異常の始まり
日本時間 8月12日
ー神界ー
霊魂管理局 選別部 転生課 能力調整室
「はぁ、ここ最近は仕事少なくて暇だよなぁ」
「まぁな。でも多いよりは少ない方が断然いいだろ?それだけ俺らも人間達も平和ってことだし」
「まぁそうなんだけどさー。でもさ、なんかもっと刺激が欲しいっていうか、なんなら大量の霊魂が一気にここに来るくらい異常なことでも起きねーかなって」
「アデル、それは不謹慎すぎるだろ。さすがに自重しろ」
霊魂管理局 選別部 転生課
ここは様々な世界で死んでしまったあらゆるモノの魂が一度集まる施設で、死んでしまう前のその魂の持ち主だったモノの経歴を調べて選別し、天国や地獄へ送り届けることが主な仕事である。
中でも転生課には一際重要な役割がある。
それは様々な世界を監視し、そのバランスを調整することだ。
ここではどんなに小さな情報でも細かく調べることができ、それによってある世界の均衡が崩れかけていたり、もしくは対応が間に合わずに世界が崩壊してしまった状態でかつ、まだその世界を救うことができる可能性がある場合に限り、特別措置として『転生』が行われる場合がある。
転生課はその「転生」に大きく関わる仕事をしている。
「そんなに忙しいのが良いってんなら、日本の戦国時代ってときにここで働いてればよかったな」
「あぁ、それ聞いたことある。かなりの頻度で大量の霊魂がきたっていうやつだろ?大変すぎてあんま仕事多くないはずの転生課でもやめるやつが続出したっていう」
「大体はそれで合ってるけど、ここの職員が次々やめることになったのは、同じ時期に他の世界でも図ったように死者が続出したらしくてな。毎日転生のオンパレードだったんだと」
「うえぇ、それじゃあ地球人だけじゃないってことかよ」
「地球以外の世界への転生はめんどくせぇんだよなぁ。魔力たか余計な力持ってるし」
「あー、やっぱ前言撤回。忙しいのはごめんだ」
「まぁ、今はそんなこと起きる予兆はどこも無いし、俺らが担当してる日本だって今はかなり死者も減っているしな」
「でも一日で死んだやつの中に絶対一人はかわいそうなやついるよなー」
「ほら、今日だって一人、関係ない事故に巻き込まれて電車にひかれて死んだってやついるし」
「本当だ。気の毒だなぁ、まだ若いのに」
「転生させてやりたいところだが、そういうわけにもいかんしなぁ」
アデル、イリザー。
この二人は転生課の能力調整室で働く職員であり、特に日本の死者の転生における、新しい世界での能力値や才能の決定に大きく関わる仕事をしている。
「暗い話はこのくらいにして、俺は腹減ったから飯にするよ。まぁなんもしてないけどな」
「んじゃ俺もー」
普段はそのモノが一つ失われたからといって簡単に世界のバランスが崩れることはない。
そのため転生措置はほとんど行われることはなく、普段は仕事がほとんどなかった。
「むっ、お前の持ってるそれは地球人の最高傑作の一つ、〈緑のヒグマ〉では?」
「そういうお前だって〈赤いイタチ〉だろ?それ」
「くっ、今日はイタチの気分だったんだがなぁ」
「ちょっとその天ぷら、一口くれまいか」
「ふん、何を言い出すかと思えば、天ぷらを食わすなど愚の骨頂だ。戦士たるものそう易々とこれをくれてやるわけがーー」
「おーっと、あんなところにビキニのリッタ姉さんが〜」
「なにっ、どこだ!リッタさーーん!」
「おらぁ!!隙ありぃ!!」
「なっ!てめぇよくも!!」
「ふん、わけわからんキャラに目覚めて簡単に敵に背を向けるからそうなるのだ。恥を知れ、愚かな戦士よ」
「貴様ぁーー!!返せ!俺の天ぷらぁーー!」
「待て待て!一口だけだって!ちょっ、こぼれてるって!」
ふたりが取っ組み合って汁を撒き散らしていたとき、突然入り口の扉が開いた。
「こるぁあーー!!てめぇら何してんだ!!」
「げっ、リッタ姉さん!」
「リ、リッタさん!」
入ってすぐに二人に怒声を浴びせたこの女性は二人の上司のリッタ。この通りの鬼上司だ。
「またお前らは…しょうもねぇことでいちいち喧嘩すんじゃねぇ!!」
「そんなに喧嘩してぇんならよそでやれといつも言ってんだろ!!」
「すみませんでした!姉さん!」
「すみませんでした!姉さん!」
「まったく何度目だ貴様ら……てか姉さん言うな!これも何回も言ってんだろ!」
この三人が日本の死者の転生を担当しているメンバーだ。
「休憩もいいが、ちゃんと仕事してるんだろうな?場合によっては私がお前らの首をはねることに………」
上司の視線が二人の後ろのモニターを捉えた瞬間、動きが完全に停止した。
と、同時に目を見開き、顔中から汗が吹き出してみるみる顔が青ざめていった。
「あ、あの〜、姉さん?」
「お、お前たち………あれは一体、どういうことだ…」
普段は動揺を見せることのない上司がここまで焦っているのを見て、二人は恐る恐るモニターの方を振り返った。
「おい……これって…」
「まっ、ま、魔力が………」
モニターを確認した二人はすぐに事の重大さを理解し、愕然とした。
そこには、筋力、持久力といったような基本的な身体能力は平均的な値だが、魔力の値だけがこの能力調整機器の調整限界値、つまり魔力だけが完全に振り切り、とんでもない数値になったまま転生が決定した一人の男が大きく映し出されていた。
「な、なんで……こんなことに…」
「まさか、あの時お前がバランス崩したときか!?」
「お、俺のせいじゃないぞ!!?」
満身創痍の頭で必死に思考を巡らせる。
『ピーーーッ、これより転生の準備に取りかかります。』
機械音のあとに続いて転生準備に取りかかるという音声が流れ、この場の三人に悪寒が走る。
「まずいまずい!急がないとこのままじゃ!!」
「一体誰のせいだと!!」
「誰かなどどうでもいい!!そんなことより早くなんとかすることを考えろ!!」
「言われなくてもやってますって!!」
状況は最悪だった。
世界の均衡を保つためにあるこの転生課が逆に均衡を破壊することなど、あってはならない事態であり、今までこういった前例もなく、後にどうなるかまったく予測がつかないからだ。
「くそっ!止まってくれ!」
『ピーーーッ、転生準備完了。まもなく転生を開始します。』
三人の努力も虚しく、転生の開始を知らせる音声が流れ、機器が実行段階に移行した。
「やばい!!もう止まんねぇぞこれ!!」
「くそっ!!てめぇらこれでどうにもならなかったら覚悟しとけよ!!!」
「うわぁー!間に合わねぇーー!!ちょっと待ってくれぇーーーー!!」
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