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Lost Fantasia  作者: 巫 夏希
第一部
3/23

謁見 001

 リーガル城に、リュージュ達が乗った馬車が到着したのは、夜遅くのことだった。


「……魔女とお前達は、別の場所で過ごしてもらう」


 兵士の言葉に、リュージュは首を傾げる。


「何故だ?」

「逃亡を謀られても困るからな。魔女はそんなことをしなくても良いかもしれないが、お前達人間は違う。人間は知っている存在程脅威だと思うものだ」

「ふん。いつ聞いても、人間というのは血腥い生き物だよ」

「魔女はこっちだ。特等席を用意してある。そして……お前達は隣だ」

「隣?」

「そっちの方が管理しやすいからな」


 兵士はそう言って、隣に立っているもう一人の兵士に言う。


「おい、ガキどもの面倒は任せたぞ」


 線の細そうな、ひょろっとした見た目の男は溜息を吐いて、ゆっくりと頷いた。


「……分かったよ。魔女は任せたぞ」

「俺を誰だと思っている? シードル家の長男だぞ。かつて『終末戦争』で英雄と崇められているロイス・シードルの子孫だ」

「血統で偉そうな立場を取れるのは、先祖も望んでいないことだと思うがね」

「魔女も、そんな偉そうな口を利けると思っているのか? ……人間に使われて然るべきだと思うがね。人間はこの世界で一番知能指数が高く、一番この世界を使いやすく、一番効率的に動かしやすい。だからこそ、人間はここまで発展出来たのだと思うがね」

「……くくっ。面白いことを言う」

「何がおかしい、魔女」

「……私はそういう愚か者を沢山見てきたよ。そして皆死んでいった。成功した人間は誰一人だって居なかった。正確に言えば、一瞬成功した人間は居たが、最終的には転落してしまったよ。人間というのは確かに優秀だ。であるからこそ、滑稽だ。私のような存在からしてみればね……」

「ふん。……たかが長命なだけで、何が良いというんだ。そこにメリットなど何一つ存在しないだろうが」


 リュージュは笑みを浮かべて、自室へと歩き出す。

 歌うように、リュージュは言った。


「実際になってみないと分からないだろうよ、それに関しては」



  ◇◇◇



 部屋で一人、リュージュは空を眺めていた。


「それにしても……まさかこんなことになろうとは」


 実際、リュージュは外に出ようとはあまり思わなかった。彼女は全てを見通しているから、つまり今回のことも見通していたはずだった。であるならば、それを良しとせず、それに抗うことだって充分出来たはずだった。

 でも、それをしなかった。

 しようとはしなかった。

 何故だろうか?

 何故リュージュはそれをしようとせず、その見通した結果のままに行動しているのだろうか?


「……きっと、抗ったところでこうなるのは確定だったでしょうね」


 彼女は呟く。

 魔女リュージュとして、それに逆らったところで――修正力は働く。それは決して弱いものではなく、確固たる意思で動く強固なものであるのだから。


「もし、それに逆らうことが出来るとしたら……それこそ、勇者以外に有り得ない」


 勇者。

 世界を救うために生み出される、勇気ある戦士。


「それが、実際に現れるとしたら……それは即ち、世界の危機に繋がる。世界が危機に陥らなければ……勇者は姿を見せない。それは、そういうシステムの中に存在しているから」


 では、そのシステムが存在しなければ?


「それは、有り得ない。……かつて、勇者は姿を見せたことがある。勇者の意思は受け継がれ、血筋が途絶えたとしても、関係はないはずだ。もし、もしその運命を変えるような勇者が現れるとしたら、それこそ……」


 ――世界は、大きな転換点を迎えるだろう。



  ◇◇◇



「それにしても、こんなところに来たのに、全然外に出られないのは辛いよね」


 ミリアとラルドは同じ部屋で眠ることになった。別にそれについては何ら問題ない訳だが、しかしながら、ミリアはそんなことよりも大事なことがあるようだった。


「そんなこと言われても……無理なものは無理だろ。僕達には何も出来ないんだから。少しは諦めて、このまま時が来るのを待つしかないよ。下手したら、このまま村へ逆戻りする可能性だってある訳だけれど……」

「それだけは絶対に嫌」


 ミリアはベッドの上でぷい、と横を向いた。


「そんなこと言ったって……僕達じゃ何とも出来ないのは分かっているだろ。僕達の生殺与奪権は、リュージュと王様が握っているんだ。リュージュが僕達を見捨てることだって、十二分に有り得るんだ。だから、今は余計なことをしない方が良い。余計なことをして、僕達のイメージを悪くするのは、僕達にとっても、リュージュにとっても良くないはずだ」

「でも……」

「とにかく今は、やり過ごすしかないんだよ」


 ラルドの言葉に、ミリアはただ頷くことしか出来なかった。


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