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王女の秘密

国王と少女の後ろについていって玄関らしき広間から外に出る。


「うわぁ〜すっげぇ、本物だ…」


振り返って建物を見上げて実感する。

薄々感じていたが、やはりとんでもないでかさだ。

すごい先入観あるけど王朝レベルの昔にありそうなデザインだ。


「何ぼさっとしてんの!さっさとついてきなさいよ!!」


少女に言われて我に返り、先行する国王と少女を追いかける。


「ふん、これだからへたれは」


俺が追いつくなり少女が小声で呟く。


「あのさ、まさかとは思うけど……王女様、なのか?」


さっきはどたばたしてて聞けずじまいになっていた疑問をぶつける。


「ふふふ、そうよ。私はこの国の第三王女、シェリア様よ!そのできの悪い頭で理解できたのならもっと私を敬いなさい!」


「……ぶふっ」


さっきまで不機嫌そうだったのが、急にドヤ顔&仁王立ちで答えてくるもんだから思わず吹き出した。


「ちょっと何がおかしいの!?言いたいことがあるなら言ってみなさいよ!」


「いやぁ、とても王女とは思えない口の聞き方だと思ってさぁ」


「なんですって!?もう一回言ってみなさい!次言ったらぶっとばす!!」


「いや、なら言わねぇよ!」


「ほぉ、すでに仲がよいのだな」


「どこがですか!」

「どこがよ!」


俺と王女の今思えば不毛なこの言い争いは目的地に着くまで続いた。





「ここだ。着いたぞ」


「ふん!やっと着いた。こいつのせいですっごい長く感じたわ」


「この建物は……何ですか?」


城を出てしばらく歩いたところにある飾り気のない謎の豆腐建築物の前に立っていた。


「これからこの街の北門まで移動するが、君は転移魔法は初めてだね?」


「転移魔法、ですか?」


まだ種類があったのか。この王女、魔法は七種類とか言ってたけどあれは戦闘向きかなんかってことか?


