子育ては森の中⑩
みなさん、こんにちは。
なんと現在、あかねのお気に入りの花畑で花の妖精女王様のお茶会に参加しているナナです。
なんと言えばいいか。
女王様、流石の規格外だったよ。
女王様が優雅に手を一振りした途端、薔薇の木の直ぐそばに豪奢な作りのテーブルと椅子が現れ、日差しよけのパラソルが現れ……。
次の一振りでテーブルには繊細なレースのクロスがかかり、その上には湯気の立つ香り高い紅茶に彩り鮮やかなケーキや様々な焼き菓子が鎮座してた。
甘い香りに呆然としてたら、流れるようなエスコートで気がついたら椅子に座ってたよ。
久しぶりの焼き菓子は、言葉が出ないほど美味しかった。
それほど甘党だったつもりもなければ、普段食べてた果実類も甘かったんだけど……。
砂糖。砂糖がっ!!
果糖と砂糖の甘味は別物なんだって、しみじみ思ったね。
さらに言えば、温かい紅茶もね。
というか、そもそも椅子とテーブルに座って何かを食すって行為自体がね。
文明って大事だ。
少なくとも、慣れ親しんだ文化って大事。
「キューン」
心配そうな声と共に、アカネに頬を舐められてやっと気づいた。
やけに視界がぼやぼやすると思ったら、涙が溢れてたんだ。
「あ……。違うにょ……かにゃしいとかじゃにゃいかりゃ……」
なんで、泣いてるんだろう、私。
止めようとしても止まらないし、鼻が詰まっていつもよりも舌は回らないし……。
「ううぅぅ〜〜」
言葉にできない込み上げてくる何かに、衝動的にあかねの首に抱きつく。
肌に馴染んだふわりとした柔らかな感触に包み込まれ、少しホッとした。
すかさず、背後からも温かな感触がすり寄ってくる。
そうして、あっという間に、もふもふもこもこに囲まれた。
押し付けられる鼻の冷たさや気遣うように舐めてくる舌の優しい感触。
伝わる温もりがなんだか幸せで、気がつけばくすくす笑いが溢れる。
「ふふ。だいじょーぶよ。ありあと」
抱きついてすりすりと頬ずりを返し笑っていると、クスクスと涼やかな笑い声。
「アカネさんに聞いていた通り、本当に仲が良いのですね」
優しい声に、慌ててみんなの隙間からずぼりと顔を出すと、声の通りに優しい笑顔と目があった。
「落ち着いたのなら、出てこれるかしら?」
促され、みんなをよじ登るように抜け出せば、ふわりと抱き上げられた。
「いきなりの事で驚いてしまったのね。もう、大丈夫?」
覗き込まれ、こくこくと頷きを返す。
さすが花の女王様。
抱っこされてるとなんとも言えない良い香りがして、うっとりしちゃう。
「らいじょーぶでしゅ。泣いちゃってごめんなしゃい」
「まぁ、可愛い上に礼儀正しいなんて。なんで良い子なのかしら!」
抱っこされたままペコリと頭を下げれば、ギュッと抱きしめられて頬に優しくキスを落とされた。
「私ともお友達になってくれるかしら?私はここから動けないから、会いにきてくれると嬉しいわ」
キスされた頬からぽわんと温かくなった。
「はい。お友達なりましゅ。お友達、うれしいでしゅ!」
コクコクと頷けば、嬉しそうな笑顔と共に先程とは反対の頬にもう一度キスが落とされた。
「そう。ナナは別の世界からきたのね。だから、魂の色が変わっているのね」
お茶会の続行は女王様の膝の上でした。
なぜだ。
そして、せっせとお茶やお菓子を口に詰め込まれてます。女王様に。………解せぬ。
とはいえ、離してもらえないし、みんなのもふもふとはまた違う柔らかな感触といい香りに負けて現状を受け入れました。
長いものには巻かれる主義なのさ!
あ、ちなみにみんなは当然イスには座れないので、テーブル周辺でゴロゴロしてるよ。で、小さな妖精さんたちが、せっせとおかしをはこんでるの。かなりメルヘン。
で、食べる合間にこれまでの事を話していたら、女王様が納得したように頷いた。
「たましいのいろ?」
不思議ワードにこてんと首を傾げる私に、女王さまが簡単な説明をしてくれた。
いわく。
生き物全てには魂があり、その体をうっすらと覆うようにオーラのようなものが出ているんだそう。
その色によって使える魔法属性が分かるんだけど、私の魂はもともと無色透明なんだって。
だけど、今は緑と赤がマダラに混ざってるそう。
コレは、後天的なものらしく……。
「たぶん、魔素の強い果物を食べ続けたおかげでしょうね。後は、銀狼たちと暮らしているうちに感化されたんでしょう」
「さいしょはまほうにゃんにもつかえにゃかったの」
なんと!
食べ物のおかげで魔法が使えるようになるとは!
そんなんなら、新しい属性ゲットし放題?!
