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水玉模様の友情

作者: 虚煌

 今なお学校一の秀才であるβ(ベータ)は、私の一番の親友だった。

 幼馴染で、小さい頃からいつも一緒に遊んでいたことを覚えている。

 彼女は昔から、何にでもよく気付く聡い子で、全ての面において私よりも優秀だった。

「だから、α(アルファ)。ここはこうなるんだよ」

「……成程! 分かった。やっぱり賢いね、βは」

「そうかな……えへへ」

 はにかむような柔らかい笑みを浮かべる彼女が何よりも好きだった。

 放課後、彼女はよく一人で図書室にいる。そこに押しかけて勉強を教わるのが、私の日課。

「同じ年に生まれたハズなのに、どうしてこうも出来が違うかなー。頭の中に何が詰まってるんだろう」

「……αも私も同じ」

「嘘つけー! きっとβの頭の中には辞書とか計算機とかが詰まってるんだ。私知ってる」

「それじゃあ私はサイボーグだね」

 あはは、って。

 ほら、また笑った。


 彼女は遠い光だった。

 いつだって私の手の届かないところにいた。

 暗闇を手探りで進む私は、その遠い光を掴めそうで掴めない。

 いつだって追い付こうと必死なのに、彼女はそんな私を柔らかい笑みを浮かべて見ているのだ。

 決して不快ではなかった。それどころか、その笑顔が好きだった。

 私がいつか追い付くのを待ってくれているんだ、って。そう思った。


 αはとてもいい子。

 いつでも真っ直ぐで、自分を曲げない。

 ひたむきで、努力家で。本当は辛い時もあるはずなのに、そんなことはおくびにも出さないで。何にでも必死で、全力で。


 αの周りには、いつも誰かがいた。

 それは私の知らない人だったり、たまに知ってる人だったりもしたけれど、凡そ知らない人だらけで。

 いろんな人のαを見る目は、とても温かくて、優しかった。

 誰にでも好かれるってこういうことを言うんだなって、そう思った。

 そんな人が私の親友で、幼馴染で、私も鼻が高い。

 私の一番の友達なんだぞって、何歳いくつになっても自慢できる。

 きっと彼女が助けを呼べば、大勢の人が彼女に手を差し伸べてくれるだろう。

 とても誇らしい。

 そんな彼女が、私は眩しかった。


 ねえ、α。

 あなたは、私に負けないぞ、追い付こう、って。とても頑張ってる。

 それは、とても嬉しいこと。あなたの努力はとてもひたむきで、見てる私も胸が温かくなって、ほんわりする。応援しなきゃ、って思う。

 でもね、でも……たまには、前以外を見て欲しい。

 横を向いて欲しい。後ろを向いて欲しい。

 あなたにとって『前』は、私じゃない。

 あなたの見ていない場所には、あなたの想像よりも遥かにたくさんの人がいるよ。

 私にはいない、あなただけの。助けてくれる人たちが、たくさんいるよ。


 だからね、α。私はそれに、気づいて欲しかったんだ――


 彼女は遠い光だった。

 いつだって私の手の届かないところにいた。

 暗闇を手探りで進む私は、その遠い光を掴めそうで掴めない。

 いつだって追い付きたくて必死なのに、あなたはそんな私と手を繋いでくれる。

 顔を見合わせて、笑った。

 ――遠い光だ。昔、見た光。


 私たちは、まるでシャボン玉のようで。

 相手のことは、ほとんど見えるのに、僅かに歪んで見えてしまって。

 それが、堪らなく悔しかった。


 ……あぁ、もう。こんな、感傷的な話はやめよう。

 ねぇ、××。


「――私は今日、20おとなになりました」


(fin)

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