子育ては森の中11
みなさん、こんにちは。
花の妖精女王とお友達になって、この世界のアレコレがだいぶ分かってきたナナです。
アカネに花の妖精女王様と引き合わせてもらってから早ひと月。
アカネ達の時間のある時に花畑まで運んでもらい、せっせと逢瀬を重ねてはこの世界の事をお勉強。
なにせ、あかね達とは“会話”は出来なかったため、日々積み重なってた疑問を解消する術がなかったんだよね。
まぁ、日常を過ごしている間は知らなくても特に困ることのない疑問だったのでスルーしてたんだけど、知る手段があるなら話は別ってもんで。
て、わけで。
少しずつ、教えていただいたのですよ。
この世界にはさまざまな種族がいて、主に神族、人族、魔族、獣人族、妖精族、に分けられているそう。
で、アサギ達は銀狼という一族で神族の括り、いわゆる聖獣だそうな。
つまり神様なの?って思うけど、厳密にはそうではなく、神様の御使い、な感じ。
そもそも、「神族」という括りはあるものの、現在この世界に常在する神は居なくて、ごく稀に出現してはさまざまな奇跡を起こす存在なんだって。
元の世界の神様と似た様な感じ?いや、もう少し距離が近いかな?
信仰している場所に、特別な加護や御信託をしてくれる為、国ごとに信仰している神様がいるみたい。
[国]という形を作っているのは人族、魔族、獣人族でそれぞれに方針があり、純族主義や多種族尊重など、色々あるそう。
うん、聞くだけで面倒そう。
人数的には人族が1番多く、次に獣人、魔族と続き、個別の強さ的にはその逆なんだって。ただし、状況によって変動するみたい。まぁ、得手不得手はあるよね。
国同士の争いも当然の様にあるみたいだけど、割愛。
興味ないしね。
現在、私がいるのは[聖の森]と呼ばれる場所の中心部だそうで。
魔素が濃く、危険な生物もいっぱいいるので、森の縁ならばともかく、人族どころか魔力の強い魔族ですら滅多に入ってくる事はないそう。
でも、そんな危険な生物に遭遇した事ないぞ?と思ったら、森の中心部は聖域として結界が張ってあり、危険な生物は入ってこれないんだって。
その結界を張ってるのが花の妖精女王であり、そこでは流血は禁忌とされ、聖獣の子育ての場所になっているそう。
ちなみに花の妖精女王の対の存在として木の妖精王がいて、アサギたちが訓練してもらってた人(?)なんだって。
聞けば聞くほど、私ってば大変な場所に落ちてきて、大変な存在に育てられてるっていう………。
ちょっと気が遠くなったけど、まぁ、母さんだし、兄弟だし……気にしたら負けって事で。
「しぇーじゅーはかみしゃまのみちゅかい?かあしゃんも?」
てわけで、今も女王様のティータイムという名のお勉強中です。
たとえ、女王様の膝の上だろうと、随時口の中に食物が運ばれていようと、勉強中って言ったら勉強中。
「そうね。銀狼は月の女神の御使とされているわ」
質問には毎回丁寧に答えてくださいますよ?女王様。
ただし、手にはクッキー持ってるけど。
「おちゅきしゃま?」
喋れなくなるので、口に何も入れられない様手でガードしながら、母さんに森を木の上から見せてもらった事を思い出す。
あの日もとても月が綺麗な夜だったっけ。
あれ?そういえば……。
「おちたときもおちゅきしゃまでてた」
明け方だったから、まだうっすらと月が残ってたんだよ。そういえば満月だったような?
「なら、ナナを可哀想に思った月の女神様がこちらに招いてくださったのかもしれないわね」
首を傾げながら記憶を探る私の口にストローが差し込まれる。
おう!油断した!
本日は桃の果実水。うまうま。
「だからかあしゃんひろってくりぇた?」
「さぁ、それは***に聞いてみなければ分からないわね。神託があったのかもしれないし、ただナナが可愛かったからかもしれないし」
柔らかな微笑みとともに髪を撫でられる。
ほっそりとした手の感触は、母さんの毛づくろいを思い出させた。
ちなみに、会話の中で聞き取れない部分は多分個別の名前を表すものなんだと思う。
自分より高位の存在の個別の名前は、本人の許可なく認識できないものなんだって。
後、母さんは現在契約している国があるそうで、母さん本人が許可していたとしても国との兼ね合いでやっぱり聞き取れないものらしい。呼べるのはその国の王様だけなんだって。
「だから、ナナを警戒してるとかではないのよ?」と女王様にフォローいただいた記憶は新しい。
あまりに素早いフォローに誤解して落ち込む暇もなかったよ。
「みんにゃもしぇーじゅー?どこかのくにに、ちゅかえるの?」
「そうね。それぞれが契約してよしと思える存在に会えたら、そうなると思うわ」
「?」
神様の御使なら、神様が指示した場所にいくんじゃないの?
