学会 008
「……でも、それってどうなんでしょうね」
ボイドの問いに、リュージュは首を傾げる。
「何が? 何かモノ足りないことでもあるのなら、さっさと言ったらどう? 無論、私が全てそれを解決出来るとは到底思えないけれど」
「……いや、良いです」
「は?」
目を丸くするリュージュ。
ボイドは本を読み進めながら、呟く。
「……魔女には魔女の生き方があるのは、自然の摂理でしょう?」
「…………あんた、何を言っているんだかさっぱり分からないことを、時折口にするわね……」
「褒めているんですか?」
「貶しているのよっ!」
リュージュは顔を赤らめながら、図書館を後にした。
結局、いつまでも鈍感な学者風情である――という認識はリュージュの中で固まりつつあるのだった。
◇◇◇
「それで、リュージュはわざわざ自分の部屋まで戻ってきた、ってこと?」
リュージュのために用意された部屋は、王族仕様の部屋だった。一人で使うには持て余す程広く、ベッドも二つあるし、トイレも二つある。浴槽が一つしかないのがネックではあったが、リュージュにとっては少なくともそんなことどうでも良かった。
問題は、リュージュを結果的にこの世界に連れてくることとなった、ミリアとラルドのことだった。ミリアとラルドもなし崩し的にここまで連れてこられたが、その後の保証は何も確約されていない。
要するにミリアとラルドはこのまま孤児として、リーガル城下町に捨てられる可能性すらあった。国王がそんなことをしたとなれば、即座に人々から猛反発を受けるのは間違いないだろう。
しかし、リュージュとしては先手を打っておいた。ミリアとラルドの二人は、独房に入れるかどうか議論になっていたそうだが、リュージュが広すぎるこの部屋を二人にも開放するよう提言したのだ。
そんなすんなり行く訳でもなかったが、結局はハイダルク側が折れた形となり、ミリアとラルド、それにリュージュの奇妙な三人生活が幕を開けた次第だった。
「……いきなり何を言い出すかと思えば、ミリア、貴様は何が言いたい?」
「ミリア。流石に今の発言はどうかと思うぞ……」
ソファでごろごろしているミリアを見つめるリュージュ、そしてそれを見てあたふたしているラルドが居た。
「リュージュは、人間の生活に慣れていないんだから、少しは知らないと駄目だと思うけれど?」
「……まさか子供に人生観を説かれる時が来るとは思いもしなかったわね……。魔女って、長年生きているだけでも驚きと発見がいつまでもあるものね」