「この土地の植生はかなり特殊だから。それにナナの魂にもともと色がなかったから染まりやすかったのでしょう。だいぶ今の色で馴染んでるから、これ以上属性が増えることはそうないのではないかしら?」
どうも、欲望が声になっていたようで、残念そうな顔で慰められた。
「でも、魔法つかえるようになっちゃからいい」
もともと0だったんで、贅沢は言いませんよ!
二つ使えるようになっただけでも御の字です!
「せっかくだから、私の水と光の魔法も分けてあげましょう。お友達記念よ」
ニコニコの女王様がチョン、っと額にキスした瞬間、フワリと不思議な力の渦が私を取り巻き、すぐに消えてった‥‥けど……。
「あたらちいまほう?」
え?コレで使える属性増えたの?マジで?
てか、お友達記念って、そんな簡単にあげちゃっていいものなの?
「まだ弱い魔法しか使えないけど、いっぱい使ってどんどん育ててね?」
「あい!」
疑問はお空に放り投げよう。
女王様が良しとしたからにはいいんだろう!たぶん。
そこ、現実逃避って言わない!
だいたいこの世界の現実なんて知らないから、にげようないもんね〜〜だ!
その後、お腹いっぱいになったのでおろしてもらって、腹ごなしにみんなで追いかけっこしたり、お花で首飾りや冠を作ったり。
とっても楽しい時間を過ごしたんだ。
「あら?眠ってしまったの?」
膝の上に抱いていた小さな体から急に力が抜けて、そっと覗き込んだ女王は、そのあまりに幸せそうな寝顔にくすりと微笑んだ。
『ナナは小さいからすぐに寝ちゃうのよ』
同じ様に身を乗り出して覗き込んだアカネが嬉しそうにそっとナナの小さな頬を舐めた。
膝の上でスヤスヤねむるナナの上に妖精たちがドンドン花を乗せていく。
「あらあら。そんなに載せたらナナが埋もれてしまうわ」
花の布団、とでもいう様に積み上げられていく花に、女王が笑いながら軽く手をかざす。
途端に花はフワリと薄い1枚の布に代わってナナを優しく包み込んだ。
『ナナを護るよ』
『ナナすき〜〜』
『コレで温かいよ』
『コレで痛いこともなくなるよ』
小さな妖精たちが嬉しそうに笑いながらナナの周りを飛び回り、髪や頬にチョンチョンとキスを落としていく。その度に小さな光が弾けた。
『ナナ、妖精の加護がいっぱい』
アカネがその様子を目を丸くして見つめた。
花の妖精の加護は幸運を連れてくると言われている。
一つ一つは小さな加護でもコレだけの数をかけられれば、大変なことになりそうだ。
『おまけに花の妖精布まで。いいんですか?』
シオンがナナを包む薄布をそっと鼻でつついた。
妖精女王の住む花園の花は特別で、万病を治す力や生命力を増加させる力を持っている。
妖精布とはその花を女王の力で織り上げたモノで、身に纏えば万病からその身を守り、また、暑さや寒さはもちろん、魔法などの物理攻撃も跳ね返してくれる特別なモノだった。
「だってナナはこんなに小さくてか弱いのですもの。コレくらいしなくては、とてもこの森で生きていけないでしょう?」
ナナの髪を撫でる女王の目は愛おしげに細められていた。
「あなたたちが慈しむのもわかるわ。こんな純粋でそれゆえに傷だらけの魂。護らずにはいられないもの」
『ナナはオレたちのだから、やらんぞ?!』
慌てた様に駆け寄るアサギが、ナナにまとわりつく妖精たちを振り払い、威嚇する。
妖精は時に人の子らを取り替えてしまったり拐ったりするのだと知っていたのだ。
争うには分が悪い相手だが、ただ黙って見過ごせるわけもない。
『アサギ!失礼な事をしないの!女王様、ナナの友達になったんだから』
アカネが怒ったようにガウッ!とアサギを押さえつけた。逃げようとすれば、シオンまでアカネの味方をしてアサギを押さえつける。
その様子に、花の妖精女王はクスクスと楽しそうに笑った。
「そうですね。友は護るものであり、閉じ込めるものではないですから」
その言葉の真意を確かめる様にアサギはジッと女王を見つめる。
その視線に、女王はやけに人間臭い仕草で肩をすくめてみせた。
「それにあなた方から引き離して閉じ込めて仕舞えば、きっとこの魂はさらに傷つき今度こそ歪んでしまうでしょうから」
その言葉に、アサギはようやく体から力を抜いた。
『ナナを泣かせたらしょうちしないからな』
どこか不貞腐れた様な声に、涼やかな笑い声が重なった。
読んでくださり、ありがとうございました。
世界観の説明をとも思いましたが、それはまた今度。
花の妖精たちに大人気のナナちゃんです。
ちなみに魂の色のうちわけ。
赤→火 緑→風 青→水 白→光
ナナちゃんの魂かなりカラフルになりました。




