子育ては森の中①
でっかい狼が幼女を腹にくるんでペロペロするのが書きたかった。てか、子供が書きたかった。衝動任せにつき最後まで息切れしないといいなぁ……。
「グルル……」
優しく鼻先で突かれながら、温かなお腹の辺りへと押し込まれる。
お母さんのフワフワの毛が優しく私を包み込み、更に優しく顔を舐められれば、条件反射のように眠気が私を襲った。
グルグルと喉を鳴らす優しい低い音に応えるように、小さなキュウキュウという甘えた声がすぐ隣から響く。
そうしてフワフワの塊が折り重なるように私を取り囲む。
1番ちいさくて毛の無い私が寒く無いように、兄弟達が温めてくれようとしているんだ。
今日もたくさん兄弟達と遊んで、ご飯も食べてお腹いっぱい。
モゾモゾと心地よい場所を探しているとと1番上の兄が、鼻先をすりすりとして「おやすみ」というように小さく鳴いた。
お母さんのお腹が呼吸のリズムでゆっくり動き、温かなモフモフに包まれて、強い眠気に抗うことも出来ず私は大きく欠伸をして瞳を閉じた。
ここは、なんて幸せなんだろう。
おやすみなさい。
起きたらまた遊んでね………。
はい。皆さんこんにちは。
私の名前は佐伯菜々(さえき なな)。
この間二十歳を迎えたばかりの勤労少女だよ。
ブラック通り越した暗黒な職場は、24時間稼働の下請け部品工場。15から働いてる私は立派なベテランさんだ。
大体長くて3年早い人は初日で辞めるからね。
今時中卒ってことで察するものはあるだろうけど、なかなかに波乱に満ちた半生を送ってきたと思う。
まあ、暗いし長くなるので割愛。
そんなことより現状の方が異常だから。
現在、私、もの○け姫真っ青の森の中で巨大な狼っぽいモフモフに育てられてます。
はい、拍手〜〜!!
あ、比喩じゃなく。
ものの○姫と違うのは、うちのモフモフさんは喋りません。
その代わり魔法が使える不思議生物です。
火を吹いたり風を使って空飛んだり?できるみたい。
わぁ、ファンタジー!
言葉は喋らないから意思疎通は鼻先で突かれたり咥えられての強制移動。
まぁ、他の小狼と同じ扱いだし、文句も言いません。
傷一つつけない丁寧移送だしね。
一月も一緒に過ごせばなんとなく鳴き声の判別もつくようになったし。
すごいね!人間の順応力。
え?そもそもなんでそんなことにって?
ある朝。
いつも通りに「人手が足りないから残って」との軽いお言葉のもと10時間のサービス残業を終えて帰る最中。
貰い物のガタピシ自転車で坂道降りてる時に、茂みから猫が飛び出してきてさ。
とっさに壊れかけのブレーキかけるも、よりにもよってこのタイミングで完全に壊れたらしく止まらず、反射的にハンドル切ったら車線またいで反対側のガードレールにぶつかって華麗に縦方向1回転しての空中遊泳。その先は崖。
で、人生オワタと思うじゃ無い?
目をつぶって衝撃に備えたら、なんでか落ちたら水の中。
怪我はしなかったけど別のピンチにパニクって暴れてたら、溺死寸前のところを狼母さんに助けられまして。
で、なんかよくわかんない生物だけど小さいし弱ってるっぽいしで、子育て真っ最中だった母さんの母性を刺激したようで。
そのまま巣にお持ち帰り。
3匹いた子狼もなんでかあっさり私の存在を受け入れて、末っ子として育てられる←イマココ。
最初はね?
意識朦朧としてて訳わかんないながらも、咥えられて運ばれて、自分と同じくらいのサイズの獣の中に落とされた訳で。
あ、私がご飯?なんて、思ったさ。
けど、次の瞬間にはお母さんの腹の下に他の子共々しまいこまれ、大事に毛繕いされて温められ、あれ?コレ私も子供扱いされてるって理解して。
逃げようにも徹夜で労働からの無理やり水泳全身運動で疲れ切ってた私。
ヌクヌクの極上モフモフについうっかりマジ寝して、起こされて、ご飯貰って(オッパイは流石に人としての尊厳で拒否したらどこからか果物出された。美味かった)。
お腹一杯になってついまた寝落ちて‥‥ってやってるうちに現状に馴染んでしまいました。テヘ。
兄弟達は形も違えば意思疎通もできない私に最初はかなり不思議そうだったけど、「そういうものだ」と理解したようで、今では末っ子として可愛がられてます。
そこに至るまではちょっと大変だったけど。
何しろこちらは毛皮もなければ爪も牙もない紙装備。
あちらは軽くじゃれついたつもりでも、転がされて擦り傷だらけ。かけっこすれば1人取り残され、気がつけば迷子になる。
ミソッカス認定はすぐだった。
けど、『自分より弱い存在』というのは子供達の琴線を擽りまくったらしく。
移動は兄弟の誰かの背中。戯れるのは尻尾でこちょこちょとソフトタッチ。
風を纏える様になれば、高いところの木の実をとってくれるなど、かなりの至れり尽くせり。
代わりになってるかは分からないけど、兄弟の毛繕いを私は頑張った。
水浴びでゴシゴシ毛を洗い、ブラシは小枝をまとめたものを自作して丁寧に縺れをほぐし。
フワフワ小狼の手触りは控えめに言って最高だったし、兄弟達も気持ちいいらしくウットリと転がってた。
獣以外見たことがない深い森の中。
どうやらここは日本じゃないよな〜〜とは、薄々感じてたけど(というか狼が火を吹く時点で地球でもないっぽいけど)。
他に選択肢もないし、お母さんも兄弟も優しいし、もうこのままここで暮らすのも良いよなぁ〜〜なんて。
だって、過去最高に甘やかされて幸せだし。
お腹空かせることも痛いことも辛い事もない。
言葉なんて私を傷つけるものも存在しない。
叱られる事はあるけど、それは私が危ないことをした時だけで、そのあとは、ちゃんと優しく毛繕いして宥めてくれる。
控えめに言っても最高だ。幸せしかない(大事な事なので2回いう)
そうして、冒頭に戻るのである。
あ、大事なことをもう一つ言い忘れてた。
私、体3歳児くらいに縮んでた。
わぁ〜〜ファンタジー!
読んでいただきありがとうございます。
この調子でしばらく子育て続きます。ほのぼのしたいです。