

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13/16

子育ては森の中12〜兄弟編〜

誤字報告をいただいて、直しついでに序列な眷属化について書き足しをしております(初投稿7時→書き足し9時半)


「ズルい!ズルい!ズルい〜〜!!」

転げ周り叫び、全身で不満を訴えるアサギをシオンとアカネは呆れた様に眺めた。


「そんな事言ったって、僕達じゃまだ力弱すぎて念話すら使えないんだからしょうがないじゃん」

「そうよう。女王様に言葉伝えてもらえるだけでもラッキーじゃない」





3匹は生まれてまだ2年程しかたっていない為、聖獣といっても大した力は使えないのだ。

3匹でかかれば勝てるけれど、一対一ではこの森の深淵に住む魔獣達に勝つのはまだ怪しい。というか、おそらく負ける。

その程度の力しかない。

それが現実だった。


故に、最愛の末っ子の言葉は理解しても、こちらの言葉を伝える術を持っていなかった。

たとえ共に育っても銀狼と人間。

種族間の壁は高く険しい。


なんてかっこよく言葉を綴ってみても、結局は「お話ししたい」「でも出来ない」のそれに尽きる。

なんとなくニュアンスでは伝わる。だけど、それだけでは焦ったい。

何しろこっちはナナの言葉をしっかり理解しているのだ。焦ったさも二倍、という感じ。


森の爺さんに聞いたところ、魔法で人間と意思疎通する術はあるらしい。

ところが、念話(それ)を使うには結構な熟練度がいるそうで、今の3匹のレベルでは歯が立たない。1番繊細な魔力操作が得意なアカネにしても、後数年はかかるであろうと断言されてしまったのだ。


そこで、アカネは通訳してくれそうな存在を探した。

母さんはダメ。

確実に念話が使えるはずなのに、使う様子が皆無なことから、何か考えがあってあえて話してないと思われる。

森の爺さんは………確実に面白がって話を捻じ曲げて伝える危険が高すぎて除外。

結果、消去法で花の妖精女王様に白羽の矢がたったのだ。


可愛いものが大好きで優しい彼女なら、きっと力になってくれる筈と相談を持ちかけ、快く引き受けてもらえた。


そうして、ようやく課題をクリアしたナナを連れて行き、晴れて意思疎通(つうやく)出来るようになったのである。




ところが。

そこで満足できなかったのが長男アサギだった。


満足しないどころか、自由にナナと話が出来て、あまつさえ、自分では与えることのできない人間の物(・・・・)を差し出し、ナナを感動させる女王様にメラメラと嫉妬の炎を燃やしたのだ。


そのキラキラの目を向けられるのは自分だけで充分だ!と。


どうすれば、ナナと自由に話ができるようになるのだろう。


念話はダメだ。

後数年なんて待ってられない。


人間の寿命は自分たちの何分の1しかないのだと、アサギは知っていたのだ。

ただでさえ短い時間を、手をこまねいているなんて勿体無い。


そもそも、通訳してもらう状況に納得できない。

ナナは自分たちの兄弟で家族なのに。なんで家族の会話に他人が入り込まれなければならないのか。


銀狼は一族の絆が強い生き物だった。


アサギは考える。

今まで習った事。

本能で知っている事。

今までで1番考えて考えて、ふと思いついた。


そうだ《契約》だ。


銀狼が生涯でただ1人だけと定めた相手と結ぶ《契約》。


銀狼の聖獣としての本能とも言える部分に刻み込まれたその概要を思い浮かべ、アサギはニンマリと笑みを浮かべた。


ナナは自分の大切な妹だ。

他の変えなど無い大切な存在だ。

だったら《契約》の相手に選んだって問題ない筈だ。


もう一度、自分の心に、本能に問いかける。


(あり)か、(なし)か。


「決めた。オレはナナを選ぶ(・・)!」


突然動きを止め、うんうんと珍しく何かを考え込んでいたアサギを不気味なものを見るように遠巻きに眺めていたシオンとアカネは、突然すくっと立ち上がって吠えた(さけんだ)アサギにビクリと後ずさった。


「え?何?選ぶって?」

目を白黒させるアカネの横で、シオンが表情をゆがめた。


「それって、まさか《契約》の事、言ってないよね?」


3匹の中で、シオンは1番賢かった。

魔力の量や操作では他の2人に負けるけれど、“思考する”という点で、シオンは群を抜いていたのだ。


当然、アサギのたどり着いた結論など、遠の昔に思いついてはいたのだ。

だけど、《契約(・・)》は諸刃の剣だ。

少なくとも自分もナナも幼すぎる。

ただ一時の衝動で選ぶべき手段ではないと、シオンはそう本能からの警告を受け取っていた。


「それだよ!《契約》したら言葉だって伝わるようになるしずっと一緒にいれる。ナナの寿命だって通常より伸びるし、いい事だらけだろ?!」


自信満々に言い切るアサギに、シオンは警告をする。

「そんな簡単な物じゃないだろ?!」

珍しく毛を欹て歯を剥き出して唸るシオンに、アサギも反射的に唸った。


「なんでだよ?!じゃあ、シオンはこのままで良いっていうのか?!」

「そうじゃない!早すぎるって言ってるんだ!僕達もナナも………特にナナなんて赤ちゃんみたいなものじゃないか!」


唸りをあげ間合いを測りジリジリと円を描くように動き出した2匹を、アカネは少し下がった場所から見つめていた。

そうして2匹の言っている言葉をじっくりと吟味する。




《契約》




それは、聖獣という存在にとって1番大切なものだ。

己の魂を相手の魂と結びつける事で存在の一部を共有する。

例えば、魔力や寿命などという生命の根底にあるものから、感情の揺らぎや物事の好悪という表面的なものまで。


故に、自己が確立していない幼少期に《契約》する事は、自他の境目が曖昧になる危険があるのだ。


(確かに……会話がしたいから、なんて動機で軽々と交わすものじゃないわよね……シオンが怒るのもわかるわ)