「私も詳しくは知らないけれど、それぞれの裁量に任されているそうよ。特別に神託が降りる場合もあるそうだけど、それは本当に稀ね。ずっと森の中で暮らす子もいるし、森の外を旅して回る子もいる。人の召喚に応じて気に入れば力を貸す子もいる様ね」
「ちからかしゅ、なにする?」
「契約した対象の能力を底上げできたり、国の護りを強化したり。単純に本人の力を戦力として使うみたいね。後、銀狼ならば月の女神の使徒だから、そこに居るだけで豊穣の力で国を富ますことが出来るわね」
思ったよりも聖獣すごかった。
国の豊穣って、かなり大事じゃない?
でもって、個人にしろ国にしろ、自分が気に入った人と勝手に契約できるんだ。
神様の御使ってより、聖獣自身が神様っぽい。
「ぎんろーのほかにもしぇーじゅーいりゅ?」
「ええ、居るわよ。でも、このお話はまた今度ね?お迎えが来たわよ?」
好奇心のままに質問を重ねた私に女王様が含み笑いで後ろを指さした。
と、ふわりと体が浮き上がり引き寄せられた。
ポワンと着地したのは柔らかなモフモフ。
アサギの背中の上だった。
「ガウガウゥ」
「あ、あしゃぎ。おかえりー」
少し不満そうに唸るアサギ。
どうもアサギはあまり花の妖精女王様と仲良くない様で。
お迎えに来るときはいつもちょっと不機嫌だし、行く時も渋ってなかなか送ってくれない困ったちゃんなのである。
「私とばかりお喋りできるのが悔しいのよ。ナナちゃんを取られちゃう気がするするのね」
とは女王様の弁で、あながち間違いではない模様。
ちなみにアカネはもともと仲良しだし、シオンはシラっと通訳してもらってるチャッカリさん。
「アシャギ、おべんきょおわった?ナナ、もう少しおはにゃししちゃい」
すぐに帰ろうとするアサギの首に抱きついてグリグリと顔を擦り付けておねだり。
ここで帰ると次来れるのは早くても4〜5日後なので、それまで待つのは辛い。
そう、銀狼の他の聖獣はどんな?問題。
新たなモフモフの気配がするんだよ。
「グゥッ。ガウガウ」
「まぁ、本気なの?」
と、アサギが女王様に何か宣言?して、女王様がびっくりした様に目を見開いた。
「ガウ!!」
「あきれた。まだ、あなた自身も幼体の様なものなのに、もう決めてしまうなんて。しかも、他の子達も納得したのね?」
何が話されているのか見当もつかないけど、どうやらとんでもない事が起こっている様。
始終ビックリした様子の女王様に、ガウガウ高圧的な態度のアサギ。
と、フワリと体が浮いて、
「あ、シォーン、アカニェ」
いつの間にきたのかすぐ側に2匹が座っていて、その前にフワリと着地する。
「クゥ」
「キュウゥ」
鼻にかかった甘え声に首を傾げた。
なんだか、いつもと少し様子が違う。
なんだか、神妙な感じというか………改まったようなというか………。
「グルル」
と、振り返ったアサギが喉を鳴らす様な柔らかな声で鳴いた。
それは、おねだりがある時に鳴らす声だ。
基本、俺についてこい!なアサギが出す事は滅多にない声音で。
「アシャギ?」
不思議に思って、アサギの頬を両手で挟んで目を覗き込む。
アサギの名前の元になった浅葱色の綺麗な瞳がキラキラと輝いていた。
その輝きに思わず見惚れたその時、不意にフワリと一陣の風が吹き私を……わたしたちを取り巻く。
そうして、柔らかな少し高めの男性の声が耳に飛び込んできた。
『我望む。其方と共に日々幾月幾年重ねる事を』
読んでくださり、ありがとうございました。
アサギ君、女王様に嫉妬バリバリですwww
ずっと大事に守ってた末っ子が、自分とは出来ないのに他の人と自由に会話してるのが歯痒くて歯痒くて………。
「ナナはオレ(達の)ものなのに!」
な、暴走アサギ君の選んだ道は………。