「初めてなら絶対具合悪くなるわね。まぁ吐いたら殺す」


いちいちうざい。王女ならもう少しおしとやかに振る舞えないものか。


「ひとまず中に入ってくれ」


国王と王女に続いて俺も建物の中に入る。


「ん?何も、ない?」


しきりはなく部屋は一つのみで、インテリアどころか物が一つも置かれていない。


しかし、そんな中で圧倒的な存在感を放つ異物が一つ…


「真ん中にある大きな円があるだろう?あれが転移魔法陣だ」


部屋のちょうど中心に照明とは違う、淡い光を放つ円形の怪しげな模様が彫られていた。


「ほ、本物の…」


「ほら、さっさと乗って」


王女に背中を押されて魔法陣の上に立たされる。

しかし、上に乗っても特に何か感じるものはない。強いて言えば風はないのに服が少し揺れていること。


「おぉ……俺にはわからんが、これが魔力…」


「二人とも準備はよいか。ではゆくぞ」


国王の体の周りに魔法を使うときに生じる魔力と思わしきオーラが発生し、それが地面の魔法陣に流れて吸い込まれていく。

それに伴って地面の魔法陣が青白く輝き始め、何とも言えない体が浮くような感覚に襲われた。


「うわっ、うっ浮いてる!?」


「気のせいよ。そう感じるだけだから静かにしなさいよ」


部屋全体が光り輝き、反射的に目を閉じる。


体が浮いてる気がする。

あと揺れ。それも頭だけが揺れているような……とにかく気持ち悪い。


「うぉあっ………ってて」


必死に気持ち悪さと格闘していると、ずんっと急に重力が戻ってきて尻餅をついた。


「はぁ、あんた何やってんの?もう着いたわよ。さっさと立って」


「うぅっ、具合悪ぃ〜、気持ち悪ぃ〜」


まだ頭が回っているようで気持ちが悪い。下手に動けば多分吐く。


「では、私は先に言って準備をしておく。シェリアは彼の具合が良くなるまで見ててあげなさい」


「えぇ!?なんで私がっ、ちょっとお父様!!」


国王は笑みを浮かべてこの場を立ち去った。


「はぁ、なんで私がこんなやつの面倒見なきゃならないの?ていうか、あんたもいつまでそこに座ってんの?こっち来なさい」


少女の肩を借りてなんとかこの建物から脱出し、近くにあったベンチに腰を下ろした。


「ほんとに……移動、してる…」


建物に入る前の場所とは明らかに違うところだ。こんな壁はなかったし、そもそも建物の外見が違う。


「ここはこの国の北にある陸軍の基地よ。市民が生活している街を囲むように四ヶ所、城の裏に一ヶ所の合計五ヶ所にある防衛基地のうちの一つね」

「私たちが保護されたのはここ、北門の外ね」


なるほど。どうりで兵士っぽいやつらしかいないわけだ。


「あんた、もう立てるでしょ?そろそろ行くわよ」


「あ……あぁ…」


少しましになったとはいえ、まだ体調の優れない俺を半ば強引に立ち上がらせて腕を引っぱって門の方まで連れていった。




「おぉ、来たようだな。調子はどうかね?」


「まぁ、多少ましになった程度です…」


「はぁ、なんかむかつくわ。ちょっと頭貸して」


王女は近づいてきて気持ち悪さのあまりにうなだれる俺の頭を鷲掴みにする。


「『リフレッシュ』」


俺の額に触れた手に魔力が込められると、今までずっとしていた頭痛がかなり引き、気持ち悪さのほとんどが解消された。


「お、おぉ、すげぇ!」


「所詮は姉様の真似(魔法)だし、回復系は苦手だから効果は薄いと思うけど、多少は良くなったでしょ」


「あぁ!おかげで大分楽になった。ありがとう王女様!」


「なっ……あんた勘違いしてそうだから言っておくけどね、私弱いやつが嫌いなの。だからさっきの雑魚キャラみたいなあんたをみてイライラしたから治しただけ。わかった?」


顔をそらして俺と少し距離をとってつらつらと説明する王女を見て王様が笑みがこぼす。


「すまんな。昔から自分の気持ちを伝えるのが苦手なようで、今のもあの子が君を心配してやったことだ。だから悪く思わないでやってくれ」


「はい、大丈夫です。ちゃんと伝わってますから」


「ちょっと!何をこそこそ話してるのよ!」


王様と二人で会話しているのを見て王女がこちらにどすどす歩いてくる。


「なんでもねぇって。そんなことより早く行きましょう、王様」


「そうだな。では早速向かうとしよう」


王様は門の前に並んでいる角の生えた馬の名前は知らない馬具に足をかけて軽々飛び乗った。

その隣を見ると少女もいつの間にか馬に乗っていた。


「あの、一ついいですか」


「どうしたのかね?」


「僕、馬乗れないんですけど」


日本で毎日普通に生活していた俺が馬を乗りこなせるはずがない。乗ったことはあるがそれは俺がまだ小学生の時の話だ。


「ふむ、ではシェリアの後ろにーー」


「絶っ対に嫌!!!」


今までで一番嫌そうな顔をして王女はそう言い放った。


「そ、そこまでか…」


「嫌よ!!何されるかわかったもんじゃないわ!!あんたが私にしたこと、忘れたとは言わせないわよ!!」


ギクッ。そうだ、いろいろあって忘れてたけど、俺は初対面で…


「ふむ、よくわからんが、シェリアがそこまで嫌がるのなら私の後ろに乗りたまえ。君には話したいこともある」


俺は王様に引き上げられて後ろに乗った。

思ったより馬がでかい。生で見たことないけど、ばん馬とかがこいつと同じくらいだったような気がする。テレビで見ただけだが。


「では、行くとしよう」


そういって王様が馬を首をとんとんと二回叩くと馬が走り出した。

続いて王女の馬、そして完全に忘れてたけど王様の護衛が王様の両サイドについて門を出た。


出てすぐ正面は森。左に向かって整備された道が続いていて、道沿いに走っていく。


「どうだ?少し怖いかね?」


「いえ、特に問題はないです」


想像以上の揺れであるものの恐怖はない。というか少し楽しい。


「ならば少し、シェリアの話をさせてもらおう」


「あっ、是非お願いします!」


あの王女のことは少し気になる。たまに複雑な表情をすることがあるし。


「あの子には二人の姉がいてな。どちらも素晴らしい魔法の才能を持っていて、長女はこの国で最も優れた攻撃魔法の使い手。次女はこの近辺の国を併せてもトップクラスの回復魔法の使い手なのだ」


次女は俺たちの傷を完璧に治してくれた姉のことだな。なるほど、あの王女が威張っていた理由もうなずける。

長女はまだ会ってないけど、すげぇ人だな。あの王女の姉なら相当攻撃的な感じなのだろうか。


「そしてあの子、シェリアにも素晴らしい才能がある。それはすべての魔法を使えるというものだ」


「すべての魔法、ですか」


すべての魔法ってのは、そのまんまの意味か?


「あれ、でも王女様は人によって得意不得意はあれど、使おうと思えば使えると…」


「確かに、理屈で言えばその通りだ。その話を聞いたときあの子から魔力の変換効率の話はされたかね?」


「はい。不得意な魔法は魔力の変換効率が悪いから使用が難しいと」


「そうだ。簡単な魔法ならばそもそも必要な魔力が少なく、不得意属性でも使うことができるが、大きな魔法ならば話は別で、使用するのは難しい」


そうか。理屈だけで言えばどんな魔法でも使えるけど、それは魔力があればの話。自身の魔力量によって必然的に使えない魔法が出てくるってことだな。


「話を戻そう。シェリアはすべての魔法が使えると言ったね。それはあの子に不得意な魔法がないということなのだよ」


「え?それじゃあ……王女様は本当にすべての魔法を自由に使えるということですか?」


国王の話を聞く前と後とじゃかなり意味が変わってくるぞ。見方によっては出来のいい二人の姉よりすごい才能ともとれる。


「だが、あの子には一つ問題があってね」

「それはあの子の魔力量が平均か、それ以下しかないのだ」


「ええと……ということは、たとえ魔力を最大効率で使えるとしても、使うことができない魔法があるということですか?」


「その通りだ」


たとえ不得意のない万能型だとしても、魔力が足りなければその魔法を得意としている魔力を持った使い手には劣ってしまう。

それに継続戦闘も無理だろうな。王女が火の魔法を撃った後、かなり息切れしていた。あれはそういうことだったのか。


「あの子はこれを気にしていてね。天才の姉二人と比べてしまって自分が出来損ないだと思ってしまっているんだ。だからしばしばあの子の祖父、つまり私の父が建てたあの塔に行って様々な文献を読んで魔力量を増やすための訓練をしているのだそうだ」


なるほど。あの森に入るという危険を冒してまであの塔に通っていたのは自分の弱点を克服するためだったのか。

誤字、脱字やおかしな表現などありましたらご指摘いただけると幸いです!

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