でも、と。


アカネはついに取っ組み合いに発展した2匹へと、あらためて視線を向ける。


(母さんが言ってた。アサギは最近の銀狼の中でも先祖返りしたかのように強い力を持ってるって。そのアサギの本能が(あり)としたなら、それは必然なのではないかしら?)


結構本気に争っている2匹が、本当の殺し合いへと発展させる前に、アカネは決断する。

これまで、正反対なようで似たものな2匹が、争う度にしてきたように。

本当に2匹が反目して、大切な可愛い末っ子が泣かない為に。


アカネは風の塊を作り出すと、もつれあう2人へと容赦なく打ち込んだ。

予想以上に力を込めすぎてしまったらしく、止めるというより2匹ともに吹き飛ばしてしまったのは、まぁ、ご愛嬌だ。

予想外からの攻撃に受け身を取る暇もなく吹き飛ばされてしまった2人は喧嘩をやめたから、結果オーライって事で。


2人で争っていたよりもよっぽどの大ダメージを受けた2人は、起き上がることもできず地に伏せたまま、唖然としてアカネに視線を投げた。

そんな2人に、アカネは胸を張って高らかに宣言した。


「決めた!私はアサギの下に付くわ。眷属化(そう)すれば、アサギの《契約》の恩恵で私もナナと意思疎通もできるようになるでしょ?」


「「アカネ!?」」

妹の発言に、相反する感情のこもった声が、同時に名前を呼んだ。

それに向かって、アカネはにっこりと笑ってみせる。


「言っとくけど条件付きの眷属化だからね、アサギ。あんたが私の考えからあまりにも離れたような動きをするようなら、刺し違えてでも離反するから」

喜色を浮かべていたアサギは、向けられた視線の強さにウグッと息を呑んだ。


「会話だけの問題じゃない。アサギが契約する事でナナを守りやすくなるのは確かよ。

ある程度離れていても何をしているのか分かるし、“跳んで”行けるようになるメリットは大きいもの」

不満そうな顔のシオンは、その言葉を吟味するように考え込む。

《契約》を交わしたモノは、引かれ合う(・・・・・)ようになる。

その性質を利用して、漠然とだが互いの状況を把握できたり、側へと転移出来るようになるのだ。


「なにより、まだ魂の形が確定していない今なら《契約》しても仮の形を取ることができた筈よ。そこは爺様か母さんに確認しよ?」

「………わかった。2人の言葉いかんでは、オレもアサギの下につく。どうせ遅かれ早かれ序列を決めなくちゃいけなかったんだから」

小首を傾げるアカネに、シオンが不承不承頷いた。





本来の銀狼一族の生態を考えれば、兄弟間の序列をつけるのは当然で、むしろ遅すぎたくらいだ。

幼いナナを囲むことで、有り得ないほどの仲良し兄弟が形成されていたが、過去の歴史の中では、兄弟間でも本気で殺し合ったり、反目して2度と交わることのない時代もあったのだから。


兄弟間で序列を設けた後は、序列一位のモノに従い側にはべるか、独り立ちしてその縄張りを去るかを選ぶ事となる。


側に残る場合は『眷属』となり、上位の命令に従う義務が生じる代わりに、庇護を受ける事ができる。

その庇護の一部に、互いの能力の共有や底上げがあるのだ。


群を一つの大きな個と考える、銀狼一族独特の恩恵とも言える。

いわゆる1人は皆んなの為に、皆んなは1人のた為に、と言うやつで、群れを構成する人数が多いほど、その総合力は高くなっていくのだ。


最も、聖獣の繁殖率はあまり高くない為絶対数が少ない上に、個々の能力が高く独りで生き延びることも容易な為、同族で群れを形成することの方が珍しい。


能力の高さ=プライドの高さにつながり、他の下に付く眷属になるよりは、自身の群れを形成しようとする為だ。

聖獣といえど、生物である以上、自己の遺伝子を多く後世に残そうとする本能的行動とも言える。


しかし、“ナナ”と言うイレギュラーのお陰で個の主張よりも庇護欲が強く育ってしまった3匹は、そんな一般的な流れから、見事にそっぽを向く方向へと向かう事となる。


それが良い事なのか悪い事なのかは、まさに神のみぞ知るといったところだが、突撃された母がしばし言葉を失ってしまう程度には、一族的に非常識であった、とだけ、言っておこう。








「じゃぁ、早速確認に行こうぜ!!」

ブルリと体を振って毛羽だった毛並みを整えると、アサギは森の中心に向かって走りだす。


「ちょっと、1人で行くなよ!」

「アサギ、待って!」

慌てて追いかける姿は、どこから見ても仲良し兄弟、だった。







読んでくださり、ありがとうございました。


ナナが、この世界の新情報に夢中になっている裏ではこんな事が起こっておりました。

そして、必要な情報を確認して11の後半部分に戻ります。


さて、上手く《契約》出来るかな?

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